2014年9月3~4日の2日間開催された「BigData Conference 2014 Autumn」において、NEXCO東日本の松坂氏が「スマート・メンテナンス・ハイウェイ(SMH)構想が、高速道路インフラの管理を大きく変える」、慶応大学の神武准教授が「IoT時代の位置情報サービスのデザインとマネジメント」と題してそれぞれ講演した。両氏ともこれから到来するIoT(Internet of Things)時代にインフラや生活に起こる変化の方向性を示した。

NEXCO東日本 管理事業本部管理事業計画課長兼SMH推進プロジェクトのチームリーダーの松坂敏博氏
NEXCO東日本 管理事業本部管理事業計画課長兼SMH推進プロジェクトのチームリーダーの松坂敏博氏

 「これまで常時監視していた電気、通信、機械等の高速道路上の施設に加え、橋梁やトンネルなどコンクリートや鋼製の構造物もセンサーによる常時監視の対象に加えていく」

 NEXCO東日本 管理事業本部管理事業計画課長兼SMH推進プロジェクトのチームリーダーの松坂敏博氏は、2020年に向けて昨年開始したスマート・メンテナンス・ハイウェイ(SMH)構想のコンセプトを説明する。NEXCO東日本は東京から北海道まで、東日本にある高速道路の管理を担当する企業だ。高速道路の老朽化の進展や、2012年の中央自動車道の笹子トンネル事故などを受け、インフラメンテナンスにおける新たな取り組みが必要との考えから、SMH構想を策定した。

 橋梁やトンネルなどコンクリートや鋼製の構造などのインフラは常時監視の手法を確立すること自体が難しいという。松坂氏は「インフラはコンクリートと鉄と土でできており、きちっと作れば50~100年もつ。だが、それぞれにかかる負担によってメンテナンスが必要な時期は大きく変わる」と説明した。「負担」とは、大型車両や過積載の車の通行量、積雪が多い地域でそれを防ぐためにまく塩の量などを指している。

 また、実際に橋梁などにセンサーを埋め込むにしても、どれくらいの数を埋め込むかといったことや、「GPS(全地球測位システム)では正確な位置までは分からないので、センサーの場所を判別するためには使えず、新たな手法が必要」(松坂氏)といった問題もある。さらに「一般的にはインフラの損傷というとひずみを測る、という話になるが、もっと細かなこと、例えばボルトのゆるみなども監視の対象に加える必要がある」(松坂氏)。

 そのため、どういったものを監視の対象にするか、どのような手法を用いてデータを蓄積・分析するか、必要な人材をどうやって育てるかといったことまで検討の対象にしているという。これまで目視で実施していた点検についても、ロボットによる全自動撮影を検討するなどしている。

 NEXCO東日本はSMH構想を実行するため、2020年度を目標に道路管制センターと連動した「インフラ管理センター(仮称)」の導入を目指すという。

 同センターのデータベースサーバーには、無人飛行体(UAV)を用いて上空から橋梁を点検する画像データ、橋梁や法面に設置したセンサーデータ、専用車両に搭載した各種センサーによる劣化や損傷のモニターデータ、作業員がスマートフォンから入力する現場の画像データなどが集まってくる。それらを集約して、ビッグデータとして分析する。

 松坂氏は「データ量が飛躍的に増えるため、ビッグデータ分析の重要性がさらに高まる」と総括した。

慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授の神武直彦氏
慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授の神武直彦氏

 慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授の神武直彦氏は「精度の高い位置情報をいつでもどこからでも収集するには?」「これを有効活用するには?」という2つの視点で、位置情報を活用した未来像を描いた。

 GPS(全地球測位システム)で使っている人工衛星は、米国が軍用目的で打ち上げたもの。有事の際には100~200メートルの誤差が人為的に加えられる。この問題を解決しさらにもっと精度の高い位置情報を取得するため、先進国や新興国が独自にGNSS(全地球航法衛星システム)と呼ぶ、人工衛星を打ち上げるようなった。「現在は100機のGNSS衛星が打ち上げられており、2020年には1.5倍になる見込み」(神武氏)だという。

10センチ単位で位置の特定が可能に

 日本でも、日本列島の天頂(真上)の軌道を通る「準天頂測位衛星」が打ち上げられており、数年で4機体制になる予定だ。中国やインドもGNSS衛星を打ち上げており、神武氏は「アジアは精度の高い位置情報を取得するのに有利な条件にある」と指摘する。近い将来に10センチメートル単位で位置を特定できるようになり、格段に質の高いサービスが提供できる。

 例えばカーナビゲーションシステムでは、単に目的地までの経路を指示するだけでなく、レーンまで特定したサービスを提供できる。「レーン単位での渋滞情報が把握できるので、『次の進行で右のレーンへ移動してください。3分早く目的地へ到着します』といった、きめの細かいサービスが提供できる」(神武氏)。

複数衛星の情報が利用できる時代に
複数衛星の情報が利用できる時代に

 神武氏は現在、世界規模で新しい位置情報サービスの実証実験が行われていることを紹介した。例えば、タイのバンコクでは、10万台のタクシーからリアルタイムの車両走行データを収集し、これを基に渋滞情報を生成。情報をポータルサイトやカーナビに提供する実証実験を実施した。運転手がこれを見ることによって、「どこの道路が渋滞しやすく、どこで事故が起きやすいのかといったことを把握できるので、渋滞解消につながる」(神武氏)のである。自動車の自動運転の実現にもつながる。

屋内における位置情報サービスの開発進む

 ただし、「現実を考えると、人の生活の大半は屋内なので、人工衛星を使わずに位置情報を提供することが課題であるし、ビジネスチャンスでもある」(神武氏)。神武氏によると、平均で86.9%の人は屋内にいる。人工衛星を使わない仕組みの開発も進む。

 例えば、経済産業省では、地理空間情報を活用したサービス産業創出を目的とした「G空間プロジェクト」を推進中だ。この一環として、東京都世田谷区の二子玉川近隣の商店街などで「ロケーション・クルーズ・プロジェクト」が展開されている。このプロジェクトには神武氏も携わっている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が準天頂衛星初号機「みちびき」を開発する過程で民間企業と協力して発案した「IMES(Indoor MEssaging System)」を利用する。米国のGPS衛星と同じ電波を使用し、屋内に設置する送信機から、その場所の経度、緯度、高さの情報を特定するシステムである。

 二子玉川ライズショッピングセンターの各階に送信機を取り付け、消費者の居場所に応じて店舗の情報や広告をスマートフォンなどに提供する。消費者の属性と店舗での行動を紐づけた分析も実施している。例えば世代によって店舗内の行動に大きな違いがあることがわかった。20代は店舗内をくまなく動いているのに対して、50代はエスカレータを中心とした狭い範囲での行動が目立つという。

 屋内の位置情報サービスでは、ビーコンと呼ぶデバイスを検知する「iBeacon」を活用した試みも進んでいることを示した。このシステムの特徴は、省電力で稼働できることで、スマホ側の対応も進んでいる。ビーコンは、低消費電力の近距離無線技術「Bluetooth Low Energy」(BLE)を利用しており、ボタン電池1個で1年間動作するという。電源設備が不要なためコストも抑えられる。

 神武氏は講演の締めくくりとして、「位置情報サービスはテクノロジーに注目が集まるが、主役は人であり、コミュニティである」と指摘。いかに社会を豊かにするのかという想像力こそが、サービスを発展させる原動力になると強調した。

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