ビッグデータを生かした予測分析の活用は、企業の競争力を大きく向上させる。先進企業の取り組みからその未来を予測する。特集の第2回は、先回り広告、需要予測の事例を取り上げる。

【先回り広告】広告のクリック率予測に天気データを加味

クリテオの予測のキーとなる技術
クリテオの予測のキーとなる技術

 冒頭に紹介した、クリテオの収益源は、広告主から請け負ってさまざまなサイトへ配信するリターゲティング広告の料金である。クリック時に課金が発生する。

 広告主のサイトを訪問したことがあるインターネット利用者に、広告主が扱うどの商品の画像を見せればクリックしたくなるのかなどを予測する精度が売り上げを決める。広告フォーマットは3種類程度の商品写真を見せるのが基本形。この3つの商品写真の選択、そして適切な配信先の決定がクリック率を決める。アクセスから、予測、広告配信までたったの150ミリ秒未満である。

 予測の基本となるのは、広告主サイトの閲覧履歴だ。どの商品を何回クリックしたか、どのページを見た後にサイトから離脱したかなどである。さらに、毎日更新される広告主の販売商品の情報、メディアの広告掲載場所のほか、特定の企業の広告を何回表示するとユーザーに飽きられ、クリック率が下がるのかといった分析データも蓄積している。

 データの取捨選択は、常に試行錯誤している状態だが、外部変数は着実に増えているという。3年前は6種類しかなかったが、今は100種類を超える。新たに取り入れた変数の1つに天気データがある。一見、関係がないと思われがちだが、今年2月に東京で大雪が降ったときには、ECサイトにアクセスが集中した。荒天時にはネット購入意欲が高まるため、通常より高い価格を払っても広告を多数配信した方が収益性が高まると判断できるわけだ。

 ただ、「単にデータ量が多ければ予測精度が向上するとは限らない」と、エリック・アイヒマンCOO(最高執行責任者)は説く。

 分析アルゴリズムは神経回路網(ニューラルネットワーク)をモデルにしており、学習回数と比例し、その予測精度が向上する仕組みになっている。「大切なのは、適切なフィードバックが得られるようにエンジンを学習させること」(アイヒマンCOO)。現在は、年間3万回のテストをして平均30カ所の変更を加えている。

 今後、クリテオの予測分析技術はどう進化するのか。アイヒマンCOOは「現在はコンバーション(商品購入)の最適化も行っている」と明かす。同社の収益は広告のクリック課金だが、広告主の立場から考えると、商品が売れたときに広告料金を払う方が納得性が高い。新たな変数や分析のロジックが必要になる。

【需要予測】顧客の注文を予測し事前に発送・生産

 201X年、アマゾンから欲しいと思っていた商品を薦めるメールが来た。割引額も魅力的なので注文すると、商品が1時間後に届く。多少不思議に思ったが、欲しい商品がすぐに安く手に入ったので満足する──。

 実はその商品は自分が注文したものではなく、アマゾンが購入を予測して事前に発送していたものだったとしたらどう思うだろうか。

 米アマゾン・ドット・コムは昨年12月にこうした予測発送の特許を成立させた。米国特許番号「8615473 B2」がふられたドキュメントが、流通業における予測の未来を暗示している。

 特定の地方の需要を季節変動などを考慮して予測し出荷する一般的なSCM(サプライチェーン管理)と異なるのは、それぞれの顧客のデータを分析し、出荷をする点である。

 それぞれの顧客のプロフィルや注文履歴、購入したいものを登録する「ほしい物リスト」などのデータを基に、次に注文するであろう商品やその行動の時期をはじき出す。そして、その顧客が注文する前に先回りで居住エリアに商品を送り出してしまう。その後、顧客が注文した時点で、中継用の配送センターなどで確定した顧客の宛名を貼り付けるといった具合である。

アマゾン・ドット・コムの予測出荷の特許で可能になること(一部本誌推定)
アマゾン・ドット・コムの予測出荷の特許で可能になること(一部本誌推定)

 ターゲットとなった顧客に対しては、購入を促すプロモーションのメールを送ったり、Webに広告を出したりして刺激する。それは事前もあるだろうし、発送した後もある。またその顧客が購入するまで、そのエリアの配送トラックに載せて置いたり、近くの配送ハブに置いていたりして、顧客が購入するまで“刺激”をし続けるアプローチもある。

 同特許はアマゾンのビジネスにとって最大のコストである配送を最適化できる可能性がある。あるエリアに出発するトラックに空きスペースがあれば、そのエリアで商品を買いそうな顧客をピックアップしフルの積み荷で出発できるようになる。

 予測が外れれば返送などの物流コストが収益を圧迫する。アマゾンは日々の取引や行動のデータを蓄積し、アルゴリズムに磨きをかけ来るべき時代に備えている。

スシローは注文を予測し“生産”

 あきんどスシローは、店内の顧客の食欲を予測することで、成長し続けている。2011年には売上高で「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトホールディングスを抜き業界首位に躍り出た。

 スシローはほとんどのネタを1皿108円で提供するが、「ネタの原価率を約5割と高めに設定し、味に対する顧客の満足度を高めている」(情報システム部の田中覚部長)と言う。一般に業界では原価率が4割程度とされる。また、ネタの鮮度を保つため、マグロであればレーンを350メートル走行したら自動で廃棄する仕組みも導入している。無駄は許されない。

 こうしたビジネスモデルを支えるのが「回転すし総合管理システム」による顧客の行動予測である。予測の機能は2007年に導入を始め、09年には予測モデルを固め本格的に活用し始めた。

 予測は顧客の「食欲」と「注文されるネタ」の2つが柱だ。

あきんどスシローの店舗システムは顧客の“食欲”を予測したり、流すべきネタを指示したりする
あきんどスシローの店舗システムは顧客の“食欲”を予測したり、流すべきネタを指示したりする

 顧客が入店時に入力した大人や子供の数を基に、レーンごとに1分後、15分後の食欲を独自のロジックで「喫食パワー」として算出。パワーを「大」「中」「小」で示して、現在のネタの提供量が妥当かどうかを判定する。それを見ながら、店長や従業員が仕入れたネタを解凍するかどうかを判断する。

 顧客の喫食パワーや滞在時間、過去の販売実績、曜日や時間帯などのデータから、流すネタまでもシステムが指示する。例えば、座って間もない顧客のレーンには中トロやサーモンといった脂がのったネタを多く流す指示を出したり、皿を取る顧客が減ったレーンには創作寿司やデザートを出したりする。

 これらの指示の精度を上げるため、2012年から年間10億皿の全販売実績をビッグデータとして分析し、予測モデルの精度をブラッシュアップしている。「食べていただけると予測したものをレーンに送り出すことで最終的な廃棄を減らす」(田中部長)。

 実際、廃棄するネタの量を4分の1まで削減できたという。

 将来は、「現時点の天気や気温、湿度といった顧客の行動に結び付きやすいデータも加味して、究極的には廃棄と売り切れをゼロにしたい」(田中部長)と理想を高く掲げる。

 スシローの店舗は土日にもなると、席に着くまで1時間以上待つのはざらである。原価率5割を保ったまま成長し続けるには、店舗を増やすしかない。実際、店舗数は13年9月に362店と、4年前に比べて3割以上増やしている。

 こうした事情もあって優秀な店長の確保が難しくなっており、予測システムの果たす役割が大きくなっている。パートの従業員でも、流すネタの種類など熟練の店長並の運営ができることを目指している。

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