米リンクトインでシニアインサイトアナリストのニック・キャロル氏は、「BigData Conference 2014 Autumn」において「How Insights makes your life easy ~人材データインサイトがもたらす影響力~」をテーマに講演。同社のサービスをはじめ、データ活用手法などを紹介した。
ビジネスのグローバル化に伴い、優秀な人材の獲得は、企業にとって大きな課題となっている。2003年に米国で創業したリンクトインは、ビジネス特化型SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)として約3億人のユーザー数を擁し、データ活用で新たなサービスを次々と打ち出している。
リンクトインは世界200カ国でサービスを展開し、日本でも100万人以上が登録している。100万件以上の求人情報と350万社以上の企業が登録されており、ユーザーは自分の職務履歴などを公開し、転職やビジネスパートナーの検索、営業活動に役立てられる。
同社の事業の柱は、法人顧客向け人材採用支援とマーケティングソリューション、個人会員向けの有料プレミアムサービスである。キャロル氏は、「世界で最も効果的な営業とマーケティング力をもたらすために、研究とデータインサイトを創造することが、我々のミッションだ」と語る。
「人材獲得分野こそ、ビッグデータ活用が真価を発揮する」と、キャロル氏は力説する。同分野は業績測定や費用対効果測定が難しく、「企業は適切な予算配分に悩んでいる」(同氏)からだ。
「例えば営業部門は、売上げ達成率で業績状況を追跡/測定できる。つまり、成功を定量化できるのだ。しかし、人材獲得/採用部門は、よい仕事をしているかどうかの判断が難しい。そのため、採用担当者が人材獲得キャンペーンの予算を申請しても、却下されるケースが多い」(キャロル氏)
こうした課題に対し同社は、顧客企業の経営層が正確に意志決定できるよう、データに裏打ちされた分析資料を採用担当部門と作り上げ、人材採用部門を支援している。
キャロル氏は、「我々が所有しているデータの中には、顧客企業が持ち得ないデータも数多く存在する」と胸を張る。例えば、同社社員が分析に使える顧客企業別データUI(ユーザーインターフェース)を開発した。同UIでは、その企業のLinkedIn登録ユーザーを分析し、登録社員数、登録社員が持つコネクション(誰がどういった人とつながりを持っているか)、登録社員に対する外部からの参照状況といったデータを確認できる。こうしたデータを外部データと掛け合わせれば、「顧客企業が予想もしなかった」(同氏)ような詳細な分析が可能になるというわけだ。
職業を軸に人材の流れを把握、移民政策にも一役
同社は顧客企業向けに、様々なカスタム分析サービスを提供している。キャロル氏は一例として、過去1年間に実施した大規模顧客向け分析サービスの内容を紹介した。その顧客は、入社1年後の離職率が高いと感じており、それを改善する施策をリンクトインに求めたという。
最初にキャロル氏は、同業他社の定着率を分析して比較した。その結果、顧客企業の離職率が飛び抜けて高いわけではないことが分かった。次に同氏は、採用の課程でリクルーターが関与していたかを定量化した「採用状況データ」を重ね合わせて分析した。その結果、リクルーターが関与した人材のほうが、自発的に応募してきた人材よりも定着率が30%以上高いことが分かった。この分析結果を基本に、リクルーターを継続的に使うこと、さらに人材募集広告を見直すようアドバイスしたという。
現在同社は、「人材プールレポート」を顧客に提供している。これは、登録ユーザーから顧客の要望に合致した人材(群)を提示したり、業界のトレンドなどを調査/分析したりしたものである。これを活用すれば、例えば「特定の条件を満たした安価な労働力が存在する地域を見つけ出す」といったことも可能だ。
「韓国企業がグローバル規模でコールセンターの建設予定地を探していたとしよう。登録メンバー3億人の中から『韓国語がネイティブ』『年齢が33歳~43歳』といった条件のほか、特定の必須キーワードで絞り込む。そしてその人材がどこに住んでいるかを地図上に表示させると、世界中に分散していることが分かった」(キャロル氏)
現在同社は、10種類の異なるトピックで分析した人材プールレポートをWeb上に無償で公開している(レポート一覧ページ)。キャロル氏は「公開の目的は、我々がどういったデータを分析しているかを示すと同時に、データを活用してグローバル経済を多角的に紹介することだ」と語る。
同社のこうした取り組みは、各国の政府機関も関心を持っているという。キャロル氏は、「例えば、オーストラリアに住んでいた特定のスキルを持った人材が、過去3年間にどこに移住したのかといった情報も可視化できる。こうした情報は、同国の移民政策の参考データとなっている」と説明する。
最後にキャロル氏は「ビッグデータを収集しても、価値のある情報にまで加工できる企業は少ない。現在は毎秒2人の割合で登録ユーザーが増えている。つまりそれだけデータが追加されているわけだ。こうしたデータを活用し、さらに価値ある情報を提供していきたい」と語り、講演を締めくくった。