ベテラン運転手の経験や勘がなくても、確実に空車を待つ客をキャッチできるようなシステムの開発に向けて、日本交通は複数のICT(情報通信技術)ベンダーと実証実験を開始した。ビッグデータ活用で得られた需要予測を基に乗車率を3割増やすことを目指す。
空車のタクシーを待っている客の居場所が確実に分かれば、そこに向かってクルマを走らせれば乗車率を高めることができる──。
タクシー1台当たりの収入を増やすには、空車の状態を減らし、客を乗せている実車の状態をいかに増やすか、すなわちできるだけ乗車率を上げることがポイントになる。乗車率を上げるには、冒頭のように空車のタクシーを待つ最も近い客の元に走って行けばいいわけだ。
ただし、クルマを走らせながら空車を待つ客を探すのはそう簡単ではなかった。月末か月初か、週明けか週末か、休日か平日か、朝か昼か夜か、晴れか雨か…。その時の状況に合わせて、タクシーのドライバーはこれまでの経験や勘を働かせて、どこに向かって走るのか決めている。
優秀なベテラン運転手なら、お客の格好を見ただけで、タクシーを止めようとしていて、しかも長距離だと見抜くことができるという。日本交通総務財務部の濱暢宏部長は、「ベテランの運転手なら、雨の夜、紙袋を持っている、いい格好をした紳士が歩いていると、空車のタクシーを横付けする。乗車する確率が高く、しかも長距離のケースが多い」と言う。
そんなベテラン運転手の経験や勘がなくても、確実に空車を待つ客をキャッチできるようなシステムの開発に向けて、日本交通は複数のICT(情報通信技術)ベンダーと実証実験を開始する予定である。カギを握るのがビッグデータ活用だ。
数カ月後に実証実験の結果が判明
実験の目的は、数台のタクシーを約3カ月間使い、ビッグデータ活用で得られた需要予測を基に乗車率を3割増やすことだ。使用するビッグデータは、日本交通が管理する約3500台すべてのタクシーから30秒に1回吸い上げている動態データだ。
動態データは、GPS(全地球測位システム)データ(緯度、経度)、速度データ(時速、進行方向)、営業データ(実車、空車、予約)の大きく3種類だ。複数の業者から解析アルゴリズムを提供してもらい、3種類のデータを入れて需要を予測する。
詳細は明らかになっていないが、あるエリアにいるタクシーが空車から実車に変わったことをとらえて、そこに需要があると判断する。需要のあるところに、タクシーを向かわせるというものだ。
今どこに行けばいいのかという情報は、カーナビやスマホに表示する。これまで勘と経験に頼っていた状況から一変し、データに基づいて向かうべき方向が提示される。
実証実験が成功した後、需要予測を提供する主体が日本交通になるのか、それともITベンダーや第三者になるのか、また、どういうビジネスモデルになるかは決まっていない。ただ、データ分析でタクシー乗車率を高めることができれば、同社の成長を支える要因となるだろう。