明治安田生命保険は保険請求の診断書のチェックに高速なテキスト分析を活用し、契約者の請求を受けてから支払うまでのリードタイムの短縮を実現した。8割程度の案件で2日間で保険金を支払えるようになった。

 リードタイム短縮は、医師が診断書に書き込んだテキスト情報を分析し、標準的なデータに変換、辞書を構築することで実現した。今後、診断書など自社が保有するデータと国の統計などオープンデータなどを掛け合わせ、ビッグデータとしての活用を検討していく。

 システムは従来の目視の仕組みと1年間並行で確認し、2012年12月に本格稼働させている。日本IBM のテキスト分析製品「コンテンツ・アナリティクス・ウィズ・エンタープライズ・サーチ」を利用して構築しており、1年間かけて実際の診断書のデータ約60万件を分析システムに入力。約80万語の独自の辞書を構築した。同製品は、富国生命保険が顧客の問い合わせが苦情がどうか判別するのに採用しており、生保業界においてビッグデータのテキスト分析活用が広がりつつある。

明治安田生命保険の導入したテキスト分析システムの管理画面
明治安田生命保険の導入したテキスト分析システムの管理画面

 導入の契機は、2005年に発生した「保険金の不払い問題」。金融庁から2週間の業務停止命令を受けて、保険業界全体で診断書などのチェック体制を強化した。ただし人手によるチェックには限界があり、保険の契約者に対して他にも支払うべき項目があるかどうかを早い段階で洗い出すことは不可能だった。

 「医師によって傷病名を一般的な呼称で記入しなかったり、医療技術の進歩で新しい手術名が追加されたりする」(情報システム部の渡邉智部次長)のが洗い出しを難しくしている。例えば、診断書には原因を「胃癌」「がん」「ガン」「癌」など、手術名には「胃全摘手術」「胃全摘術」「胃全摘除術」などと書かれる。新システムでは、これらのテキストを分析し、明治安田生命が定めた「手術名:『胃全摘除術 悪性』」というデータに自動で変換する。

 人海戦術による繰り返しチェックと比べて、顧客への保険金の支払いのスピードが向上した。従来は2日間で支払えると判断できる保険請求は半分程度だったが、現在は7~8割まで引き上げることができた。人件費の圧縮以外のメリットもある。顧客の書類を営業担当者が受領してから支払いまで、5営業日を超える遅延は契約者に利息を支払う必要がある。こうしたケースの削減が、年間億円単位のコスト削減効果につながった。

 辞書は3~6カ月に1回の割合でメンテナンスしているが、「作業は保険金部などシステムに詳しくない利用部門が行う」(渡邉部次長)ため入力方法を工夫した。具体的には、追加したり修正したりする用語を、表計算ソフトのセルのフォーマットで入力。それを基にシステムが新たな辞書を自動的に生成する。医師が記入した診断書の文字列は、NTTデータに委託してテキストのデータに変換している。

 データ活用は営業担当の業務支援にも広がっている。対象となる顧客に請求を促す適切な案内状を自動で作成し、各営業拠点の担当者が利用するデータとして配信するシステムを昨年11月に稼働させた。

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