村田製作所はスマートフォンの主要部品である積層セラミックコンデンサーなどの品質改善にビッグデータ分析を活用している。1週間に約1個の問題を発見し、採算の改善に生かしている。2014年度中に国内工場への展開を完了し、海外工場にも着手する。
「製造現場で不良品が出る裏には理由がある。それをデータから突き止めるのが我々の役目だ」(モノづくり技術統括部モノづくり強化推進部 生産革新2課の宮森誠課長)。7人のメンバーのうち、4人が主として統計解析、3人がデータ処理を担当。システム部門や生産現場の技術担当と連携しながら、良品率の向上に取り組んでいる。
村田製作所は製造工程に関わる様々な生産時点データを収集・分析し、不良品率の引き下げに生かしている。収集するデータは、材料の種類や状態、生産装置の設定、気温など多岐にわたる。例えば、ある部品では完成までの約30工程に渡ってそれぞれ約100項目、合計で3000項目程度を取得している。
こうした情報を取得したうえで、部品に不良品が発生したり、品質に変化が生じたりした際に、ビッグデータ解析に乗り出す。正常なデータや設計データと比較することで、材料の種類や配合割合、配合時の温度、コンデンサーを規格値の厚さに圧縮する際の圧力、焼く際の温度のカーブ、作業者の習熟度といった様々な問題があぶりだされてくる。
品質改善に結びつく事象は週に約1個見つけ出されるが「そのうちコスト的に可能なものから改善に着手する。中には製造装置の入れ替えを必要とする大がかりなものもある」(宮森課長)。改善できる良品率は場合によって異なるが、製品の量産初期段階では1%を上回る改善効果もあるとみられる。
品質改善の効果は収益に直結する。同社の売上高は8200億円(2014年3月期見通し)で、およそ3分の1をコンデンサー部品が占める。仮にコンデンサーの半分の不良品率を0.5%改善したとすると、年間7億円弱が良品として出荷できることになる。宮森課長は「品質改善によって、7人のメンバーの年間人件費とツールやシステムの投資は十分に回収できる成果を出している」と言う。
村田製作所は2011年にSAS Institute Japanの品質管理ツール「SAS Quality Lifecycle Analysis」を中核とするシステム投資に踏み切って、ビッグデータ解析に乗り出した。データ分析システムのストレージは約15テラバイトを用意している。実際にシステム側に蓄積しているデータは5テラバイト程度だが、工場の技術者などのユーザーが使いやすいようにデータを加工するために3倍程度の容量が必要になるという。
品質の改善が競争力の源泉にも
品質の改善は採算だけでなく、競争力の源泉にもつながる。米アップルの「iPhone」など最新のスマホの基盤に搭載されている積層セラミックコンデンサーは表面積が0.4ミリ×0.2ミリメートルの「0402」と呼ぶ規格。まさにごま粒大の極小電子部品で村田製作所がライバルに先駆けて量産に成功。アップルがiPhone4で小型化のため最初に採用した。
「0402」の前の世代は表面積が0.6ミリ×0.3ミリの「0603」だった。高さが同じとすると体積はおよそ半分だ。単に小さくなるだけでなく世代が変わると「生産時の許容値が変わり、良品を実現するためのアプローチも異なる。データ解析によって問題を早く発見して解消できるようになった」(宮森課長)。現在、最先端の積層セラミックコンデンサーは「0201」である。今後、製品に搭載されるようになり量産が始まると、また新たな挑戦が始まる。