富国生命保険は保険の契約者がコールセンターなどに寄せた申し出の中から、苦情を自動判別するシステムを2013 年末に本格稼働させた。人海戦術によるチェック作業を大幅に減らして、作業量が10分の1になった。5000万円前後とみられる投資は、人件費の削減で早期に回収できる見通しだ。
ITベンダーである日本IBMのテキスト分析ソフトの採用で実現した。顧客の申し出の膨大なテキストと、それが苦情かどうかの“ 正解”のデータを、システムに覚え込ませている。

従来はコールセンターのオペレーターが苦情かどうかを個別に判断していたが、「静かな口調で話されると苦情と認識できず、大変な状況を見逃してしまう」(お客さま相談室の金井和弘室長)といった課題があった。また住所や電話番号の内容変更の申請と思ったものが、実は登録情報の間違いという苦情に分類すべきものの可能性もある。逆に語気が強い人の意見を苦情に分類してしまうこともある。
1日平均で約3000件の申し出がコールセンターやWebサイトを通じて舞い込んでくる。このうちオペレーターは約100件を「苦情」と判断してシステムに登録するが、残りの2900件の中にも上記のように苦情が入っている可能性が高い。1日平均で約2件がそうした認知されない苦情であり、20人が人海戦術で延べ約21時間かけて見つけ出していた。
これに対して新システムでは2900件のテキスト情報から、苦情として分類すべき300件を判定する。300件まで絞り込まれれば、4人が2時間程度でこの約2件の苦情を見つけ出せるという。
顧客への対応も迅速となり満足度の向上が見込まれる。これまでは2件の苦情を発見するフローにおよそ1週間かかったが、翌日には分かるようになった。システムが夜間に申し出を判定し、翌日には分類をし終えるからだ。

従来は別の分析ソフトを利用していたが、特定のキーワードでテキストを検索し、多いか少ないかの傾向をつかむことしかできなかった。日本IBMの「コンテンツ・アナリティクス・ウィズ・エンタープライズ・サーチ」を導入した新システムでは、苦情の相関関係が把握できるようになった。例えば、特定の支店で苦情の報告が多い、といったことが分かる。
また、日本IBMに要望し、富国生命側でデータ分析の軸を自由に加えたり削除したりできるようにした。これによって「試行錯誤しながら、適切な分析軸が見つけ出せるようになった」(事務企画部の齋藤賢主任調査役)。申し出のデータは過去の分を合わせて約170万件をシステムに蓄積している。今後、新商品の開発や、苦情の予兆発見など、新たなビッグデータ活用を検討していく考えだ。