オムロンは産業用の制御機器などを生産する草津工場で、生産工程の見える化による効率改善に乗り出した。2013年度に取り組みを始め、品質などのトラブルと、各工程の問題との関係を迅速に突き止めることができるようになった。現在1時間当たりの生産数量を7%改善させることに成功しており、最終的に2~3割の向上を目指している。
実験的に電子機器のプリント基板の表面実装ラインの工程に新システムを導入した。具体的には基板の上にはんだを塗布する「はんだ印刷機」、はんだを溶かして実装する「高速マウンター」と「多機能マウンター」、部品を固定する「リフロー炉」の工程である。
それぞれの工程の装置が出力するログデータを、20~30項目ずつ1秒間隔で取得。データベースに蓄積したうえで、基板ごとの流れをグラフ化した。基板ごとに仮想のIDを割り振ることで、各工程で発生したイベントを関連付けて表示できるようになった。今後、検査工程の画像データも連携させていく考えで、まさに生産ビッグデータの実現に向けて乗り出した。
工程の作業が遅滞なく流れているのかどうかリアルタイムで一目で分かるようになった。問題のない工程はグラフの折れ線が周期的に続くが、「生産装置や作業員になんらかの問題が発生するとグラフの形が崩れる」(オートメーションシステム統轄事業部 草津工場製造部製造1課の水野伸二主査)と言う。グラフ上の丸は青色が生産装置の出力する「警告」、赤が「停止」をそれぞれ表しており、丸の大きさが発生回数を示している。これによって直感的に問題の予兆をつかめるようにした。
効果は大きく2つ。1つがトラブル発生時の対処時間の短縮である。「従来はトラブル原因の分析に5人以上のベテランが投入されることもあったが、大抵の場合1人で対応できるようになった」(オートメーションシステム統轄事業部 草津工場製造部実装課の水島謙二主事)。例えば、部品を基板に載せる工程の問題と思われていたが、実際にトラブルを起こしていたのは、はんだ付けを行う「リフロー炉」の生産装置だった。複数の工程で同時に起きていることや、1つの仕掛品について他の工程で発生している問題や予兆といったことが1画面で分かる。問題を突き止めるまでの時間を短縮でき、現時点で1時間当たりの生産数量を7%改善できているという。
2つめが予兆の把握による、改善のスピードアップである。同工場は1日に30回近く生産する製品を入れ替える「多品種少量」型の生産体制である。このため「小さなトラブルは見過ごされがちで、抜本的に改善するかどうかの判断が難しかった」(水野主査)。新システムによってすべてのログを後から参照できるようになり、製品や工程特有の問題かどうかを判断できるようになった。
今後は、検査工程の画像データもデータベースサーバーに格納し、紐付けて連携させる。実装の不良の状態と、各工程のログを掛け合わせて分析したり、改善に活用したりできるようにする。「最終的には作業員の動きも記録し、分析したい」(水野主査)。
オムロンは今回の成果を基に他の工程や工場に仕組みを横展開していくほか、日本マイクロソフト、富士通と組んで、今回の仕組みをシステムとして外販する。
オムロンは生産装置の稼働ログを取り出す「Sysmac」と呼ぶ管理端末を売り込む。Sysmacは米インテルのATOMプロセッサーを搭載しており、従来工場内に置いていた管理用のパソコンを代替するものだ。
取得したログデータは日本マイクロソフトのリレーショナル・データベース・サーバー「SQLサーバー」に直接出力可能だ。シーケンサーと呼ぶ、各工程の生産動作をプログラミングする機能も備える。Sysmacのコストは1台当たりおよそ100万円だという。
オムロンは2014年度、国内外200社の工場にSysmacを核にしたシステムを導入していきたいとしている。日本MSはSQLサーバーや表計算ソフトのExcelを活用した汎用システムによる導入コストの低さを訴え、製造現場という新市場の開拓を図りたい考え。富士通はシステム化や顧客個別のカスタマイズを担当する。