プラグインハイブリット車(PHV)の本格普及後、充電の集中で電力系統に悪影響が出ないか。トヨタは実証実験で、需給バランスを予測して充電の集中を避けることに成功した。

 「豊田市低炭素システム実証推進協議会」の実証実験は、今年が5年目の最終年度となる。主力メンバーのトヨタが検証すべき課題の1つは、同社の「プリウス」など家庭のコンセントにプラグを差し込んで充電するPHVが局所的に集中して充電した場合に、地域の電力系統に悪影響を与えないかということだった。同社はPHVおよびオール家電住宅から随時データを収集、分析することで、電力需要を予測。各車が充電する最適なタイミングを自動算出して、分散させれば悪影響を及ぼさないという確証を得た。

 実証実験全体の目的は、2020年ごろまでに街レベルでの二酸化炭素(CO2)を約3割削減できるかどうか、検証しようというものだ。太陽光発電や家庭用蓄電池などを備えるオール電化の住宅67軒とPHV61台などを使用(実証実験では数台の電気自動車も使用)。豊田市や愛知県、トヨタ、デンソー、中部電力、富士通など48団体が参加している。

 実証実験の概要はこうだ。化石燃料による発電をベースとした電力(主に電力会社が供給)ではなく、太陽光発電など自然エネルギーの利用率を高めたり、PHVの電動走行率を高めてガソリンの使用率を下げたりすることで「CO2の3割削減」の実現性を検証する。実験当初から参加するトヨタは今回、同社として得られた成果を総括した。

PHVとオール電化住宅を使った実証実験の概要
PHVとオール電化住宅を使った実証実験の概要

PHV充電の適正タイミング自動算出

 「今回の実証実験で、PHVが普及しても地域全体の電力系統に電力不安定化などネガティブなインパクトをもたらさないこと。そしてPHVに乗っている人に十分なメリットがあることを確認することができた。PHVおよび住宅双方のデータを収集して分析・制御・検証できたことは意義深い」と、トヨタ自動車技術統括部の川本雅之主査は話す。

 トヨタが確証を得た2つの成果について詳しく説明しよう。まずPHVの普及が地域の電力系統に悪影響を及ぼさないようにする重要なポイントは、各PHVを充電するタイミングの制御にある。各家庭がエアコンや照明などの使用と同時にPHVを充電すると、契約電力を超えてしまう可能性が出てくる。もし契約電力を一定時間超えると、遮断機が作動して停電してしまう。地域全体の電力も不安定な状態に陥る。そこで実証実験では、PHVを充電するタイミングを分散させることができるかどうか、検証した。

 実証実験では、日中か夜かの時間帯や天候に応じて変わる地域内の太陽光電力の余剰量に応じて、電力料金の負担額を変えた。余剰量が多いときに電力を使用すればポイントを付与し、少ないときにはポイントを減らす仕組み。実証住宅にある家庭用蓄電池をうまく使って自給自足すれば、1ポイント100円相当のポイントがたまり電力料金を補填できる。いずれ実施されるといわれる電力自由化を念頭に置いたものだ。

 多くの家では、帰宅してPHVをガレージに停めた夕方から夜にかけて充電される。ちなみに充電には3時間ほどかかる。何もしないとPHVの充電需要はここに集中するわけだ。そこで実証実験では、PHVの充電には3つのモードを用意した。

(1)いますぐ充電
すぐに充電できるが、電力料金は高いことが実証住宅にあるフォトフレームタイプのモニターに表示される。どうしても充電しなければならない場合に選ばれるモード
(2)おすすめ充電
各家庭にある同モニターに電力料金が安い時間帯を表示。タイマーをセットすれば、電力が低料金のときに充電できる
(3)お任せ充電
PHVに乗って外出するまでの時間で、電力料金が低い最適なタイミングを算出して自動的に充電するモード。家庭用蓄電池付きHEMS(住宅向けエネルギー管理システム)と地域全体のエネルギー情報を管理するEDMS(エネルギー・データ・マネジメント・システム)が連携して、PHVの充電によって各家庭の契約電力を超えたり、地域全体でPHVの充電が集中したりしないように制御する

 結論から言うと、(2)のおすすめ充電はあまり使われなかったという。そして、(3)のお任せ充電によって適正なタイミングに充電する自動制御がないと、PHVの充電を分散できない傾向があることが分かった。

 適正な充電のタイミングを算出するアルゴリズムは未公表だが、EDMSによってエアコンや照明、洗濯機などの電力使用をモニターしつつ、過去の電力需要データや太陽光発電の供給量などを基に、地域内における自然電力の需給バランスを予測して適正な充電のタイミングを算出している。「冷蔵庫は常時電力を使用しているし、(家庭用蓄電池の)エコキュートなどのプログラミング機器も電力使用を予測しやすい」(川本主査)と言う。

電力利用が平準化された場合と電力利用が集中している場合の消費電力推移
電力利用が平準化された場合と電力利用が集中している場合の消費電力推移

燃費リッター700kmも

 PHVのメリットについては、停電時の貴重な電力源になることなどいろいろあるが、実証実験ではガソリン車に比べてコスト優位性が高いかどうか確かめた。まず、61台のPHVからGPS(全地球測位システム)データやブレーキを踏んだ時間、走行距離、電動走行時間など様々なデータを収集。

 「あまりガソリンを給油せず、燃費リッター700km相当になるクルマもある」と川本主査は話す。実証実験に参加する住宅の周辺には、無料で充電できる施設が多く、小まめに利用していることが分かった。家でも、安い電力料金の時に充電するなど、ガソリン車に比べてかなりのコストメリットがあることが確認できたという。実証実験では、効率よくPHVを使っているクルマのランキングを各家庭のモニターに表示して、競わせることもした。

 今回のデータ収集・分析・制御・検証といった作業に当たっているのは、トヨタの技術統括部をはじめ、トヨタテクニカルディベロップメント(TTDC)に所属する数人の分析担当者および予測制御アルゴリズム(ソフトウエア)を開発する人材などだ。TTDCは車両開発や電子システムの開発などのほか、車両開発に必要な情報システムの開発や性能評価、計測機器の開発などを手掛けているトヨタの100%子会社。クラウドサーバーは富士通、入出力関連は日本ヒューレット・パッカードが担当している。

 今回の実証実験では、HEMSや専用端末(フォトフレーム)などを使っていたが、実用化の段階ではもっとコストを抑えるようにしたいという。例えば、高機能なHEMSではなくスマートメーターに対応できるようにしたり、専用端末ではなくスマートフォンなどに表示したりする。

 PHVのおまかせ充電など、最終的にサービスを展開する業者は、現時点で決まっているわけではない。ただし、PHVを所有している各家庭とかなり密接につながっていくので、「付帯的なメリットを享受できる可能性が高い」と川本主査は説明する。いずれにしてもトヨタとしては、充電するタイミングを制御すればPHVの普及が社会に悪影響を起こさないことが確証できたことで、PHVをはじめとする充電/放電できる自動車の開発・製造に拍車がかかるだろう。

この記事をいいね!する