トーマス・H・ダベンポート教授は、データ分析の管理手法「アナリティクス3.0」を提唱する。大企業がビッグデータで成長戦略を描くためのヒントが詰まっている。

 この20年、日本企業の多くが世界の成長から取り残され、「失われた20年」と言われるなど苦戦を強いられてきた。しかし、ここに来て過度な円高が是正して株価が上昇。今後の焦点は成長戦略だ。

 日本でも、ヤフーや楽天といったネット企業などは、デフレ不況をものともせず、一貫して高成長を享受してきた。今後、ネット企業以外の日本企業が成長軌道に乗ることができるかどうかに注目が集まっている。その成長戦略を描く上で有力な手段の1つが、データ分析の新しい管理手法である「アナリティクス3.0」である。オンライン企業だけでなく既存の大企業を含むあらゆる企業にとって、ビッグデータを活用する好機が訪れているのだ。

 もちろん、これまでもデータ活用によって意思決定のスピードを上げ、コストを削減し、消費者に受け入れられる商品・サービスを開発してきた。しかし、いままで扱ったことがなかった社内外の「非構造化データ」であるビッグデータを活用することで、日本企業が再び成長軌道に乗るチャンスが到来している。

 こうした大きなトレンドをつかむ上で主に米国企業によるビッグデータ活用の取り組みは参考になる。既に米国では、米ゼネラル・エレクトリック(GE)や米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)といった既存の大企業が、ビッグデータを活用する体制の構築に乗り出している。

 アナリティクス3.0を提唱するのが、アナリティクス界の“ピーター・F・ドラッカー”とも称される米バブソン大学のトーマス・H・ダベンポート教授だ。長年、データ分析の重要性を説いてきた同氏は、日本でも大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンターの河本薫所長など、著名なデータサイエンティストらから信奉されている人物だ。ダベンポート教授はこの5月、最新刊『データ・アナリティクス3.0』(日経BP社)を刊行した。

BigData Conference 2014 Springで講演するトーマス・H・ダベンポート教授
BigData Conference 2014 Springで講演するトーマス・H・ダベンポート教授

 「アナリティクス3.0を追求する企業は、スモールデータとビッグデータ、社内と社外のデータ、構造化データと非構造化データなど様々なデータを統合して予測型もしくは指示型(課題にどう対応するか具体的な解決策を示すこと)の分析を行って新しい発見を得ようとしている」と述べている。

 本特集では、ダベンポート教授が提唱するアナリティクス3.0とは何か、書籍から読み解く。その際に、同教授自身はあまりなじめない言葉としているビッグデータについて、彼の定義を示す。さらに、同教授の考え方を取り入れながら、ビッグデータ活用による改革を推進している日本企業を紹介する。

1950年代半ばに1.0が始まる

 ダベンポート教授によれば、1950年代半ばからデータ分析に関する関連技術が企業内で使われ始めたという。54年に米大手物流のUPSが企業として初のアナリティクス・グループを社内に設置。54年から2005年頃までの期間を「アナリティクス1.0」としている。

 1.0ではデータは比較的小さく、構造化されており、社内に情報源が存在していた。分析業務の大部分は現状を記述する分析か、もしくはレポートの作成である。分析モデルは「バッチ型」で数カ月かけて構築することも珍しくない。また、計量分析は現場の業務部門や意思決定とは離れた場所で行われていたという。

 何より、データ分析の点で競争しようという企業はほとんどなく、多くの場合、データ分析の戦略的重要性はわずかなものでしかない時代だったという。

 そして2000年代初期の時代を「アナリティクス2.0」の黎明期と位置づける。米グーグルなどのネット企業がオンラインデータの分析を始めたころだ。彼らはデータ活用で経済的価値を生み出す「データエコノミー」を先取りした存在である。

 一方で大企業は、顧客データや製品データなどの社内の構造化データで分析業務をしており、他のデータと統合することはほとんどなかった。「多くの点で、アナリティクス1.0の時代を引きずっていた」と、ダベンポート教授は説明する。

 そしてこの時代に生まれたのがデータサイエンティストだ。ダベンポート教授は、「新しい製品やサービスを開発し、会社の姿を変えていく存在であり、分析とビジネスという、2つの世界を橋渡しする存在である」と意義づける。

 米国の大企業は既にアナリティクス3.0の時代に入りつつある。下表に、1.0や2.0の違いを明らかにしながら3.0の特徴を示した。

データ分析の3世代
データ分析の3世代

 従来のデータ分析と、ビッグデータの良い部分を合わせたものであり、重要な意思決定や製品/サービス開発を迅速に行うことができるという。アナリティクス3.0という新しいデータ分析の管理手法は、ネット企業に限らず、金融機関やメーカー、小売業者、医療機関などありとあらゆる企業が取り入れることができる。この点が、2.0とは質的に違う。その特徴を同書を読み解いて、さらに詳しく見ていこう。