ビッグデータを生かした予測分析の活用は、企業の競争力を大きく向上させる。先進企業の取り組みからその未来を予測する。4回にわたって展開する特集の第1回は、予測分析で得られるメリットを概観しよう。
ビッグデータを活用した新たな予測技術で快進撃を続けている企業が現れている。
2005年にフランスのパリで設立し、昨年に米ナスダック市場に上場したばかりのネット広告企業クリテオはその1社である。同社のビジネスは「リターゲティング広告」と呼ばれる。広告主のEC(電子商取引)サイトを訪れたが購入に至らなかった顧客に対し、他のサイトで再度バナー広告などを示し、粘り強く購入に結び付けるものだ。何年も前からある手法だが、独自の技術でユーザーの興味を引きつけ、高い効果を誇る。

800人の従業員のうち4割はエンジニアが占めるなど、予測技術への投資を続けている。米グーグル、米フェイスブックなど強豪ひしめく市場でも急成長を遂げている。売上高が2013年には4億4400万ユーロ(約630億円)と3年間で6.7倍になった。
クリテオだけではない。「インターネット企業のほとんど全てが、予測技術を競い合っている」(ヤフーの安宅和人執行役員)。機械学習に基づくレコメンドの機能を利用して、ユーザーの行動を先回りして情報を提示することが収益に結び付く。その一方で「痒い所に手が届くようなサービスを提供しないと使われなくなる」(同)。
インターネット以外の分野でも、ビッグデータを使った予測技術への大規模投資が始まっている。
昨年10月、気象分野のビッグデータ活用企業として有名な米クライメイト・コーポレーションを、米化学メーカーのモンサントが9億3000万ドル(約950億円)で買収した。モンサントは種子の遺伝子組み換えなどで食物の収穫量をコントロールして高収益を上げている。さらに予測に本格的に乗り出して、新たなビジネス機会をうかがう。
クライメイトは米グーグルの技術者などが設立した企業で、数学や統計、神経科学などの専門を持ったデータサイエンティストを10人以上抱えているという。
米国で公開されている気象データ、過去60年の収穫量実績データ、地形データなどの膨大なデータを利用し、悪天候などによる被害発生確率を予測。農家ごとのリスクに基づいて保険商品を販売している。さらに各地点の気温などの情報から作物の被害状況を予測し、請求がなくても保険金を支払う。迅速な支払いによる顧客満足度の向上と、事務処理手続きの軽減を両立させている。
最適な種まき日のレコメンドなど、農作物育成の支援ビジネスにも乗り出した。同社の試算によれば、「PLANTING ADVISOR」と呼ぶサービスを利用すると、収穫高は1エーカー(約40.6アール)当たり平均で年間24.5ドル増加するという。一般的な米国の農家であれば1万ドル以上年収が増える計算になる。
予測技術そのものは以前からある。これまでと、ビッグデータ時代の技術の違いはどこにあるのか。
1つは予測モデルが導き出した結果を、リアルタイムに適用してしまうこと。これまでの予測技術の典型である天気予報は、数十年をかけて予測の精度を向上させてきた。それを支えるのは、数値予測シミュレーション技術の進歩である。しかし結果は最後に必ず専門の予報官が確認し、最終的な天気予報を作成する。
これに対してビッグデータ時代の予測技術は、コンピュータで計算した予測をそのままネット広告や他のシステムに直結させることが多い。
例えばヤフーの「ヤフオク!」では不正利用のパターンを常時監視していて、それを検知するとリアルタイムで取引を排除する。不正事案の発生率は0.0023%と「ここ数年で100分の1まで抑えている」(ヤフー)。
予測に基づく即時処理の競争に
こうした即時のアクションは「予測」という言葉になじまないかもしれない。だが、こうしたシステムを支えるのは「過去のデータに基づいて行動を学習し、先回りで対策する」ための仕組みである。ECサイトでの商品レコメンドや、検索キーワード候補の推測表示の機能なども、予測技術がベースとなっている。

分野別に予測のインパクトを上の表にまとめた。なかにはネット広告のように成果を上げているものもあれば、株価予測のようにあまりうまくいっていない分野もある。
例えば需要予測の分野。工夫を重ねて予測の精度を高めることに成功した企業は、売れ残りや品切れを減らし、会社の利益を伸ばしている。回転すしチェーンのあきんどスシローは、顧客が注文するすしネタを予測して流すことなどで、廃棄を4分の1に削減した。
故障予測は、機械が故障する前に適切な対策を先回りで打つ。精度を高めるため、地道に努力している企業がたくさんある。
大事な顧客の満足度を高め、会社の信頼感やブランド力を引き上げるためだ。ダイキン工業は空調の故障予知システムが好調で大きな売り上げを上げている。
一方で、うまくいっていない代表は株価の予測である。インターネットで流れている膨大な情報を分析して、予測に役立てようとする試みがいろいろある。だが、その予測が収益に結び付いたという話は、なかなか見つからない。