JR東日本ウォータービジネスは、データ活用による施策で自動販売機1台当たりの売上高アップに注力している。2013年度は自販機の台数が微減する中、売上高を2%増やした。データ分析で暖かい飲料を並べる最適なタイミングを見いだしたことが大きく貢献した。
東日本旅客鉄道の駅中(エキナカ)にある自動販売機の運営などを手掛けるJR東日本ウォータービジネスの2013年度の自販機売上高は、会社設立(2006年8月)前の2005年度に比べて61.4%増えた。この間、自販機台数はほぼ横ばいだが、1台当たりの売り上げを1.5倍に引き上げることで実現した。
年間2億本に上る販売データを活用したマーケティングが奏功した。自販機ごとのデータを調べて、より売れる商品を揃えている。販売商品の約3割は現場のオペレーターが仮説を立てて選定し、データで検証しながら売り上げを伸ばす。
自販機台数は微減だが売上高2%増
昨年度は自販機の台数は微減だったが、売上高は2%伸ばした。「データ活用による施策が効いた」と、JR東日本ウォータービジネスの石戸谷隆敬社長(現在は東日本旅客鉄道 事業創造本部部長)は話す。特に効果があった施策は、昨年秋から実施している「コールド(冷)からホット(温)への切り替えの最適なタイミングの抽出だ」と言う。
標準的な自販機は、36種類の飲料を格納して販売できるが、最大18種類までホットとコールドを切り替えられる。秋が深まり肌寒くなったときに、ホット飲料の品揃えが少なくては販売機会を逸しかねない。石戸谷社長はこう説明する。
「昨年春までは、温度だけで切り替え時期を決めていたが、昨年秋からは別の要素を考慮するようになった。同じ駅でも、場所によって寒さが違う。例えば、ホームの方がコンコースより風が吹くので寒い。従って個機ごとに切り替え時期を変えてみた。その効果が出た」
従来は、駅がある街の最低気温が17度になると、エキナカ自販機は一斉にホットに切り替えていた。気象予報データを基にして2カ月前には切り替えの計画を立て、実際の気温を見ながら実施していた。
2013年度はホット飲料への切り替えを、駅ごとではなく、駅と場所に応じて割り振った12のクラスター別に実施した。まずは仙台駅や高崎駅など北にある駅の自販機はクラスター1~6、東京駅や横浜駅など南にある駅の自販機はクラスター7~12とした。その上で、通路や中央広場といった駅コンコースなど比較的風が通らない場所にある自販機、逆に風に直接さらされるホームにある自販機のように、環境の違いなどで割り振った。
最適な切り替え時期は回帰分析によって導き出した。分析には、過去10年間の気温データと過去1年間のPOS(販売時点情報管理)データを使った。一連の分析は、米ノースウエスタン大ケロッグ経営大学院の渡辺安虎助教授(当時)らとの共同研究との位置づけだ。
例えば、高崎駅にあるクラスター2(気温と売り上げの相関が強い)の自販機では、2012年度の実績よりもホットへの切り替えを3週間早めた方がいいという解析結果が出た(上のグラフ)。3週間早めると、売り上げは14%増えるとの予測も出ている(下のグラフ)。高崎駅にある自販機は6つのクラスターに割り振られるが、2013年度はクラスター別の解析結果を基にホットへの切り替え計画を立てた。

東京駅にあるクラスター8(ホットもコールドも需要が高く売り上げ本数の絶対額が大きい)の自販機では、2012年度の実際の切り替えタイミングとほとんど差のない解析結果が出た。

各駅でクラスター別の最適タイミングを参考にしながら、自販機1台1台の切り替え計画を立てた。実際の最低気温を見て、優先順位をつけてホットへ切り替えていった。その結果として、2013年度の自販機売上高は2%向上した。増収の半分以上がホットへの切り替えによる販売数増加の効果だという。
ちなみに、今年春に実施した「ホットからコールドへの切り替え」も効果があったようだが、消費増税の影響でどの程度の効果があったかは数値で示せないという。
データ活用でヒット商品を生み出す
販売データなどの分析は、ヒット商品も生み出した。電子マネーから得られたデータを分析することで、これまで気づかなかった大きな顧客ニーズが浮かび上がったのだ。
同社は2009年から、交通系ICカード「Suica」による決済端末「VT-10」を自販機に搭載するようになり、POSデータを取得している。JR東日本の「Suicaポイントクラブ」の会員については、Suica1枚ずつに付与した固有の「IDi」(発券者採番番号)とひも付けて、性別や年齢、居住地などのデータを組み合わせることができる。
「何が何本売れたか」といったシンプルな販売データと購入者の属性を組み合わせて分析できるようになった結果、購買の傾向が見えてきた。例えば、小容量(280ml)ペットボトル商品は午後に女性・中高年がよく購買すると判明した。
ただし、こうした分析によって判明したのはそれだけにとどまらなかった。ヒット商品の誕生に役立ったのは、予想もつかなかった傾向だった。具体的には、夕方に甘い飲料を購入しているのは女性よりも男性、それも30~40代ということが分かったのだ。
「夕食前に小腹を満たしたいという男性のニーズがありそうだ」と仮説を立てた同社は、飲料メーカーと共同でりんごジュースを開発。商品パッケージの工夫も手伝って、ヒット商品になった。
JR東日本ウォータービジネスは現在、大きめのタッチ画面を内蔵した自販機(次世代自販機)の導入を進めている。次世代自販機の前に立つ人の顔から性別や年代を判別し、個別のお薦め商品を表示するデジタルサイネージ機能を備えたものだ。これをSuicaのIDと掛け合わせることによって、売れ筋をさらに正確に予測できると期待している。
今年4月に販売を開始した「おいしいカフェオレ」は、実際に自販機での売り上げを性別ごとに分析し開発することが決まった商品だ。自販機の缶コーヒーはここ3年で5%ほど販売構成比が減っているものの、カフェオレは2%以上伸びており、女性の購入比率が高いことが分かった。このような分析結果から「より女性好みのカフェオレを作るべきだ」といったことが決まっていったという。
今後は、現場のオペレーション力をさらに高めていく。そのために今年5月、エキナカ自販機オペレーションチーム「チームアキュア」を結成。業務改善の取り組み発表会「仮説検証甲子園」を年2回開催し、仮説検証の成功モデルを共有し合い、自販機1台当たりの販売額増を目指す。