エステーは、防虫剤の需要を予測する「ムシューダ指数」を販売店に提供し、機会損失の削減に努める。今年は気象や販売データに加えて消費税率アップも考慮して需要を予測した。

 ノーネクタイに夏用ジャケットという「クールビズ」の取り組みが導入されて約10年。多くの企業や自治体では、毎年5月から9月にかけて社員や職員が軽装で仕事に臨んでいる。その直前である3月から4月にかけて、洋服ダンスにある冬物のスーツをクリニーングに出して夏用ジャケットに切り替える。そして防虫剤を取り換える。秋には夏物を冬物に替える。

 防虫剤で国内シェア1位のエステーにとって、この衣替えの時期をいかに高精度で予測するのかが収益を左右する。

エステーの防虫剤フェアを実施している売り場(ジョイフル本田荒川沖店)
エステーの防虫剤フェアを実施している売り場(ジョイフル本田荒川沖店)

 衣替えの時期になると、防虫剤の売り上げが一気に向上するからだ。需要のピークを読んで防虫剤を仕入れて売り場に並べておかないと、あっという間に売り切れになり、販売機会の損失を招く。

 逆に衣替えの時期でないのに防虫剤を数多く仕入れると、無駄な在庫となる。それだけに防虫剤メーカーにとっても、販売店にとっても、衣替えの時期を正確につかめるかどうかが収益を左右することになる。

気温と衣替え、防虫剤の相関

 そこで目を付けたのが、「気温と衣替え、そして防虫剤の売れ行きには強い相関関係がある」(マーケティング部門マーケティンググループ第2チームの野口和宏シニアスタッフ)という点だ。

 10年前に防虫剤の売れ行きを「ムシューダ指数」という数字で予測することを始め、販売店に対して情報を提供してきた。ムシューダ指数のグラフを見ると、1週間単位で防虫剤の需要量が分かり、ピークがいつごろになるのかの目安として活用できる。ちなみにムシューダ指数は、北海道から沖縄までの地域ごとに算出しているが、トレンドの違いは1週間ぐらいで、ほぼ同じだという。

 販売店はムシューダ指数を参考にして、売り場スペースの場所や大きさを判断することになる。ムシューダ指数をグラフで伝えることで、「文字や数字だけに比べて、需要の変化を頭に入れながら最適な売り場を作りやすい」(営業部門東京支店第一営業部第一販売課の矢倉秀徳課長)のが利点である。

 ムシューダ指数の導入以前は、エステーの営業担当がそれぞれ独自に売れ行きの数字を予測して販売店に伝えていた。矢倉課長の場合は過去4~5年分のトレンドを参考として提示していたという。

 ムシューダ指数はエステー側でも活用する。指数が上がってシーズンが近づくと、それに合わせて防虫剤のテレビCMを出稿したり、販売店と共同して衣替えのフェアを企画したりする。

 鈴木喬会長は、ムシューダ指数のようなデータを分析して判断を下す冷静さと、製品を考えたり見たりする好奇心、この2つを備えた集団でありたいと考えているという。

ピーク期6カ月前から指数を提供

 「ムシューダ指数は年を追うごとに精度が上がってきて、販売店からも信頼されるようになった」と、矢倉課長は話す。

 ムシューダ指数を算出する具体的な方法は非公表である。データとしては気象情報会社であるウェザーニューズが提供している過去5年の最高気温や最低気温、降水回数や降水量、これにムシューダの販売データを掛け合わせている。

ムシューダ指数と販売実績(棒)と気温(折れ線)の関係
ムシューダ指数と販売実績(棒)と気温(折れ線)の関係

 エステーは毎年、衣替えがピークとなる6カ月前からムシューダ指数を販売店に提供し、防虫剤のシーズンの立ち上がりが早いか遅いかを知らせる。春の場合は、衣替えのピークが4月末ごろになるので、前年の12月には提供している。秋の場合は、9月末ごろにピークが来るので、4月に提供を開始している。

 ピーク時期が通常より早い場合には販売店に、「防虫剤の売り場をしっかり作ってください」と提案し、機会損失をしないようにする。逆に遅いと見込まれる場合は「防虫剤の売り場は後にしましょう」と提案し、最適なタイミングで衣替えフェアを実施できるようにする。年間52週、1週間単位でピークの時期や週別の指数を見直している。

増税駆け込みで販売5割増

 毎週の見直しが功を奏したのが、今年の消費増税の前の駆け込み需要だった。今年1月、2月は、前年比90%の売れ行きだったが、3月に入ると前年比111%まで上昇。その後急速に売れ出して、今年3月全体では前年比150%となった。

 当初の指数の予測では1997年の税率アップ時を考慮して、今年3月は前年比117%になると見込んだ。ただ、直近になっての急増を受けて、販売数量はさらに伸びると上方修正した。その結果、機会損失を防げた販売店から感謝されたという。

 指標の精度向上に向けた改善は常に続けている。野口シニアスタッフは、「昨年3月は気温が異常に高くなり、防虫剤が一気に売れ出した。その結果、供給が追い付かないという事態には至っていないが、こちらの予測以上に売れた」と明かす。実は2013年春、従来は過去5年の販売と気象のデータを利用して予測していたが、過去3年間に短縮していた。そこで同年秋は過去5年間のデータを使う予測に戻した。

 防虫剤の市場は成熟して、競争が激化している。絶対に虫に食われないという防虫機能だけでは差異化できない。取り替えの時期が来たら「おわり」と出るなど、製品の表面に分かりやすく示すようにしたり、衣類にいい香りが付くようにしたりして、新たな機能性を訴求している。

 今年5月には、防虫剤でライバルの白元が民事再生法の適用を申請した。そんな市場環境の下、エステーが防虫剤市場での売り上げを最大化するためには、ムシューダ指数の精度向上が市場を勝ち抜くカギとなる。

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