これまでGPSや無線LANでは実現が難しかった、店舗内でのIoTを実現するためのハードルが一気に下がった。契機は米アップルが昨年秋にiPhone向けに投入した新OS「iOS7」に「iBeacon」の機能を搭載したことである。パルコやAOKI、日本航空などがぞくぞくと実験に乗り出している。

【店舗×IoT】壁や棚、商品が位置を教える「iBeacon」の活用始まる

 「いらっしゃいませ。いまショップAでは、あなたがお気に入りに登録している商品が1時間限定で特売を行っています。クーポンを発行し、お店までご案内しましょうか?」

 スマホを持って大型のショッピングモールに入ると、このようなメッセージが画面に表示され、その商品の棚までナビゲーションしてもらう。こうしたIoT活用が流通の現場で始まろうとしている。

iBeaconを活用して、顧客などの動きを把握する主な取り組み
iBeaconを活用して、顧客などの動きを把握する主な取り組み

 これまでGPSや無線LANでは実現が難しかった、店舗内でのIoTを実現するためのハードルが一気に下がった。契機は米アップルが昨年秋にiPhone向けに投入した新OS「iOS7」に「iBeacon」の機能を搭載したことである。

 iBeaconを活用することで、「Bluetooth Low Energy」と呼ぶ仕様に対応した小型のセンサーと通信して、センサーに割り振ったIDをやり取りする。そのIDを受け取ったスマホが対応するアプリを起動して、ネット経由でクーポンを受け取ったり、利用者へのナビゲーションを行ったりする。GPSは店舗など屋内に入ると測位が難しい。無線LANは電波が遠くまで届くので正確な位置が把握しづらい、アクセスポイントを設置する必要があるといった課題がある。

商業施設に400個のセンサー

 7月末、名古屋市にあるパルコ名古屋店の約30のフロアに300~400個のiBeaconセンサーが取り付けられた。

パルコ店内の柱に設置されたiBeacon(中央部)
パルコ店内の柱に設置されたiBeacon(中央部)

 ショッピングセンターのITサービスを支援するパルコ・シティ、IT企業のエンプライズが試すのは、南・西・東の3館合わせて約30フロアを、入り口から特定の店までナビゲートできるかどうかだ。

 スマホアプリがiBeaconの情報を受信して位置を認識。センター側でセンサーのIDと場所をひも付けておくことで、スマホの位置を割り出す。その際にセンサーとの距離は「極めて近い」「1m以内」「1m以上」の3段階で判定できる。

 今回、別の実験としてiBeaconで取得したデータを基に人流の解析をする。これは分析したうえで後日活用するものだが「将来的には、人流をリアルタイムに分析し、集客やキャンペーンなどの施策を打つようになるだろう」(パルコ・シティ開発本部R&D部の岡田泰宏部長)。

購入可能性のある顧客“呼び止め”

 紳士服専門大手のAOKIは顧客の呼び止めにiBeaconを活用する。10月から、都内の大型店3カ所でiBeaconを使った販促を開始する。スマホにAOKIの無料アプリをダウンロードした会員が来店した際、即時にクーポンを発行する。

 AOKIには、(1)都心店、(2)郊外店、(3)大型店があるが、都心店の多くは、購入率が低い。iBeaconをこの課題を解く一つのカギとする考えだ。都心店は、見るだけの来店客が多い。競合店も立地が近いことが多く、熾烈な戦いを強いられている。

 こうしたなかでiBeaconを使うのは「その場での購入に直接結びつくクーポンなどの施策」(AOKIホールディングス情報システム本部企画開発部長の日下康幸執行役員)を目指しているからだ。

 例えば、「今から15分以内に購入すればXX%引き」といったクーポンを入り口で配ったり、会員のプロフィルから推奨したい商品に近づいた際に割引クーポンを発行するといった取り組みである。

 当初、1店舗で5~7個のiBeaconを設置して効果を検証。効果が確認できれば、AOKIと若者向けビジネス衣料品店「ORIHICA」の全店(約670店)に仕組みを導入していく。

【インフラ×IoT】光のセンサーを張り巡らせ地震のダメージを即時に判断

 東京湾の若洲と中央防波堤を結ぶ東京ゲートブリッジ。全長が2618mもの特徴的な形状を持つこの橋は、災害時に物資を都内に運ぶインフラという重責を担っている。そのため大地震が発生しても短時間のうちに安全を確認し、可能であればトラックなどが通行できるようにしないといけない。

東京ゲートブリッジ
東京ゲートブリッジ

 こうした条件をクリアするために採用したのがリアルタイムIoTである。橋脚の様々な場所にセンサーを設置。それらのセンサーにどのような力が加わったのかの情報を一元的に管理している。

 東京ゲートブリッジは地震であれば震度5強以上で通行止めとなる。「こうした大地震による通行止めから利用可能と判断できるまで、仮にすべて目視で点検すると6時間程度かかる。これを30分程度まで大幅に短縮できる」(国土交通省東京港湾事務所企画調整課の横田昭人総合評価係長)。

橋梁の安全状態を確認するための管理画面
橋梁の安全状態を確認するための管理画面

 どのような強さの地震に見舞われたら、橋の構造物にどのような影響が起こり得るのかを事前に解析。各所のセンサーがそうした影響を受けたと判断したら、管理画面に警告を表示。担当者はその場所を重点的に確認すればいい。そのうえで通行止めを解除するかどうかを見極めることができる。

48個のセンサーで常に監視

 センサーは主として、光ファイバーをベースにしたものを利用している。ファイバーケーブルのゆがみによる光波形の変化を計測し、それぞれの場所に加わったであろう衝撃をコンピュータで計算して導き出す。光ファイバーは設置先にセンサーを稼働させるための電源が必要ないのも採用した理由だ。光ファイバー以外も含めて、変位計、ひずみ計、加速度計、風向風速計、桁内温度計など合計で48個のセンサーを橋梁内に設置している。

橋梁に設置されているセンサー
橋梁に設置されているセンサー

 東京ゲートブリッジがセンサーを多用している理由として、特徴的な形状のため目視で確認しづらい箇所が多いという背景もある。実は、海を大型船が通過する、上空を羽田空港を離発着する飛行機が通過するということからこのデザインとなった。

 各種のセンサーからのデータは1日5ギガバイト、年間で2テラバイト弱発生する。例えば、全4車線ごとにひずみ計を設置し、どのレーンをどの程度の重量の車両が通過したのかを把握している。こうした蓄積データを活用することで、一番効果的な補修タイミングを割り出すことも行っている。

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