専門部署を新設して1年、アサヒグループホールディングスのビッグデータ活用が成果を生み始めた。過去の類似商品の販売・出荷データや、ネット上のクチコミを参考に新商品の流通在庫を適正化させている。

アサヒビールが今年5月に発売した「アサヒ アクアゼロ」
アサヒビールが今年5月に発売した「アサヒ アクアゼロ」

 アサヒグループホールディングスのビッグデータ活用が成果を生み始めた。アサヒビールが5月に発売した新ジャンル(いわゆる第三のビール)「アサヒ アクアゼロ」の流通在庫を減少させている。こうした成功事例を積み上げていき、いずれグループ全体へ横展開していく方針だ。

 ビッグデータ活用について主体的に取り組んでいるのは、アサヒビールの経営企画本部経営企画部に昨年新設したデジタルコミュニケーション戦略室だ。各部門のエキスパート7人が集められている。戦略室の設立に当たってアサヒビールの経営トップから「デジタル技術を通じて、お客様とのより深いコミュニケーションを実現し、新たな付加価値を提供し続けてほしい」との期待が寄せられたという。

 営業統括本部流通部担当部長を兼務する松浦端デジタルコミュニケーション戦略室長は、「アサヒグループが消費者の変化に対応するために作った組織。あえてマーケティング部門ではなく経営企画部に入れたのは、部門最適ではなく全体最適を目指しているからだ」と説明する。ビッグデータに基づいた意思決定の取り組みを、同社の研究開発、生産、マーケティング、営業など部門横断で取り入れる。さらには、グループ全体に浸透させていくというのがデジタルコミュニケーション戦略室のミッションだ。

過去類似商品の出荷・販売量と比較

 最初に着手したのは、流通在庫の適正化だ。とりわけ、新商品の流通在庫を適正化するのは難しいという。理由はいくつかあるが、「本当にヒットするかどうか、継続した購入につながるか、既存の商品に比べてなかなか確証が持てないからだ」と松浦デジタルコミュニケーション戦略室長は話す。

 アサヒビールの主力商品である「スーパードライ」は継続的に売れており、ビッグデータの仕組みを入れなくても、需要を予測しやすい。工場で生産されたスーパードライは3日以内に出荷され、流通在庫は3~5日と安定している。

 だが、新商品の流通在庫を適正化するのは容易でない。そこで、ビッグデータ活用の取り組みを進めて流通在庫の適正化を図り、その効果を検証しているというわけだ。

 今年5月20日、アサヒビールはアクアゼロを発売した。発売に先駆けて5月15日から需給会議を毎日開いて、流通在庫の適正化に取り組んでいる。その際に活用しているのが、今年2月に導入した日本オラクルの「Oracle Endeca Information Discovery」だ。出荷や販売のデータといった構造化データと、Twitterへの投稿といった非構造化データを組み合わせて分析できるのが特徴である。

 下の図は、実際に活用している画面のイメージだ。いくつかあるメニューの中で「類似商品分析」という画面を表示している。右上のグラフで今回発売したアクアゼロの出荷量(アサヒビールの工場から卸に配送した数量)と販売量(卸から小売店に配送した数量)のデータを見ることができ、流通在庫(出荷量-販売量)を確認できる。

日本オラクルの「Oracle Endeca Information Discovery」を活用した分析画面(一部を加工)
日本オラクルの「Oracle Endeca Information Discovery」を活用した分析画面(一部を加工)

 左上のグラフは、同社が過去に開発した新商品の出荷実績推移だ。出荷量の規模などを見て、今回発売したアクアゼロと類似した過去の新商品を探し出すために使っている。

 「このグラフからアクアゼロと似たような売れ方をしている過去の商品が浮かび上がってくる。過去の類似した商品がたどった道を知ることで、アクアゼロの今後を探る手がかりにしている」とアサヒプロマネジメント業務システム部業務グループの光延祐介担当課長は話す。 

 下のグラフで、アクアゼロと類似した過去の新商品の具体的な数量などと比較できる。発売後の立ち上がりが同じなのか、異なるのか一目瞭然に分かり、今後の生産計画に生かしている。

 その結果として、過去の新商品に比べて流通在庫の量を適正化(少なく)することができた。下の図で、アクアゼロの場合は過去の新商品に比べて、出荷(グレーの線)と販売(えんじ色の線)の差(流通在庫)が縮まっているのが分かる。

アクアゼロの出荷と実販(左)は、過去の類似商品と比べて差が少なく、流通在庫が適正化されている
アクアゼロの出荷と実販(左)は、過去の類似商品と比べて差が少なく、流通在庫が適正化されている

SNSの書き込みも参考に

 アクアゼロは、「“糖質ゼロ”でありながら“しっかりした飲みごたえ”が特長だ」(アサヒビール)。テレビCMなどを通じて伝えられるこうしたアピールポイントが、消費者にどう受け止められているのか、「よりビールに近い飲みごたえ」という触れ込みに対してどんな反応があるのか、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の書き込みを見ながら判断している。ポジティブおよびネガティブの両方の書き込みなどを見て、売れ行きとの相関を探っている。「SNSの書き込みを見ることで、なぜ買わなかったのかといった理由を探ることができる」と、光延担当課長は話す。

 今回導入した分析システムは、1つの画面に判断を助けるグラフや表を重ねて見られる。これによって、流通在庫を適正化する生産計画の意思決定を正確かつ迅速に行えるかどうか、さらに検証を重ねていく。狙い通りうまくいけば、横展開していく考えだ。

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