「私はビッグデータというコンセプトは好きだが、この言葉にはなじめないでいる」とするダベンポート教授。アナリティクス3.0特集の中編では彼なりのビッグデータの定義を取り上げる。

 アナリティクス3.0の特徴の1つが、あらゆる種類のデータを統合して使用することである。

 これまでも大量のデータを分析してきた米国の大企業は、3.0の時代に音声や文章、画像、映像といった新しいデータを分析することで、新しい価値を見いだそうとしている。

 「金融機関は無数のログファイルを解析して個々の顧客とのやり取りを、各チャネルをまたいで把握できるようになった。顧客の待ち行列をビデオで撮影して分析しているホテルチェーンや、コールセンターに寄せられた電話の内容を文章化して分析し顧客の不満を予測することに役立てている保険会社もある」

 GEやUPSなどは、センサーなどを通じて機器から集められたデータを活用している。GEはガスタービンの最適化によって660億ドルのコスト削減効果が得られる可能性を突き止めた。さらにビッグデータの活用で航空機エンジンのエネルギー消費量を1%改善できた場合、15年間で300億ドルのコスト削減効果を航空業界にもたらすと試算している。

 ダベンポート教授は、様々なデータの中でもセンサーデータの活用がさらに進むと予言する。
 「より今後も続きそうなのは、『センサーデータ』のほうだ。ネットワークに接続された機器の数は、2011年に世界の人口を上回った。さらに25年までに、500億のセンサーがインターネットに接続するようになると研究者たちは予測している。モノのインターネット(Internet of Things)の完成というわけだ」

 ダベンポート教授はもう1つの特徴として、「アナリティクス3.0の分析モデルは、業務プロセスや意思決定プロセスの一部に組み込まれ、劇的にその速度と重要性を向上させていることが多い」とも語る。データ分析結果が業務の現状を「記述」(アナリティクス1.0)し、将来を「予測」(同2.0)するだけではなく、どうすべきか「指示」(同3.0)まで出す。その例としてP&Gの取り組みを紹介している。

 「一連の『ビジネス充足モデル』(同社の7つのビジネス領域を管理するために必要な情報を網羅したもの)が2つの主要な意思決定プロセスに組み込まれている。その1つである『意思決定コックピット』は、P&G社内の5万台以上のPCにインストールされている。『ビジネススフィア』と呼ばれている特別な部屋は、経営陣がグループの意思決定のために使うもので、ビジュアル化された分析結果が表示される大型スクリーンが設置されている。ビジネススフィアは現在50カ所以上のP&Gの施設に導入されている」

ビッグデータの定義

 さて、これまでビッグデータという言葉を何の説明なしに使ってきたが、ダベンポート教授による定義を紹介する。「私はビッグデータというコンセプトは好きだが、この言葉にはなじめないでいる」としながらこう定義している。

 「1つのサーバーに収まりきらないほど大きく、従来のデータベースで扱えるように構造化されておらず、絶え間なく流れ込んでくるために静的なデータウエアハウスには適さない、などの性質を持つデータ」

ビッグデータの定義「6つのV」
ビッグデータの定義「6つのV」

 さらにビッグデータを表す言葉として「6つのV」を挙げている。ボリューム(データの規模)やバラエティ(種類の多様さ)、ベロシティ(処理速度の速さ)、ベラシティ(正確さ)、バリュー(価値)などだ。

 その上で「データ量の大きさに目を奪われてはならない。大切なのは、それをいかに分析するか、すなわちどうやって見識やイノベーション、ビジネス上の価値に転換していくかという点だ」と強調している。

 今後、ビッグデータ活用が及ぼすインパクトは広がる。ダベンポート教授は著書の中でこう述べている。

 「私はおおむね、ビッグデータが企業と業界の姿を一変させるだろうと確信している。中でも影響が大きいのは、次のような業界だ。何かを移動させる業界、消費者へ何かを販売する業界、機械装置を使う業界、コンテンツを取り扱う業界、サービスを提供する業界、何らかの物理的な施設を保有する業界、お金に関係する業界」

 あらゆる業界の構造がビッグデータによって一変する可能性があると言ってもいいだろう。

従来の分析手法との違い
従来の分析手法との違い

日本のアナリティクス3.0企業

 では、日本企業でアナリティクス3.0時代を先取りしているところはあるのだろうか。日本企業の中でも膨大なビッグデータを蓄積しているヤフーの取り組みは、アナリティクス3.0に近い。

 同社データソリューション本部の小間基裕本部長は、「データの統合化に力を入れている。『個人ではなく全社でデータ分析に取り組むべき』というダベンポート教授の考え方について、強く共感している」と話す。

 GEはアナリティクス3.0時代を先取りしている企業というダベンポート教授の見立てに倣うなら、コマツも当てはまるはずだ。同社の機械稼働管理システム「KOMTRAX」は、世界の34万台以上の建機にGPS(全地球測位システム)と各種センサーを埋め込み、膨大なセンサーデータを収集している。

 故障する前に修理する体制を敷いてアフターサービスの満足度向上を実現するだけでなく、無人ダンプトラック運行システムなど顧客の施工を大きく改善するソリューションも提供するようになった。

 また、リアルタイムの稼働状況を把握して流通在庫の最適化を図っている。コマツの連結売上高営業利益率は、競合企業に比べて5ポイント近く高い。データ活用によって高い業績を実現している点は評価に値する。

 ダベンポート教授は「アナリティクス3.0時代を先取りできる企業こそ、最大の価値を手にできる。自動車や民生機器、産業機械、医療・ヘルスケア、旅行などの業界では、今すぐにビッグデータ活用に乗り出すべきだ。今やることが重要で、もしやらなければいずれ淘汰の憂き目に遭う」と、今まさに変化が訪れていると強調した。

 その意味で、いかに体制を整えて実践していくのかが重要になる。ここからは、同氏の書籍を参考にしてデータ分析に取り組み、成果を上げている企業に注目しよう。

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