「KPIを重視した経営をやめ、シンプル思考の経営に切り替えた」。カルビー執行役員営業本部本部長の石辺秀規氏は、講演「KPIの落とし穴 ~経営はシンプル思考で~」の冒頭、このように切り出した。日経ビッグデータラボが主催したイベント「BigData Conference 2014 Autumn」の中でも多くの受講者が集う注目の講演となった。

カルビー執行役員営業本部本部長の石辺秀規氏
カルビー執行役員営業本部本部長の石辺秀規氏

 カルビーは、2007年までにバランススコアカードを経営の指標に取り入れていたが、「売り上げこそ落ちなかったものの、経常利益が転がり落ちてしまい、市場シェアも10%落ちた」(石辺執行役員)。

3000にも上るKPI

 このようになった原因は「KPIが複雑になりすぎたこと。ランニングコストもすごくかかっていたし、アウトプットが複雑すぎて何に手を打っていいのか分からなかった」(石辺氏)。バランススコアカードは、過去を見るための「財務」、現在を見るための「ビジネスプロセス」と「顧客」、未来を見るための「学習と成長」の4つの視点を取り入れていた。これらを基に、現場レベルの細かいKPI(重要業績評価指標)にまで落とし込んでいた。

 経営者が「経営コクピット」と呼ぶダッシュボードを開くと、「売り上げと利益」「商品クレーム」「クレームの種類」など多くのデータが表示され、毎日更新されていた。さらに同社は「原料流通」「加工」「調味」「流通」など業務を10のプロセス単位に分けており、この単位をさらに細かく、機能別、エリア別、アイテム別など分けてKPIを設定した。その結果、最終的には3000ものKPIをダッシュボードで閲覧できるようになっていたという。

 KPIの細かな設定は協力会社にも及んだ。パフォーマンスで契約を結び、「結果ではなくプロセスを見ようと考え、バランススコアカードの効果などを説明しながら自分たちの活動に巻き込んでいった」(石辺氏)

 こうしたことに奔走することで、「マーケティングが近視眼的になっていた。KPIを良くするためにマーケティング活動をしてしまったので、市場、顧客、コンペティターが見えなくなってしまっていた」と石辺氏は振り返る。

利益率3倍への行程とは

 こうした問題に気づいたカルビーは2008年以降、バランススコアカードをやめ、シンプルな経営に取り組んだ。その結果2009年3月期に3.2%だった営業利益率は格段に上がり、現在は約3倍の9.9%になったという。石辺執行役員は「将来的には15%を目標に大きな変革をしたい」と語る。

 カルビーが具体的に行ったのは、「まず原料を先に買って、生産し、売る」という流れに切り替えることだった。それまでの過去50年間は、予算を作ることを重視し、売り上げを達成するにはどれだけの原料がいるかを逆算して計画を立てていた。しかし、原料の馬鈴薯の収穫は年1回しかないため、「種芋を植えたり、敷地面積の設定などを考えると、生産計画は3年前から始めなくてはならない。3年先の予想は全然当たらないのに、みんながそれに工数をかけていた」(石辺氏)のが実態だった。

 このような変更は様々な分野に及んだという。その1つとして、それまで重視していたプロセス指標での評価をやめ、結果を評価するようにした。また将来予測についても「数値から判断が可能なことは予測するが、頑張っても分からないことについては予測しないという方針に変わった」と言う。

 石辺氏はKPIについて、「利益を上げるためには、どんどんKPIをブレイクダウンしていって、最終的に売り場のKPIにまで落とすのがいいとされている。経営者はそれを喜ぶ。だが、これではうまくいかない」と指摘し、「現場の心に響かないからだ。人間は、ああそうか、と思うことが重要。ポジティブなインデックスを作ることが大切だ」とまとめた。

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