飲料メーカーのダイドードリンコは、自動販売機を利用する顧客の視線を分析することで、商品サンプルの陳列方法や商品パッケージを改善している。アイトラッキングと呼ぶ装置を活用し、商品を見つめる約2秒間の視線の動きをデータとして取得する。あわせてデータを活用してテレビコマーシャルも見直し、主力の缶コーヒーの売り上げを2~3割増やしたとみられる。今後はコーヒー以外の飲料にも展開していく。
ダイドーは飲料の売り上げの約半分を占めるコーヒーの主力商品「ダイドーブレンド」をリニューアルするにあたり、インターネットや直接インタビューによる調査を行った。しかし自動販売機でコーヒーを購入する顧客の行動を把握するのは難しかった。「顧客は商品を2~3秒の短い時間で選択し、特に男性は自販機の利用頻度が高いが、女性よりも直感で選ぶ傾向がある」(マーケティング部 顧客・市場調査グループの細井裕美リーダー)からだ。インタビュー調査では顧客に十分な思考時間が与えられるため、メーカー側が意図していたものとは別の結果が出ていたのである。
こうした悩みを解決するため採用したのはアイ・トラッキングと呼ぶシステムだった。専用のメガネをかけた被験者がどの場所を見ているのかを逐一記録して、その映像を後からパソコン上で確認することで顧客がどこに注目をしているのかを割り出すことができる。システムは展示会で見つけた、トビー・テクノロジー・ジャパン(東京都品川区)の製品。ダイドー側の要求するデータが取得できることを確認し、最終的に採用した。
2012年1月にアイトラッキングを採用した調査を開始した。自社のマーケティング担当のほか、約20人の顧客モニターに参加してらもらったところ、いくつもの事実が見えてきた。
まずは顧客の視線の動き。店舗内の陳列棚においては、顧客の視線は左上から「Z型」に流れるとされている。しかし自販機のコーヒーを購入する顧客は一番下の段から眺めていた。自販機に近づく際に、足元を意識していることが影響したとみられる。

次に缶のパッケージの視認性である。自販機のサンプルを眺めるときとは異なり、左上から右下に視線を動かしていることも突き止めた。そこで商品の訴求ポイントが「微糖」の製品は、文字を商品ロゴの右下に大きめに配置。微糖のコーヒーを求める顧客が迷うことなく選択できるように改善した。
このほか広告では、商品だけを訴求するより、タレントの顔が大きく映ったコンテンツの方が顧客がきちんと見ていることも判明した。
こうした点を商品のパッケージや自販機のサンプルの陳列の改善に活かしたところ、「ダイドーブレンド」シリーズの売上高にプラスの効果が現れ始めた。リニューアルした2012年9月から2013年の春までの間で、2~3割程度引き上げることに成功したとみられる。
ダイドーはマーケティング部門に細井リーダーのようにデータ分析や市場調査に精通した専門人材を配置している。約5人の体制で、そのうち2人は新入社員にデータ分析のスキルを叩き込んで育てた。「大量のデータや様々な分析結果から事業に生かせるものを見いだすため、社内の人材でデータ分析を手掛けていきたい」(細井リーダー)。
コンビニエンスストア自身が店頭でコーヒーを販売するなど飲料業界を取り巻く競争環境は厳しくなっている。ダイドーは消費者の行動をより精緻に把握することで、選ばれる商品の開発や販売手法の確立を目指す。今後、「コーヒー以外の飲料などにもデータ分析を本格展開していく」(細井リーダー)との考えだ。