物流センターの運営受託や物流情報サービスを手掛ける総合物流企業のトランコムは、運送会社のトラックの空車情報と荷主の貨物情報をマッチングする独自の物流情報サービス事業を強化する。これまで蓄積してきた情報をパートやアルバイトでも簡単に参照できるようにして、マッチング精度の向上を狙う。

 トランコムは、全国のトラック運送会社約6万社のうち2割に当たる1万3000社と提携。メーカーが仕入れ先から自社工場まで運んだり、工場から物流拠点まで運んだりという、主に中長距離の「幹線輸送」を対象に、マッチングサービスを提供してきた。

 具体的には、チャーター便(荷主1社)の荷物を運んだ後、帰路を空車で帰るよりも別の荷を運びたい運送会社のトラックの「空車情報」と、特定のタイミングで貨物を運びたい荷主やさばききれない貨物を背負った運送会社からの「貨物情報」をマッチングさせ、手数料を取るビジネスで成長してきた。

 2002年に独自の情報システム「コンパス」を導入。顧客から主に電話で注文を受けた空車情報と貨物情報を、社内で「アジャスター」と呼ばれる営業担当者が手で入力すると、アジャスター全員のパソコン画面にそれらがすべて表示されるようにした。アジャスターはその中からマッチングできそうな組み合わせを選び、両者に連絡して成約させる。

 条件が100%マッチしていない場合でも、時間をずらしたり、金額を割り引いたり、近郊のA地点から荷物を積む都市部のB地点に移動するまでのガソリン代と高速代を負担したりしたらマッチングが成立する場合は、アジャスターが積極的に営業し、マッチングを成立させてきた。

 現在、全国で500人弱のアジャスターが31の拠点でマッチングサービスを展開。顧客からの注文とアジャスターの営業案件を合わせて毎日8000件弱の空車情報、6000件弱の貨物情報を扱い、4000件弱を成約させてきた。

空車トラックの急減に対応

 こうして物流情報サービス事業を伸ばしてきた同社は今年8月、業務効率化ソフトなどを開発・販売するウイングアーク1st(東京都渋谷区)のBI(ビジネスインテリジェンス)ツール「Dr.Sum EA」の本格的な導入に踏み切る。

 その背景には、物流業界に起きている変化がある。なかでも最も重大なのが、中長距離トラックの運転手のなり手不足という問題が顕在化し、空車トラックが急減したことだ。

 「それまでは空車トラックが3~4に対してチャーターの荷物が2という状況で、そのうちマッチングが1つ成立する感じだったが、昨年8月以降はチャーターの荷物が1に対してトラックが0.7の割合しかなく、運送会社にお願いして運んでもらったり、帰路だけでなく往復ともトランコムが荷物を手配するケースを増やすことで、マッチング件数を増やす状況が続いている」とトランコム執行役員物流情報サービスグループ統括マネージャーの上林亮氏は説明する。

 この結果、荷下ろしの場所を指定したり、貨物の積み下ろしにフォークリフトを指定したりするなど、マッチングを進める際に運送会社の出す条件が厳しくなってきた。「これまで同様に貨物情報とトラックの空車情報をマッチングさせるには、運送会社側のこうした条件を営業担当者が知っておく必要がある」(上林氏)。

 加えて、一昨年ごろから生じていた、トランコム側の営業担当者の不足という問題も重なった。以前は営業担当者全員を正社員でカバーしていたが、「営業職の人気がなくなり、正社員の採用が難しくなりつつある」(上林氏)ため、現在は500人弱のうち、パートやアルバイトが100人前後を占める。

 このため、比較的短期間で入れ替わる可能性が高いパートやアルバイトの営業担当者でも、長く勤める正社員の担当者同様に、運送会社や荷主の詳しい情報について、BIツールのサポートで簡単に分かるようにしようというのだ。

 例えば、マッチングしようとする運送会社や荷主をBIツールの画面上で選んだとき、その運送会社や荷主がこれまでに示してきた荷下ろしの条件などの詳細が、「Excel」のような表形式で示される。また、「マッチングの佳境である平日午前の時間帯を過ぎて連絡しても空車がある」「貨物がある」などの条件で、これまでの実績を収めたデータベースを検索し、該当する運送会社や荷主のリストを表形式で画面に呼び出し、マッチングにふさわしい相手を探すこともできる。

 特に、これまで個々の営業担当者の経験と能力に頼りがちだった 予測のサポートに力を入れる。これまで蓄積してきたデータに基づき、「A社のこのトラックは明朝、大阪の難波で弊社手配の貨物を積んで東京に帰る。このトラックが別の荷を積んで再び大阪に来た後、再び空車になるのは今から3日後」とか、「朝何時までに電話してこないときは、B社には空車がない」などという予測を進めて、マッチングに役立てるのが狙いだ。

地図情報とも連携

 BIツールを地図情報とも連係させ、効率的な配車も目指す。これまで実績のある運送会社の拠点や荷主の拠点を、BIツール内に取り込んだ日本全国の高精細な地図情報の上に反映。「A地点で荷下ろし」「B地点で荷積み」という運送会社や荷主が示す条件に基づき、画面上の地図にトラックのルートや移動にかかる時間などが示され、営業担当者がそれらを確認しながら、効率的なマッチングを図るのだ。

 また、トランコムが昨年から本格的に始めた“中ロット貨物”の混載輸送のマッチングも、BIツールの導入を促す一因となった。

 「チャーター便にするほど量は多くないが、小口貨物として扱うほど小さくないという1~2トン程度の貨物を運送するトラックが減っている」(上林氏)という変化を踏まえ、トランコムは昨年から、こうした中ロット貨物の混載輸送のマッチングを本格的に始めていた。荷主A社、B社、C社の荷物をそれぞれ別々の指定の場所で積み、別々の指定の場所で下ろすのだ。

 ところが、コンパスはチャーター便専用のシステムなので、混載輸送への対応が難しい。このため、8月導入予定のBIツールで、「当面は足りない部分をカバーしていく計画」(上林氏)だ。

 混載輸送に関わる空車情報や貨物情報はまずBIツールに入力。BIツールがマッチング条件を想定し、それを営業担当者が目で実際に成り立つかを確認した後、運送会社や荷主に連絡してマッチングを成立させるという手順を想定している。

 トランコムは来年には、現行の情報システムの全面刷新を予定している。新システムにBIツールも組み込み、蓄積してきた顧客データに基づいて、様々な予測を展開しながら、物流情報サービスを展開していく計画だ。

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