日本航空は膨大なデータを活用した効果的なマーケティングを推進している。1日約40万人に及ぶ自社Webサイト訪問者の行動傾向を分析。分析結果を基にターゲット層を限定して、女性だけの海外旅行「女子会@海外」の販促をしたところ、通常に比べて10倍の購買率を達成した。
日本航空は自社Webサイトを通じて集まる膨大なデータを分析できる環境を整えている。同社サイトは24時間365日、顧客との接点になる重要な旗艦店舗である。1日の“来店者”は約40万人に及び、国内線航空券の年間販売額約5000億円のうち、自社Webサイトでの販売比率は実に50%を超える。サイトの閲覧、検索、購買など日々大量のデータが蓄積されており、活用しない手はないというわけだ。
ビッグデータを活用したマーケティング施策の企画・展開に当たっているのは、Web販売部1to1マーケティンググループ。営業実務の経験者でデータ解析にも長けている渋谷直正アシスタントマネジャーを分析リーダーとした、10人弱の組織だ。データ分析と顧客サービスの兼任体制になっているため、仮説に基づいてデータを分析するだけでなく、マーケティング施策の実行、そして検証もできる。PDCA(計画・実行・検証・見直し)を回せる組織になっているのが特徴だ。
同グループはまず、個別の顧客を分析するためにWebサイトのアクセスログデータの収集・分析の仕組みを構築。その後、2012年7月にIBMのデータマイニングツール「SPSS Modeler」を導入して、本格的なビッグデータ分析・活用を開始した。
訪問者の行動データを回帰分析してモデル化をしている中で、徐々に注目に値する成果が出始め、担当者は手応えを感じている。例えば、「Aという行動を取る顧客群(セグメント)には、Aのコンテンツが求められている」「Bという行動を取るセグメントにはBという商品を薦めると喜んでいただける」といった仮説を設定。詳細な分析をしたうえで、顧客が望む商品やサービスを提供できるように取り組んでいる。
大きな成果を上げたのが、2013年秋に実施した海外旅行商品「女子会@海外」の販促だ。過去に女子旅@海外を購入した数千人から1万人程度の顧客が自社サイトのどのWebページを閲覧したか、といった行動傾向を分析。同じような行動傾向があるものの、これまで海外ツアー商品を購入したことがない訪問者に対して、自社サイト内のバナーで女子会@海外を薦めたところ、通常に比べて10倍というコンバージョン(購買)率を達成した。

また、顧客のサイト上における国内線空席検索の内容を分析して、最も購入確率が高くなる最適な商品を薦めたところ、通常に比べて4倍の航空券購入につながったという成果も出ている。
過去には手痛い失敗も
もちろん、すべてうまくいくものではない。分析結果に基づいて特定の路線をレコメンドしたところ、その時期が同路線の繁忙期で満席状態だったため、販促効果が得られなかったこともある。「データ分析ツールに向き合っているだけでなく、積極的に社内と連携を深めて実際のビジネスを十分に踏まえないと、成功にはつながらないことを痛感した」と、1to1マーケティンググループの野口雄一郎グループ長は語り、そのことを良い教訓としているという。
今後は、サイトだけでなく、予約センターや空港のカウンター、機内など、顧客との様々な接点を活用して理解を深めて、求められる商品やサービスの開発に努める。Webサイトでやってきたことをリアルでも展開していく。