日本郵船はコンテナ船のビッグデータ活用を推進している。エンジンの回転数や燃料消費量に加えて、航行スピードや揺れ、風向、風速、舵角、波高などのデータを 1秒ごとに収集して分析。過去の蓄積データから、燃料効率のよい船舶の航行モデルを「ベストプラクティス」とし、効率的な運航で燃料消費を削減するのが狙い。2009年に本格的に稼働させ、平均で約1割の燃料費を削減している。

 日本郵船グループのMTIでビッグデータ活用を担当する安藤英幸 船舶技術部門長・船舶情報グループ長は「船舶におけるビッグデータ活用の根幹は、収集したデータから船の性能を入念に予測すること」と説明する。

 今回の取り組みでは、船舶にエンジンの回転・温度 ・圧力を計測するセンサーや燃費計、GPS(全地球測位システム)、スピード計(ソナー)、動揺センサー、対水船速計などを搭載し、数千項目のデータを収集している。データは独自開発の装置に蓄積したうえで処理している。さらに外部から気象データを取り込み船上で統計を取り、船舶用の衛星通信でデータセンターに1時間ごとに送信。センターで、過去データを含めて運行を分析・解析し、最適な運行ルートを必要に応じて船舶に伝える。

日本郵船が独自に開発した「データ収集装置」
日本郵船が独自に開発した「データ収集装置」

 コンテナ船は、船舶の性能や積載量、航行ルートが同じであっても、荒天時の速度調整で燃料の消費量が異なる。例えば荒天時に晴天時と同じ速度で航行するためには、エンジン回転数を上げる必要があるからだ。しかし、燃料消費は速度の3乗に比例して増加し、効率が悪くなる。このため一般には燃料消費量の抑制や安全性の確保のために、エンジンの回転数を上げない。

 今回、航行に関わるビッグデータを分析し可視化することで、燃費、安全性、コストのバランスを最適に保つ、適切なエンジン回転数の設定ポイントがあることが分かった。過去の蓄積データを分析することで、燃料効率のよい船舶の航行モデルを見いだす「ベストプラクティス」が生きてくる。

 燃料費の高騰が続いており、燃料費の抑制は同社にとって最重要の課題の1つでもある。この取り組みで燃費の適正化を図り、コンテナ船1隻あたり平均10%の燃料費削減を実現した。1日150t(トン)の燃料を消費する船であれば、1日あたり約1万ドル(燃料費1トン700ドルで計算)のコスト削減になる計算だ。

新造船の開発や設計にも貢献

 通信環境の変化もビッグデータ活用を後押しする。これまで海洋の通信は従量課金が一般的だったが、2010年4月に常時接続の定額制サービスが登場した。2012年には船舶と陸上でのブロードバンド通信が可能になった。今回の取り組みでは、1日にやり取りされるデータ量は数十キロバイトである。船上で平均値化したり、標準偏差をとったりして一次的な処理をしたうえで送信している。

 現在は50隻のコンテナ船にデータ収集装置を搭載している。今後、タンカー船やバルカー船、自動車輸送船などにも展開する方針。さらに設備の異常や不具合を、予兆の段階で検知するシステムの開発にも注力する。

 蓄積したデータは新造船の開発や設計にも貢献する。「運行シミュレーションは机上の計算。それが実運行とどの程度“ズレ”があるのかビッグデータで確認できる」(安藤氏)からだ。日本郵船グループとして、流体力学のシミュレーションや、模型によるエンジンプロペラの性能確認といった技術を保有している。ここにビッグデータを組み合わせることで、より安全で効率のよい新造船の開発を目指す。

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