機器や周囲の状況をセンサーで把握して、即時に有効な打ち手を繰り出す。様々な産業で「リアルタイムIoT (Internet of Things)」への挑戦が始まった。

 スマートフォンやクルマ、住環境など、様々なものに多数のセンサーが組み込まれるようになり、人やモノの動き、周囲の住環境が次々と“データ化”され始めている。こうしたデータを蓄積して、分析することで新たな価値を発見する取り組みは、一般的になりつつある。一方で、防災やインフラの保守などではIoTのデータを即時に活用することで課題を根本的に解決できる道筋が見えてきた。競争の激しい流通業ではリアル店舗で顧客の購買を即決させるツールにもなり得る。

 自動車、流通、インフラ、公共、家庭など様々な分野で「リアルタイムIoT」への挑戦が始まった。

【クルマ×IoT】各種データソースの情報を重ね実体を把握し、リスクを回避する

 「東日本大震災では14万台ものクルマが流されて、亡くなった人の6%がクルマの中だった。もし次に同じような震災が起こったら、できる限りそうした状況を減らしたい」

 東北大学情報科学研究科の桑原雅夫教授は、産学協同のプロジェクト「DOMINGO(Data Oriented Mobility Information Group)」の意義をこう語る。

 DOMINGOプロジェクトが2015年秋の実現を目指してプロトタイプを開発しているのが、大地震などの非常時に自分の周囲で何が起こっているのかを的確に把握するための情報収集プラットフォームである。

 複数のデータをリアルタイムに重ね合わせることで、自分の身の回りで起きていることを的確に把握し、各自が危険を回避することを目指す。

 中核を成すのがクルマの現在位置や加速度などの走行状態を示すプローブデータである。これに公共の交通管制システムのデータを掛け合わせて精度を引き上げる計画だ。これでどの場所が交通渋滞で身動きがとれないロック状態になっているのかをドライバーに示し、それぞれ回避してもらう。

ホンダが東北大学などと共同で研究中のリアルタイムのリスク回避情報
ホンダが東北大学などと共同で研究中のリアルタイムのリスク回避情報

 ただ、地震の後に津波が到達する場所に回避してしまっては元も子もない。そこで地震の震源や震度からリアルタイムで津波の動きを割り出して、浸水エリアの情報を予測して時系列で提供。渋滞情報などと地図上で掛け合わせて危険を認識してもらう。

 こうした各種の情報をレイヤーとして重ねていくことで、情報の確度を高めていく。例えば、スマートフォンのGPS(全地球測位システム)の活用も検討している。利用者の許諾を得たうえで位置を取得しているアプリの情報を利用し、歩いている人だけでなく、電車やバス、そしてクルマに乗っている人の人流を推測できるようになる。

 Twitterへの書き込みについても内容を自動で分析して、状況をより的確に把握する。渋滞していたり、交通量がなかったりする理由を、「XX交差点で道路が陥没している」といった投稿から見いだす試みだ。

 DOMINGOプロジェクトは、2011年の東日本大震災の後、東北大学、ホンダ、アジア航測、オリエンタルコンサルタンツ、住友電工システムソリューション、日本気象協会、アイ・トランスポート・ラボ(東京都千代田区)が立ち上げた。

 ホンダのグローバルテレマティクス部役員待遇参事の今井武氏は「2020年の東京オリンピック・パラリンピックも視野に入れた取り組みだ」と説明する。「何か不測の事態があった時、いかに2000万人もの方々を適切に誘導するのか」との課題にも挑む。

通信無償化でデータが増える

 プローブデータを活用したリアルタイムIoTは、東日本大震災を契機にその存在と威力が認知された。

 当時、ホンダだけでなくトヨタ自動車、日産自動車などが、自社のユーザーのプローブデータを公開。米グーグルの地図サービス上でそれらのデータをマッシュアップすることで「通れた道」を明らかにした。この情報を頼りに災害復旧や救援物資の車両が被災地へと次々と到着した。

データアップロードの累積距離(年間)
データアップロードの累積距離(年間)

 ホンダがプローブデータの活用にアクセルを踏んだのは、震災直前の2010年だった。純正のカーナビ「インターナビ」にセンターと通信するモジュールを標準で装着したうえで、ユーザーの通信料金の負担を無料にする「リンクアップフリー」を一部の車種から導入。2011年から収集するデータ量が急増し、2013年には月平均で3億kmと、2010年比で7倍以上となっている。

2014年2月の豪雪時に提供した「通れる道」の情報
2014年2月の豪雪時に提供した「通れる道」の情報

 こうした貴重なデータを情報、そして価値へと変える「リアルタイム化」への取り組みを加速している。

 ホンダは震災時には通行データを手作業で半日ぐらいかけて作成していたが、震災を契機に集計を自動化した。震度5弱以上の地震が発生した時点で、システムがデータを自動的に作成し始める。

 今年2月に山梨県で発生した豪雪時には、ホンダはプローブデータを迅速に公開し、ドライバーが通行止め箇所を回避するのに一役買った。直近4時間の通行状況を1時間ごとに提供した。

 プローブデータは個別のドライバーのメリットにもつながる。今年1月に北海道地区で始めた「ホワイトアウトアラーム」がそれだ。ホワイトアウトとは、吹雪で周囲が見えなくなってスタックしてしまうこと。

ホンダのカーナビユーザーに提供している「ホワイトアウト」の警告。探索経路上にホワイトアウトの可能性がある場合に表示する
ホンダのカーナビユーザーに提供している「ホワイトアウト」の警告。探索経路上にホワイトアウトの可能性がある場合に表示する

 自車の位置や検索したルート上でホワイトアウトの可能性がある場合に、カーナビの画面やスマホへのメールなどで警告する。「利用者からの情報は結構正確だ。警告を見て出かけるのを控えたという声をいただいている」(今井氏)。

 クルマがホワイトアウトのエリアに入った際、家族など登録した先に警告メールを送るサービスも提供している。万が一身動きがとれなくなっても、外部に察してもらう狙いがある。

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