新サービスを次々と投入し、高収益を誇る警備大手のセコム。同社の取り組みからネット企業ではない一般企業のビッグデータ活用の成功の条件を学ぶ。今回は3日にわたって記事掲載する特集の前編。

今必要なことは今実行する。
持ち前の行動力で、安心・安全を核に事業を拡大してきた警備大手のセコム。顧客や社会に必要とされるサービスを矢継ぎ早に投入することで好調な業績を維持し、今も成長し続けている。

2013年度の連結売上高は8222億2800万円と、業界2位の綜合警備保障(3282億900万円)の2倍以上の規模である。売上高経常利益率にいたっては、セコムは15.4%と綜合警備保障の6.3%を大きく上回る。
実はセコムの警備事業での売り上げ比率は半数強しかない。残りは事業継続計画(BCP)支援、医療・介護、ITサービスなどの新しい事業が占めている。
このセコムが今、ビッグデータ活用で新たな成長のアクセルを踏み込もうとしている。視線の先にあるのは2020年の東京オリンピック・パラリンピックである。開催が決定した昨年9月当時セコムの社長だった前田修司会長が、2025年までに37のビッグデータ活用サービスを手掛ける計画を即座に5年前倒しした。オリンピックに照準を合わせたのだ。さらに最近、超高齢化社会の到来に対応するため、ビッグデータ活用サービスの開発目標を51と5割も増やした。

51のサービスのうちいくつかは明らかになっている。例えば、2015年3月までに商用化する「小型飛行監視ロボット」は、東京オリンピックの警備に使われる可能性がある。空中からの撮影データを集め、分析によって不審者や不審物を割り出すというものだ。
東京オリンピックが開催される2020年には、約2000万人の外国人が来日する。2020年に向けて、災害情報を察知する能力を高めるとともに、災害情報を多言語で発信する。各国の大使館に災害情報を提供し、「来日する外国人に安心情報を提供したい」と、BCP関連サービスの開発を手掛ける、セコムトラストシステムズの田村正典取締役は言う。
安否確認についても対応する。2004年から実施している「セコム安否確認サービス」を、経済産業省と共同で20カ国語に対応させる計画で各国の大使館などと調整している。訪日する前のビザ申請の際などに渡航者のメールアドレスを登録してもらう。「災害情報や安否確認のサービスなどが提供できれば、日本のおもてなしになる」とセコムの伊藤博社長は話す。
安心・安全のサービスで成長してきたセコムは、ビッグデータ時代にどのような付加価値を提供しようとしているのか。その時代でも躍進し続けることができるのか。徹底的に検証し、ビッグデータ時代の勝ち組企業の条件を示す。
「センサー+人」で誤報を見抜く
2013年8月8日午後4時56分。気象庁は「奈良県に震度6弱から7の地震が発生した」という地震速報を流した。誤報であったが、これをいち早く判断できたのがセコムだ。
「地震が発生すると、その地域にある企業や家庭に設置しているセンサーから異常情報が発せられる。しかし奈良地域からの異常情報は全くなかった」と、セコムトラストシステムズの田村取締役は説明する。
セコムはセンサーによる機械警備で成長した企業であるが、そのセンサー網とそこから集まるビッグデータで新たなサービスを次々と実現している。
全国に6000万超のセンサー
セコムのセキュリティサービスであるオンライン安全システムの加入件数は192万2000件(今年6月末現在)。その内訳は、家庭が100万6000件(同)、企業が91万6000件(同)だ。それぞれにセンサーや監視カメラなどが備え付けられている。家庭は1軒当たり数十個、企業は1社当たり数十~数百個のセンサーや監視カメラを設置している。そのセンサーやカメラの設置総数は、日本全国で6000万~7000万個に達することになる。米グーグルやヤフーとは異なる種類だが、セコムは日々ビッグデータを蓄積しているのだ。
これはほんの一例にすぎないが、セコムは張り巡らしたセンサー網と独自情報によって、データの確度に徹底的にこだわる。判断のミスが生命や財産を脅かしたり、企業の存続に関わったりする可能性があるからだ。
それを支えているのが47都道府県に1カ所ずつ置いたコントロールセンターだ。普段とは違う異常なデータを各家庭や企業に取り付けられた装置を介して収集すると、異常の情報を受けて、現場の状況を確認したうえで対応を図る。
ビッグデータに“人”が集める独自の情報も掛け合わせることで、確度を引き上げる。約3万5000人のセコムの国内社員や全国2830カ所の緊急発進拠点にある業務車両から臨機応変にリポートが上がってくる。安否確認のサービスを受けている約440万人の顧客の動きの情報も重要な判断材料だ。さらに、傘下の航空測量会社のパスコが所有する航空機46機、契約している通信衛星17基が独自に入手するデータも加えて情報の確度引き上げに腐心する。