世界的に見ても画期的な実証実験が、2015年度に広島県の食品スーパー市場を舞台に始まる。経済産業省と流通企業6社が協力して経営改善や新サービス創出を目指す。今年度中に実験内容を詰める。

 普段はライバルとしてしのぎを削っている食品スーパーが、互いに自社の手の内を見せ合う─。

 2015年度、広島県の食品スーパー市場を舞台に、世界的にも例を見ない実証実験が始まる。自社の購買データをどこまで出し合うかが大きな焦点になるが、データ活用をベースに、食品スーパーが今後目指すべき姿である「広島モデル」を生み出そうという意欲的な実証実験だ。

第1回地域におけるデータ活用研究会 参加企業・団体(部署)
第1回地域におけるデータ活用研究会 参加企業・団体(部署)

 7月25日、広島県庁の会議室で「地域におけるデータ活用研究会」が開かれた。6月20日の第1回に続く第2回だ。参加企業は、イオンリテールや地元広島県の食品スーパー市場でトップシェアを誇るフレスタ、中国地方で展開中のイズミ、そしてユアーズや生活協同組合ひろしま、愛媛県松山市に本社を置くフジの6社だ。さらに日本流通科学情報センターなどが委員として加わっている。委員長は、産業技術総合研究所サービス工学研究センターの本村陽一副センター長。オブザーバーとして、経済産業省サービス政策課や中国経済産業局、広島県イノベーション推進部、食品スーパーのID-POS(販売時点情報管理)導入などを手掛けるアイディーズ(沖縄県豊見城市)などが参加している。

広島県食品スーパー市場でトップシェアのフレスタ。 写真はフレスタ多冶米店(広島県福山市多冶米町)
広島県食品スーパー市場でトップシェアのフレスタ。 写真はフレスタ多冶米店(広島県福山市多冶米町)

 第1回は、イオンがデータ活用の取り組みについて説明したが、今回はフレスタがプレゼンに立ったもよう。順番に取り組みを披露しながら、消費者の許諾を得て、もしくは匿名化した上で各社の購買データをどういう形で提供し合うのか、話し合っていく。「まずは6社の間で信頼関係を作っていく」(経産省サービス政策課)と言う。会合の内容は非公開。どこまで「手の内」を明らかにするのか、いわば腹の探り合いだ。

理想はID-POSデータの全面公開

 経産省サービス政策課の担当者はこう語る。「理想は各社のID-POSデータを公開し合うこと。そうすれば消費者1人ひとりの買い回りが把握できる。例えば、精肉はAスーパー、生魚はBスーパー、生鮮はCスーパーで購入しているといった実態が分かってくる。消費者からどんな分野を支持されているのか、自社の強みは何かといったところが浮き彫りになってくるはずだ。今後アプローチすべき顧客像がより鮮明に見えてくるのではないか」

 とても画期的な試みのようだが、本当に実現するのだろうか。委員長を務める産総研の本村副センター長は「現段階では何も決まっていない。今後、各社の意向を聞いて調整していく。実りのある実証実験にするためには、ライバル同士が安心して自社のデータを提供でき、地域全体が活性化して各社に明確なメリットをもたらすことができるかどうかがポイントになるだろう。もっとも、生の購買データを出すことはまずないと思う。何らかの形でデータを処理してリスクを下げたうえでのデータ提供になるのではないか」と話す。

 確かに、自社の手の内をどの程度明かせばいいのか、そのうえでどんなメリットがあるのか、はっきりと提示しなければならないだろう。各社が納得しない限り、実証実験などできないはずだ。

「広島モデル」が目指すもの

 では、一体どんなメリットが期待できるのか。1つ目はマーケティングの高度化。それぞれの食品スーパーが本当に注力すべき顧客を特定できることだ。例えば、若者向けの店に割り切るとか、逆に重点的にシニア向けに絞るとか、実態を正確に把握することによって自社の強みを見いだそうということだ。

 2つ目は、本研究会では生鮮3品や総菜などの商品コードの統一も目指すこと。アイディーズの商品情報統合化マーケティングコード「i-code」を1つのツールとして使う。ID-POSデータをアイディーズに渡せば、これまで各社でバラバラだった生鮮3品と総菜の商品コードが統一される。これで地域単位で、生鮮3品と総菜の購買動向が把握できるようになれば、廃棄ロスの減少というメリットも得られるはずだ。

 そして3つ目が新しいサービスの創出だ。例えば、肉ばかりで魚を食べていない消費者に対する健康アドバイスなどの新しいサービスだ。

 それにしてもなぜ広島県で実施するのか。経産省によれば、「広島県の県民1人当たりの所得が全国平均に近く、購買力などの指標も平均的だからだ」と言う。そのことに加えて、セブン&アイ・グループの食品スーパー部門がほとんど進出していないため、イオンリテールを説得しやすいという事情もあったようだ。そのイオンリテールのシェアが広島県では1位でないことも、地場の食品スーパーが参加することに比較的抵抗がなかった理由とみられる。

都道府県別1人当たり県民所得の推移
都道府県別1人当たり県民所得の推移

 実際に実証実験への参加を検討している地元の食品スーパーはどんな立場を取っているのか、現段階では正式コメントを出している食品スーパーはない。しかし、地元スーパーを取材してみると、「仮に6社がID-POSデータを出し合っても、顧客の買い回り状況はつかめない。だからドラッグストアやコンビニエンスストアにも参加してもらって真の意味で食品の購買動向をつかみたい」「トップからは積極的に協力するな、購買データは出すなと言われている」といった発言を聞くことができた。

 現段階では理想と現実には隔たりがありそうだ。今年度内に明確な経済的メリットを見いだし、いかにリスクを下げていくかがポイントだ。今後の研究会に注目したい。