ビッグデータを生かした予測分析の活用は、企業の競争力を大きく向上させる。先進企業の取り組みからその未来を予測する。特集の第3回は、故障予測、犯罪防止の事例を取り上げる。

【故障予測】壊れる前に対応し付加価値を高める

 機器は壊れたり動かなくなったりする前にさまざまな予兆を示す。コスト競争力で勝るアジア勢などに対抗するため、こうした予兆に基づく予測をサービスとして取り込み、付加価値を高める企業が出ている。

 世界最大の空調機メーカーであるダイキン工業がその1社である。同社の空調メンテナンスサービス「エアネット」は、中核の故障予知システムが好評で、2012年度の契約数は約4200件、売上高は約40億円に上った。さらに故障予知システムを基に立ち上げた修理無償サービスや省エネサービスが、エアネットの導入を促進している。

 故障予知システムの仕組みはこうだ。世界中にある業務用空調機に「現地監視端末」を設置。空調機に取り付けられたセンサーがキャッチしている熱交換器の温度や外気温度、高圧圧力、低圧圧力をはじめ、各種機能部品のインバーター周波数や、室内機の液管温度やガス管温度など約90項目、総数にして約400のデータを1分ごとに監視。あらかじめ定めた値を超えて、故障につながる可能性があるデータを検出している。

ダイキン工業の空調機における故障予知
ダイキン工業の空調機における故障予知

 検出したデータを10種類のロジック(ほとんどは条件式)に入れて故障を予知している。例えば、室内機冷媒の温度が下がっている場合は、フィルターが詰まっているケースが多く、故障につながっていくというようなロジックである。冷媒の温度などのパラメーターをロジックに入れて故障を予知している。1時間ごとの故障予知情報を24時間分まとめて、ダイキン工業の「エアネットコントロールセンター」に送る。

 故障予知の情報は、3つのレベルに分類されており、対応を変えている。レベル1は24時間以内に故障する可能性があり、フィールドエンジニアが2時間以内に現地にかけつけて対応する。レベル2は数週の間、レベル3は数カ月の間にそれぞれ故障する可能性がある。

 監視端末では、故障に至らない異常なども検出していて、エアネットコントロールセンターに送られる。故障予知検出の情報とともに、原因究明と対策を行っている。

 故障予知システムによって、「当初は故障の50%しか検知できなかったが、今では7割は検知できるようになった」と、ダイキン工業サービス本部企画部の松村修・営業企画担当課長は話す。

 こうした故障予知への取り組みは、多くの企業がまさに今始めようとしている。医療機器メーカーのGEヘルスケアもその1社である。

予兆を解析し、ダウン時間なくす

 GEヘルスケアが製造・販売するコンピュータ断層撮影(CT)装置は全世界で3万9000台強、国内で約1万3000台設置されている。国内平均で顧客におけるダウンタイム(故障で使用できない時間)は年間1台当たり8時間弱あり、これを減らせれば病院などのユーザー、患者の満足度を引き上げることができる。

 カギを握るのが、「自動故障予測」である。日本が世界で最もCT装置の設置台数が多いこともあり、GEヘルスケア・ジャパンが先頭に立ち、来年の稼働を目指して開発している。

 CT装置の主な故障原因として挙げられるのが、X線を照射する「管球」と呼ばれる基幹部品である。管球は1本数百万円する高価な部品のため、約1年といわれる寿命ギリギリまで使う病院などのユーザーが多い。ダウンタイムが避けられなかった。

 現状は、「スピッツという異常放電が増えると管球が切れる予兆」のように勘と経験で判断しているが、これをビッグデータによって正確に予測するのが目的だ。

 リモートメンテナンス用の回線を通して全世界のCT装置が発信するデータを分析し、自動故障予測のアルゴリズムを開発している。どういうデータが組み合わさった時に管球が寿命となるのか、過去の膨大なデータを基に探究している。

 GEにとっても故障予測ができるメリットは大きい。CT装置は高額な機器のため、故障時などの保守に関わる人員を、手厚く配置している。至急かつ迅速な対応が求められるダウンタイムを減らせれば、「これから3年間で2割ほど増やす必要がある人員が不要になる」(GEヘルスケア・ジャパンの藤谷京子執行役員サービス本部長)。

次に起こる障害の対処法を提示

 NTTコミュニケーションズは、「これから何が起こるのか」を予測し、電子メールなど重要な社会インフラとなったサービスのダウンタイムを極小化する仕組みを今年5月に始める。

 予測モデルの構築では、装置自身が自発的に送ってくる「トラップ」という状況通知メッセージ、シスログ、トラフィック情報、サーバーなどの内部で動いているプロセス情報などのデータを利用する。

 これらから起こりそうなトラブルを察知し、装置の交換や切り替えなど取るべき対策の候補を自動でリストアップする。ベースとなるのは、これまでの通信トラブルに関する膨大なデータと、「このメッセージが来たらこのような対策をとるのが良い」という熟練技術者の知識だ。

 新しい仕組みでは、「80%の確率でこの問題の影響は1時間続く」や、「対策Aを取れば10分、対策Bなら5分で解消できる」といったことをシステムが判断してくれる。

 インターネットの通信量は、有名アーティストの配信やオリンピックの開催などイベントによって大きく変動する。今後、「こうしたイベント情報や季節要因もモデルに組み込んで、予測や対策の精度を高めていきたい」(カスタマサービス部クオリティマネジメントグループ畠山博之主査)と言う。

【犯罪予防】カルテルのリスク算出、声紋から詐欺を検知

 既に進行中ではあるものの、まだ明らかになっていない事象を推測することも、予測分析で得られる効果の一種だろう。その1つが犯罪対策の分野だ。

 「警告!:海外事業部のAさんのメールのやり取りは、カルテルのリスクが高まっています」
 市場のグローバル化が進むに従って、日本企業がカルテル違反などの経済事件に巻き込まれやすくなっている。訴訟の支援事業を手掛けるUBICは大量の電子データを分析しているノウハウを基に、カルテル違反の可能性を予測するメール監査のシステムを開発した。

 蓄積されたメールからサンプルを抽出し、メール内容の危険度のスコア付けに使用する辞書(名詞と動詞の組み合わせ)を作成。全てのメールについて要注意のスコアが計算できる。

 例えば、「打ち合わせの議事録です」という文があればスコアは500、「例の店に19:30にしましょう」という文があればスコアは7000といった具合だ。

 メール監査の結果は会社の担当者がチェックする。要注意メールが増えていれば、カルテルの可能性が上昇していることがシステムから担当者に報告される。日本語、英語、中国語、韓国語に対応しており、監査対象の社員1人当たり年間1万円程度の利用料を想定している。

UBICのメール監査システムの仕組み
UBICのメール監査システムの仕組み

詐欺師からの電話が10分の1に

 米国のある金融機関が、ある予測システムを導入したところ、4カ月で詐欺師からコールセンターにかかってくる電話が10分の1になった。詐欺師が銀行の顧客を装ってかけてきてパスワードなどを聞き出そうとする電話の音声を分析し、リスクが高いと判断した際に警告を出すシステムを導入したからだ。

 声紋と詐欺師特有の通話内容のパターンから詐欺師を検知する仕組みになっている。声紋を使うのは、詐欺師は繰り返し電話してくる傾向があるからだ。

 詐欺師は最初、口座の残高照会などの比較的リスクの低い問い合わせから始めて、口座のパスワードのリセットといった重大な話題に移ることが多い。こうした通話パターンも詐欺師の検知に利用されている。

 こうしたセキュリティシステムを開発する1社が音声分析の技術に強みを持つ米ベリントシステムズである。企業のコールセンターの業務改善製品の一環として、詐欺師の検知機能を盛り込んだ。

この記事をいいね!する