「BigData Conference 2014 Spring」では、データ活用で日米を代表する製造業の2社が登壇した。米ゼネラル・エレクトリック(子会社のGEソフトウェア)とコマツだ。自社製品の稼働データなどをネットを通じて収集し、故障の事前検知や運用コストの削減に結びつけている。顧客企業のコスト削減にどれだけの効果を生み出すのか、試算値や実績値を明かした。

 「様々な機器がインターネットにつながり、様々なデータを収集できるようになった。ビッグデータと、その解析は会社を大きく変革させる可能性を持つ。我々は今、大きな変化の分岐点にいる」

 日経ビッグデータラボは4月22日~23日にかけて、「日経ビッグデータ」創刊記念イベント「BigData Conference 2014 Spring」を開催した。初日の基調講演に登壇した、米GEソフトウェアのジョン・マギーCMO(最高マーケティング責任者)は講演の冒頭、こう切り出した。

米GEソフトウェアのジョン・マギーCMO(最高マーケティング責任者)
米GEソフトウェアのジョン・マギーCMO(最高マーケティング責任者)
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 パソコンやモバイルデバイスがインターネットに接続するのは、既に当たり前になった。その次の波として、様々な機器をネットに接続して、利便性を高める「インターネット・オブ・シングス (IoT)」というキーワードが注目を集めている。利便性を高める上で、「源になるのがデータだ」(マギー氏)。

 GEソフトウェアはまさに、IoTによるビッグデータ活用支援に注力する1社だ。同社は、航空機エンジン、医療機器などの産業機器の製造・販売を手掛けるゼネラル・エレクトリック(GE)の子会社で、ビッグデータを活用した機器制御のソフトウエアを開発して企業向けに提供している。様々な産業機器をネットに接続することで、リアルタイムでデータを収集・分析する。そうすれば、生産管理や機器の制御、さらに障害によるシステムの停止や故障を事前に察知するという、未来予測にも活用できる可能性がある。

 その結果、「数兆円の経済効果を生み出す可能性がある」とマギー氏は言う。マギー氏は、こんな仮説を立てた。「GEの製造する産業機器にセンサーをつけて、ビッグデータ分析した結果、燃料を1%削減できた」。すると、ヘルスケア事業なら、6兆6000億円のコスト改善につながることが期待できるという。

 こうした機器制御の最適化は、「業種を問わず、大きなコスト削減につながる」とマギー氏は断言する。ビッグデータ活用を後押しするために、GEソフトウェアは産業機器の生み出すビッグデータから予測をして、具体的な改善案を提案するプラットフォーム「Predix」を開発して、昨年から提供を始めた。

 産業機器のネット接続と、データを活用するためのソフトウエアの両面が揃い、IoTによる企業の変革は既に目の間に迫っている。「IoTによるビッグデータを活用して、事業を最適化するだけでも、大きな価値を生み出す可能性がある。さらに、技術の進化によって、これまでにないエコシステムが構築されて、より大きな影響を与えることになる」(マギー氏)として講演を締めくくった。

KOMTRAXで目指す新しい製造業

 データ活用で新たな価値を創造する製造業として、日本の代表格といえるのがコマツである。

コマツ取締役常務執行役員ICTソリューション本部長の黒本和憲氏
コマツ取締役常務執行役員ICTソリューション本部長の黒本和憲氏
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 コマツ取締役常務執行役員ICTソリューション本部長の黒本和憲氏は、独自開発した機械稼働管理システムの「KOMTRAXデータ活用と今後の展開」と題して講演。KOMTRAXのデータの活用によって製造業としてのコマツの事業がここ十数年で、どう進化してきたのかを説明した。

 KOMTRAXは世界に約33万台以上ある建設機械からGPS(全地球測位システム)による位置情報や各種センサーなどの情報を自動収集し、遠隔での監視・管理・分析を可能にし、稼働状況がリアルタイムに把握できる。2001年にオプションから標準装備に切り替え、今日では建機を使う顧客の現場を見える化する強力なツールになっている。GE同様に自社製品のIoTを実現しているといえよう。

 黒本氏は「コマツは重厚長大産業だが、製品そのものの価値だけでなく、製品を売った後のサービスによる価値、そして顧客との関係性をさらに深めてソリューションやコンサルティングの価値を提供できるようになってきた」と、「新しい製造業」に向かって突き進んでいるコマツの現状について語った。

 新しい製造業は、製品を売った後に価値あるサービスやソリューション・コンサルティングによって稼ぐビジネスモデルに基づいている。製造業が手掛ける事業を3つのフェーズに分けて説明。フェーズ1がこれまでの製品中心の事業モデルである、フェーズ2と同3が製品を売った後のサービスなどを指す新しい製造業だと話した。

 製品の性能や品質で勝負するフェーズ1では、燃費や作業性、操作性、機能、耐久性などのうちどれか1つか2つで他社が3年追いつけない「ダントツ商品」を作る。しかも、グローバルワンデザイン。地域ごとに商品を作らず1モデルに統一している。ダントツ商品の代表例は燃費性能が高いハイブリッド建機などだ。

 新しい製造業として、黒本氏はフェーズ2と同3について説明した。フェーズ2は、製品を売った後の修理サポートなどの「ダントツサービス」を指す。KOMTRAXによる「機械の見える化」によって建機が壊れる前に修理するメンテナンスなど、顧客満足度の高いダントツサービスを実現している。フェーズ3では、「施工の見える化」によって顧客による施工の効率化やコスト削減などを実現する「ダントツソリューション」を提供する。

はるかに大きい運用コストを減らす

 「建機のライフサイクルコストの内訳を見ると、製品価格であるイニシャルコストに比べて製品を売った後の運用コスト(保守費、燃料費、オペレーション工賃など)の方がはるかに大きい。建機は生産財なので『儲かる機械』であることが重要。従ってコマツとしては運用コストを下げることが重要な関心事になっている」と黒本氏は話した。

 KOMTRAXによって顧客の見える化が可能になったため、建機の使い方が手に取るように分かるようになった。そのためにフェーズ2と同3で付加価値の高いサービスやソリューションを提供できるようになった。実際に建機を使って作業している時間やエンジンをかけたままのアイドリング時間、省エネモードを使っている時間などが把握できるため、より効率的な建機の使い方や燃料費を節約したり負荷を下げたりする方法などを、代理店を通じて顧客に提案できるようになった。

 講演では、ある顧客に対してエコモードを使ってアイドリングを減らすようにしたら、建機1台について1カ月当たり143.5リットル、1年間でドラム缶8.4本の燃料を減らすことができたと、黒本氏は披露した。

 2008年には、鉱山で使う無人ダンプトラック運行システム「AHS=Autonomous Haulage System」を事業化した。AHSは、フェーズ3におけるダントツソリューションの1つだ。「AHSによって計画的安定生産、生産コスト低減、新規鉱山開発の容易化、居眠りや未熟運転などによるトラック関連事故の撲滅、CO2排出量低減を実現できる」と黒本氏はAHSのメリットを解説した。

 「製造業だからこそ、自社が作った製品を制御できる」(黒本氏)というわけだ。講演では、150台を受注した2011年の新聞記事を紹介。ちなみにこれまでにAHSが導入された台数はチリとオーストラリアを合わせて70台だ。

 黒本氏の講演を通じて、既にコマツが「新しい製造業」に向かって進みつつあることが分かった。講演の冒頭、KOMTRAXを説明する際、全世界の稼働状況を示す画面を見せた。建機の稼働を示す赤いプロットがほぼ全国にある日本列島はまさに真っ赤。南米のペルーでは標高4000メートル級の高山地帯やイースター島などにも赤いプロットがいくつも見えた。

 カーソルの操作だけで、ある1台の建機に関する情報を見たり、国別・地域別の稼働状況やエコモードの使用率などが把握できることを示した。聴講者は食い入るようにKOMTRAXのデモ画面を見ていた。