首都圏を中心に駐車場・駐輪場の管理運営・業務受託を手掛ける芝園開発(東京都足立区)は、精算機が出力する1日3万件以上のデータを見える化し、収益の改善に生かしている。約20人の社員・役員で年間約16億円を売り上げつつ、利益率を年々向上させている。今後、外部の情報と掛け合わせてビッグデータ分析することで、より精度を高めていく。

 芝園開発は駐輪機器のメーカーと共同で、個別ロック式の無人時間貸駐輪システムを先行的に開発したメーカーである。それまでの駐輪場は有人の管理がほとんどだったが、1998年に駐輪機器や精算機、監視カメラなどをインターネットでつなぎ、無人でも現場の状況を把握できるようにした。

 こうして現場の見える化を実現したものの、施設単位でのコスト情報を正確に把握して損益計算書(P/L)を出すことができないという課題を抱えていた。

複数メーカー機器のデータが分散

 1日の売上げや利用者数、利用時間といったデータは収集できているが、1カ所に集約できていなかったからだ。複数メーカーの精算機器を利用しており、それぞれの駐輪場の売り上げはメーカーごとに異なるシステムにログインして、手動でデータを取得していく必要があった。

芝園開発の駐輪場「cycle24h」は東京、神奈川、埼玉、千葉に合計約120カ所を展開している
芝園開発の駐輪場「cycle24h」は東京、神奈川、埼玉、千葉に合計約120カ所を展開している

 さらに顧客からコールセンターに寄せられる1日平均で約50件の故障などのイベント情報などはすべてファクスベース。社員が表計算ソフトに入力し直していた。「必要な情報がどこにあるか分からない状態で、社内の情報共有もされていない。作業の漏れや放置が発生していた」(市川桐多管理部部長)。

 この状況を解消するため、開発に乗り出したのが駐輪場・駐車場管理統合システムの「SHIP」だ。会計システムと連携させて、施設単位の収支が1円単位で分析できる。2011年に開発を始めて、2013年5月に本格稼働した。

 SHIPシステムの目的は各施設の稼働状況の見える化による、変化の察知と情報共有である。

 駐輪場は売り上げが急激に変動する裏に、競合の進出や施設の故障といった理由が必ずあるという。他の施設と比較して稼働率が著しく低くなった場合、現地に出向いて原因を探る。近くに競合が進出したことが分かったら、料金設定を下げるなどの対抗手段を繰り出す。従来は担当者しか情報を把握せず後手に回っていた。

営業の肌感覚をデータ化し経営判断に

 データの裏付けで重要経営判断を下せるようにもなった。

 例えば、駐輪場施設の地主との借り上げ賃料の交渉や、不採算施設の閉鎖などが挙げられる。稼働率などのデータに基づいて、「賃料の変更を提案したり、料金を上げ下げしたりといった判断ができるようになった」(海老沼孝二代表取締役)。

SHIPシステムの施設状況表示画面。地図上の施設をクリックすると、関連情報が表示される
SHIPシステムの施設状況表示画面。地図上の施設をクリックすると、関連情報が表示される

 駐輪場ビジネスは駅や競合との位置関係などが収益を大きく左右する。そこでGIS(地理情報システム)によって現場や周辺の状況を直感的につかめるようにした。米グーグルの地図サービス「Google Map」とシステムを連動させて、地図上で各施設の個別の収支状況や時間帯別の利用状況、監視カメラによる現在の状況まで鳥瞰(ちょうかん)できる。周辺にある同業他社の施設など、営業担当者が「足で稼いだ」情報も地図上に載せた。

 例えば、故障の情報を地図上の施設にマッピングすることで、問題が多い施設の状況が一目で分かる。どの施設をリニューアルすべきかも、故障率や競合の状況を見て判断できる。海老沼代表取締役は「今までは担当営業の“勘と経験”で判断していた施設の更新を、経営がデータに基づいて判断が下せる」と話す。

 新規業務の獲得による売上高の底上げにも寄与している。業務の効率化によって、人的リソースを官公庁などへの営業に振り向け、新たな契約を獲得した。東京スカイツリーでも受注を果たしている。

 SHIPは富士ソフトの業務プロセス改善ソリューション「FSBizTrust」、ウイングアーク1stのBIソフト「MotionBoard」をベースに開発している。自社が中心となってシステムを高速に開発・改善する「アジャイル型」を採用することで、「将来必要となる機能をその場で追加していく」(市川部長)との考えだ。

 今後、政府や自治体が公開する人口密度や駅周辺の道路情報などのオープンデータをSHIPシステムに取り込んで分析することで、長期的な売り上げ予測に活用していく方針である。

 芝園開発はSHIPシステムの導入によって2011年3月期に15%だった売上高利益率を2013年3月期に20.1%まで引き上げた。2014年3月期にはさらに2ポイントほど向上する見通しだ。

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