日経ビッグデータラボ主催のイベント「BigData Conference 2014 Spring」では、ビッグデータ活用の先進企業についてユーザー側、支援側の両方から多数の講演が繰り広げられた。リクルート、アマゾンの2社の取り組みから、ビッグデータ活用を成果や収益につなげるための知見を紹介する。

事業と専門部隊の浸食し合いがカギ【リクルート】

 リクルートは日本だけでなく海外のビッグデータ企業からも「大企業でビッグデータを組織的に活用している先進的な事例」と注目されている。その秘訣はどこにあるのか。ビジネスを創る事業部門であるリクルートキャリア 新卒事業本部の領域企画統括部メディアサービス部部長の富永淳一氏、ビッグデータ活用の支援部門であるリクルートテクノロジーズ ITソリューション統括部ビッグデータ部ビッグデータ1グループグループマネージャー菊地原拓氏、両サイドで最前線に立つ責任者が「データ活用企業の『作り方』」と題してディスカッションに臨んだ。

リクルートキャリアの新卒事業本部領域企画統括部メディアサービス部部長の富永淳一氏
リクルートキャリアの新卒事業本部領域企画統括部メディアサービス部部長の富永淳一氏

 セッションでは、両チームの連携の立ち上げ方、連携が機能する条件、成果やその指標である「KPI」の考え方、などが取り上げられた。富永氏はリクナビなど、主に就職活動分野の事業を手掛けている。就職活動中の学生に情報を提供したい企業からの掲載料が事業収入であるが、こうしたビジネスモデルが大きく変わりつつあるという。従来は就活生がほしい情報を考えて企画を立案し、それをサイトに情報として掲載していた。しかし「よかれと思って情報を提供したものが、本当に就活生が欲しっているものだったのか」(富永氏)との思いもあった。

 そこで就活生のプロファイルや行動を活用し、70万人のそれぞれに合わせた情報の提供に乗り出した。その課程で菊地原氏のビッグデータ専門部隊との連携を始めた。

 「事業部門としては、実現したいサービスのどこにどのような最新テクノロジーが活用できるのかを知ることが肝心。幸いグループ内に専門家がいた」(富永氏)。菊地原氏の部隊に高速処理基盤の「Hadoop」などのビッグデータ基盤の整備や活用、システムの実装などの面で支援を受けて新サービスのカットオーバーを果たした。

 両氏はリクルートの強みは「異なる立場の部門が互いに情報を共有し合い、知恵を出し合い、互いの領域を浸食し合いながら成長していく」ところにあると口をそろえる。両チームのメンバーが手弁当で、ビッグデータのテクノロジーや活用事例などについての勉強会を開催。「課題や目的の共有が極めて重要だと実感した」(菊地原氏)。

リクルートテクノロジーズのITソリューション統括部ビッグデータ部ビッグデータ1グループグループマネージャーの菊地原拓氏
リクルートテクノロジーズのITソリューション統括部ビッグデータ部ビッグデータ1グループグループマネージャーの菊地原拓氏

 支援側にとっても事業部門側と連携するメリットは大きい。「エンジニアが事業部門とのプロジェクトに参加することで、自分たちの技術がビジネス課題の解決にどのように役立つのかが分かり、他の事業と連携する時に横展開している」(菊地原氏)。

 テクノロジーが急速に進化するなか、専門部隊を“浸食”するには事業部門側の関連スキルの底上げも重要なポイントだ。ここでも浸食がキーワード。富永氏の事業部門には、サイト設計の「UI・UX」、分析をしたりアルゴリズムを設計したりする「データサイエンス」、環境構築・開発の「エンジニアリング」の大きく3つの役割を置いている。富永氏は「事業部門内でもそれぞれのメンバーが互いの領域を浸食し理解することが重要」(富永氏)と強調した。

 リクルートはグループで100以上のWebサイトを運用しており事業部門間の連携も大きなメリットだ。「これらの各部門のケースや知見を“引き出し”として持っているようなもの」(富永氏)と言う。

「どの企業にも我々と同じことができる」【アマゾン】

 「アマゾンと同じようなビッグデータ活用は自社ではできないと思っていないだろうか。AWS(アマゾンウェブサービス)が提供するストレージサービスや分散処理クラスタを使えば、どんな企業でも同じことができる」。アマゾンデータサービスジャパン AWSテクニカルエバンジェリストの堀内康弘氏はこう話し、アマゾンのビッグデータ活用の特徴を3つの話題で説明した。

アマゾンデータサービスジャパン AWSテクニカルエバンジェリストの堀内康弘氏
アマゾンデータサービスジャパン AWSテクニカルエバンジェリストの堀内康弘氏

 1つ目は、顧客の注文履歴を全て保存していること。堀内氏は「顧客が欲しいものを高い精度でレコメンド(推奨)するには、注文履歴の効果的な活用が必要だ。全ての注文履歴を保管すればそれだけ精度が高くなる」と説明する。

 2つ目が配送センターの物品管理である。「追加する商品が増えるにつれ、データの更新が困難になっていった」(堀内氏)。この課題に対処するため、すべての商品データをクラウドストレージの「Amazon S3」に格納し、数百ノードのHadoopクラスタ「Amazon Elastic MapReduce」を使って、分散処理によるバッチ処理を毎日実行している。この仕組みにより「毎週5000万点の商品を更新している。サーバーは数分で欲しい分だけ調達し、終わったらリソースを解放し元に戻している」(堀内氏)。

 最後が成果報酬型広告であるアフィリエイトの支払い計算。アフィリエイトビジネスが拡大するにつれ、処理の遅延が問題となった。利用者にキックバックする額の計算に時間がかかり、振り込みが遅れる事があったという。この課題についてもHadoopクラスタで対処し、直近1カ月の支払いデータ集計を、日次の数時間バッチで処理できるようになった。

 これらの事例を踏まえて堀内氏は冒頭のように「いずれの処理もAWSのサービスで実現できるもの。皆さんの会社でも実行できる」と強調した。

 一般的な企業におけるビッグデータ活用の課題は「データやその活用結果を見ないとどのような効果があるか分からず、効果が分からないから投資の判断ができない。自社でシステムを構築しようとすると数千万~数億円かかる」(堀内氏)。これに対してAWSを使えば「初期投資が不要だったり、リソース使用分のみ支払えばいいといったメリットがある。制約がなくなるため、多くの実験、試行が可能になる。マーケティングなど事業部門の担当者自らがシステムを構築することもできる」(同)。

 堀内氏は実際にAWSを利用してビッグデータを分析している事例として、あきんどスシローや良品計画の事例を紹介。スシローのIT部門は約5人の陣容。需要予測に基づいて回転寿司のレーンに流す寿司を決める、といった用途にビッグデータを活用している。同社は、クラウド上で15億件のデータを分析する環境を2日、約10万円で構築したという。良品計画は、店舗顧客とECサイトでの顧客のIDを統一し、その行動パターンを分析するためにAWSを活用しているという。AWSを利用することで「新規サービスのスタート時に分析基盤への膨大な初期投資を避けることができた」(堀内氏)。

 堀内氏は「自社でシステムを所持するということは、野球に例えれば1打席で大きなホームランを狙うのと同じだ。AWSを使うことは、ヒットを打てるまで何回かバット振るようなものだ」と締めくくった。

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