数々の顧客企業でデータベース・マーケティングを手がけてきた博報堂プロダクツの大木真吾氏が、「ビッグデータ分析で『顧客を見つける』、顧客化力10の発見」と題してBigData Conference 2014 Autumnの1日目となる9月3日に講演。データ活用の実例を紹介し、自らの経験から導き出した「10の発見」を披露した。
「データ分析の結果を解釈するフェーズや、その解釈を顧客の実際のアクションへと結びつけるフェーズでは、右脳的なひらめきやフィーリングも大切」
博報堂プロダクツ ダイレクトマーケティング事業本部データベースマーケティング部部長の大木氏は、データ分析・活用というと論理的な思考が重要だと思われがちだが、一連のプロセスには感性的な視点も必要だと指摘する。それらを裏付ける、自身が携わった2件の事例を説明した。
新たな顧客グループを見つけだせ
1つ目は、顧客の購買行動の予測に挑んだ日本航空(JAL)の事例である。様々なデータを分析することによって、顧客が次に何を購買するのかを予測することが目的である。
JALを交えたプロジェクトチームは、まず購買行動の仮説を立てていく。この段階ではデータには一切触れずに、顧客がどのような状況でどんな商品・サービスを購買しているのかを洞察し、思いつく限りを挙げていったという。これらの中から似たようなものをグループに分けした結果、「年に1回の贅沢(ぜいたく)旅行」「キャンペーン大好き」「夫婦でツアー申し込み」「お友達たくさん」「新婚さん」--など約70の行動仮説が出来上がった。
大木氏は「仮説を立てる段階でデータに頼ってしまうと、既に分かっているようなものしか出てこないことがよくある。まずは、データから離れて顧客の視点に立って、ひたすら想像を巡らせることが重要」だと強調する。同氏は、この取り組みを「仮説100本ノック」と名付けている。
今回の講演では、「女性同士の楽しい旅行、いわゆる女子旅」グループ(海外女子旅グループ)を例にとって、具体的な取り組みを説明した。ここからが、データ分析の出番である。海外女子旅グループとそれに含まれない顧客のそれぞれで、「年代」「渡航時期」「ウェブページ閲覧内容」「渡航先」などのデータを掛け合わせるクロス集計分析を行った。この結果、「海外女子旅」グループには、(1)海外搭乗経験が一定回数以上、(2)現地での滞在日数は数日間、(3)9月の搭乗経験が多い、(4)スマートフォン(スマホ)での閲覧割合が多い--などの傾向があることが判明した。
そして海外女子旅グループに含まれない顧客の中から、ロジスティック回帰分析という手法で、これと似た傾向がある顧客を抽出する。これが「将来に海外女子旅をするかもしれない」顧客、つまり「海外女子旅」の見込み顧客となる。こうして「海外女子旅をするかもしれない」層に訴求したところ、「海外女子旅をしないであろう」層に比べて売り上げが約10倍高くなったという。
あの夏、サバ缶はなぜ売れたのか?
次に紹介した事例は、POS(販売時点情報管理)データとソーシャルデータを組み合わせた分析である。2013年の夏、あるテレビ番組でサバの缶詰めがダイエットに効果があると紹介され、スーパーの店頭から消えるほどの大ヒット商品となった。
大木氏は、(1)サバ缶の販売数(POSデータ)、(2)「サバ缶」が含まれるツイッターのつぶやき件数、(3)「サバ缶」が含まれるブログの投稿件数――の3つが1日ごとにどう推移したのかが分かるグラフを表示。3つのグラフの推移を読み解き、いつ、どのような人が、どのような動機でソーシャルデータを書き込んでいるのかを説明した。
ツイッターやブログのつぶやきから、日を経るごとに情報が拡散していくとともに、質が変化していることを指摘した。具体的には、つぶやきの内容が「驚きと予測→渇望と報告→レシピ応用」と変遷している。
POSデータは年代別の推移も分かる棒グラフになっており、ソーシャルデータの解釈と併せて、その時々で生活者の間でサバ缶がどのように受け取られていたのか、その結果、どのような人がサバ缶を購入したのかという経緯を解説した。
「顧客を見つける」ための10の視点
講演の最後には、大木氏が自身の経験から導き出した「顧客化力10の発見」を披露した。具体的には、以下の通りである。
(1)購買の基本行動を知る
(2)誰が何を購買しているかを知る
(3)接点・商品・インセンティブと購買の関係を知る
(4)エリアと売り上げの関係を知る
(5)誰のための購買であったのかを知る
(6)購買の流れを知る
(7)購買の間隔を知る
(8)休眠顧客の状態を知る
(9)ロイヤルティー向上のカギを知る
(10)入り口とLTV(顧客生涯価値)の関係を知る
これらの視点について、大木氏は「データ分析には様々な切り口があり、迷うことも多い。しかし、どのようなケースでも、目的がマーケティングの課題を解決することである以上、分析視点において共通項がある。この10の視点があれば、たいていのことは発見できる」とアドバイスし、講演をまとめた。