「『私の体』についてのアドバイスをみんなのデータからつくろうと思っている」。ヤフーの「Yahoo!ヘルスケア」サービスの責任者の阿南愛氏は講演「ヤフーはなぜ遺伝子検査に参入したのか」で強調した。
ヤフーは10年前からヘルスケアのサービスを提供してきた。主なコンテンツは病院や病気を調べるもので、病気にかかってしまった人に使ってもらっていた。転機を迎えたのは2年前、ヤフーの経営陣が若返りを図った時だった。ヤフーは「情報技術で人々や社会の課題を解決する」というスローガンを打ち出した。

阿南氏は、「医療やヘルスケアの現場でITの力をもっと活用すれば、医療費の削減という日本の課題の解決に貢献できる」と考えた。特に重視したのが病気の予防だ。医療の現場そのものよりもヘルスケア分野の方が、ヤフーのITで貢献できる余地が大きいと判断した。
得意の予測技術を病気予防に活用する
こうした方針に基づいて、ヤフーは平常時から病気予防や健康管理に役立つセルフチェックのようなコンテンツを拡充してきた。ビッグデータによる予測技術を病気の予防に活用する方法も追求している。同社は、インフルエンザの流行の推移を、インターネットで検索される単語のデータから、かなり高い精度で予測できることを確認済みだ。こうした予測技術を活用して、感染が広がり始めた地域ではマスクの着用を呼びかけるメッセージを通知するといったことを検討している。
遺伝子検査サービスに参入したのも病気の予防や健康管理のためだ。家庭で簡単にできる遺伝子検査サービスの取り扱いを2012年の冬から始めた。最初は検査できる項目数が13項目しかなかった。現在は70項目となり、近く300項目にまで増える。
生活習慣病を予防する個別アドバイスをつくる
家庭用の遺伝子検査によって、遺伝病に関わる診断を下すことはない。検査が調べるのは生活習慣に由来する病気だ。健康管理の意識を高めて自身の行動を変えることで、生活習慣病の発症のリスクを下げることが可能だ。「こうした病気の発症を防ぐ上で、遺伝子検査サービスは決定的に役立つものになると考えている」(阿南氏)。遺伝子検査サービスを利用すれば、病気への一般的な対応ではなく、1人ひとりの体質に基づく健康アドバイスができるからだ。
ヤフーは今年3月に「ヘルスデータラボ」というプロジェクトを立ち上げた。6月には家庭用の遺伝子検査サービスを受ける1万人の無料先行モニターの募集を開始。「ラボ」という名前には「これからつくりあげてゆく」という意味を込めたという。
ヘルスデータラボは、ゲノムデータ、Fitbitのようなウェアラブルデバイスから得られるライフログ、健康診断データ、生活習慣アンケートのデータを収集する。これらのデータは匿名化してクラウド上でセキュアに管理する。大学や産業界の研究者と力を合わせて、そのデータから予防医療のエビデンス(証拠)を導き出し、成果をサービスの利用者に還元してゆく。「利用者1人ひとりに個別化した、『私の体』のための精度の高い健康情報のアドバイスをビッグデータから導き出すことが、ヤフーの挑戦だ」と述べて阿南氏は講演を締めくくった。