ソニー銀行 営業統括部長の高木文隆氏は、顧客のサイコグラフィック(心理学的)属性まで分析の対象にした、データ分析を活用したマーケティング活動について、「シェアオブウォレット~会えない顧客のインサイトを理解する~」と題して講演した。ターゲットを明確にするため、「シェア・オブ・ウォレット」と呼ばれる指標を導入したことも特徴である。

ソニー銀行 営業統括部長の高木文隆氏
ソニー銀行 営業統括部長の高木文隆氏

 「顧客インサイトの理解を深めることによって、適切な顧客に対して最適なコミュニケーションを実施する」

 高木氏はソニー銀行が高成長へと復帰する戦略の骨子が、顧客ごとに最適なコミュニケーションを行うことにあると説明する。これらの戦略を実践するには、顧客の属性を分析しカテゴライズする必要がある。同行には、年齢や性別、居住地域などのデモグラフィック(人口統計学的)属性と、取引履歴やコミュニケーション履歴などのビヘイビアル(行動)属性のデータが蓄積されていたが、「顧客インサイトを深く理解できないと判断し、外部のデータを補完することにした」(高木氏)。

「ライフスタイル」と「金融リテラシー」から顧客を5分類

 具体的には日経リサーチ(東京都千代田区)が提供する顧客データの拡張分析支援サービス「ミルフィーユ」を利用。「サイコグラフィック(心理学的)属性」を新たに追加するとともに、デモグラフィック属性を補強した。

 ただし、日経リサーチから提供を受けたデータには個人を特定できる情報が含まれないので、同行の顧客データと紐づけられない。同行の顧客データと日経リサーチのデータを突き合わせ、デモグラフィック属性が同じような顧客を同一人物とみなし、データを紐づけした。こうして、同行の顧客データに対し、ライフスタイルや金融意識などのサイコグラフィック属性を補完した。

 顧客をカテゴライズする際には、「ライフスタイル」と「金融リテラシー」の2軸を活用した。具体的には、図のような5種類に顧客を分類している。

ソニー銀行が取り組んだ顧客の5分類
ソニー銀行が取り組んだ顧客の5分類

 市場全体ではA層とB層の合計が15%であるのに対して、同行の顧客の中ではA層とB層が35%を占めていた。同行の収益に占める割合を見ると、実に約76%がA層とB層の顧客からであり、自社にとって優良顧客だと位置づけられる。A層とB層の顧客を増やせば、収益を大きく向上させることが期待できる。しかし、同行ではこれらの顧客の割合が既に市場シェアよりも高くなっているので、これ以上に伸ばせるかどうかは不透明である。

 そこで、市場全体でA層とB層の顧客を同行がどれだけ獲得しているかを調べてみると、いずれも1~2%程度。ほかの層よりは多く獲得しているが、それでも拡大の余地は大きく残されている。

「シェア・オブ・ウォレット」でターゲットを明確に

 これで戦略がすんなり決まったわけではない。「顧客の絶対数でいうとC層が最も多いので、ここからの収益向上を狙うべきではないかという意見が出たり、我々がコアとしているA層とB層を重点的に増やすべきだという意見が出たりするなど、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が繰り広げられた」(高木氏)という。

 ターゲットにすべき顧客のプライオリティーを明確にするために「シェア・オブ・ウォレット」という指標を活用した。

 シェア・オブ・ウォレットは、「顧客の当該カテゴリーの支出総額(トータル・ウォレット)に占める自社での支出額の割合」を意味する。例えば、食品スーパーであれば顧客Aの1カ月の食費に占める自店での食料品購入額の割合を表す。

 ソニー銀行では、シェア・オブ・ウォレットを「ある顧客の世帯金融資産(日経リサーチのデータから推定)に占める自行での預かり資産(自社の顧客データから算出)の割合」と定義。これを計算すると、数字の低い順、すなわち購買余力が大きい順に「A層→B層→D層→C層→E層」となった。つまり、既存の顧客に対しても、A層とB層にはクロスセル(関連商品の併売)やアップセル(上位商品への買い換え)が期待できるのである。

 同行では、顧客数の多いC層を含めた3つの顧客層を戦略ターゲットと決め、マーケティングプランの立案に着手。その一環として、顧客データベースのデモグラフィック属性とサイコグラフィック属性、ビヘイビアル属性を基にA層・B層・C層のそれぞれでペルソナ(仮想的な顧客像)を創作した。これによって、それぞれの層に対する具体的なコミュニケーション方法を思い描ける。

 高木氏は、聴講者に対してマーケティング・アナリティクス活動を持続させるための注意点を披露した。データ分析の素養を高めるだけでなく、(1)マネジメント(経営層)が有効な判断ができるアウトプットの提示、(2)業容拡大や効率化など、数字で見える成果の設定、(3)テストマーケティングや試験的取り組みなどから次回につながる有効な示唆を得る--の3つが重要だと指摘し、講演を締めくくった。

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