既存のデータを転用して新たな収益を生み出したのが、テレビ番組・CM調査のエム・データ(東京都港区)だ。一方、調剤薬局大手の日本調剤は傘下にある約490店舗の薬局で年間1000万枚以上もの処方箋を分析し、月額3000万円を売り上げるビジネスまで育てている。

 既存のデータを転用して新たな収益を生み出したのが、テレビ番組・CM調査のエム・データ(東京都港区)だ。

 同社の水戸市にあるデータセンターでは、最大40人が席に着きテレビ番組を見ている。単に視聴しているだけではない。番組やCMの内容をすべてパソコンで入力しているのだ。

 データは「TVメタデータ」として、番組やCMの名称だけでなく、どのような出演者がどういった発言をしたのかなどを要約して記録している。関連するURLや流れていた音楽の情報などの情報も付加し、放送後1~2時間でデータを配信する。

 このデータ、従来は広告代理店が主たる顧客で、クライアントである企業のCMが確実に流れたかどうかをチェックするために活用していた。

 しかし、エム・データは人海戦術で入力するセンターのインフラを横展開することで、データの新たな収益源を掘り当てた。それが、番組やCM内で取り上げられた「製品」や「施設(場所)」に絞ったデータだ。10分以内の即時に配信することで、企業の広告宣伝、マーケティング部門が購入すると踏んだのだ。

 例えば有名タレントがテレビ内である商品を紹介すれば、消費者の関心度が急上昇する。それに合わせて通販サイトのトップに商材を掲載したり、検索連動型広告を出稿したりする。番組名で検索して上位に表示されるようにするケースもある。スーパーの店頭で利用すれば、番組で紹介された商品をすぐに目立つ場所に置いたり、発注量を増やしたりという最適化に活用できる。

エム・データは、テレビの放映内容から商品や施設のデータを入力し、数分後に配信する
エム・データは、テレビの放映内容から商品や施設のデータを入力し、数分後に配信する

 Twitterなどソーシャルメディアにおける消費者の発言を分析すれば、流行の傾向を得ることもできるが、TVメタデータはその“原本”であり、話題の発信元を確実に特定できる。

 製品や施設のデータ販売は、ここ3年で売り上げが約3割増と確実に成長しているという。本業の広告代理店向け情報に比べると事業規模は小さいものの、ヤフーやぐるなび、ナビタイムジャパンといった有力ネット企業が次々と採用している。

 データ提供を元々ビジネスにしていたウェザーニューズやエム・データ、クックパッドのようなネット企業に比べると、日本の大手企業の多くは「データ販売」の姿勢を決めかねている。社内やグループ内に活用の価値があるデータを探し出せていないうえに、顧客のニーズを把握しかねているからだ。結果として、収益化へのシナリオを描ききれていない。しかし、数少ないながら成功例も出始めている。

処方箋分析で5年後に10億円

 「データがビジネスになる将来を見越して、14年前から処方箋の情報を蓄積してきた」

 こう語るのは調剤薬局大手の日本調剤の三津原博社長だ。

 処方箋には患者に薬を調剤するために必要な、薬名、分量、用法、用量、患者氏名や年齢、医療機関や診療科の名称などが記されている。日本調剤はこうした薬を処方する業務のために使っているデータに、早くから価値を見いだし、新たな事業を創造している。

 日本調剤は傘下にある約490店舗の薬局で年間1000万枚以上もの処方箋を扱っている。2万7000以上の医療機関が年間770万人以上の患者に発行しているもので、まさにビッグデータである。

 これだけのデータが蓄積されると、これまで見えなかった医療現場における薬の選択行動という事実が見えてくる。

 例えば、ある疾患と思われる患者に対して、医師がどの製薬会社のどの薬を選択しているのかが一目瞭然となる。さらに治療の経過とともに、他の薬に乗り換えたり、追加で処方したりといったことも見えてくる。

 こうした分析結果は医薬品卸業者の病院への納入データからは見えてこない。製薬会社にとっては喉から手が出るほど欲しいものだ。もちろん薬の種類からは患者の病名というセンシティブな情報も分かってくる。製薬会社に分析結果を提供するときには匿名化を図り、希少な病気のデータを取り除くといった処理もしているという。

日本調剤が処方箋を分析し顧客に提供しているデータ
日本調剤が処方箋を分析し顧客に提供しているデータ

 後発医薬品(ジェネリック医薬品)市場の拡大も追い風となっている。病院(医師)、薬剤師、患者のそれぞれどの段階でどのジェネリック医薬品を選んだのかが明確に分かる。

 実は日本調剤自身も患者の負担を減らす目的でジェネリック医薬品を販売しており、こうした情報は自社が薬を開発する際の参考情報にもしている。

14年前からデータを蓄積し準備

 日本調剤がデータで稼ぐための試みは2000年まで遡る。

 データ分析や活用を検討する専門部署の「インテリジェンス部」を設立。処方箋データの蓄積を本格的に開始し、匿名化処理やデータ管理のノウハウなども積み重ねてきた。分析基盤へも投資しており、「最短3日で分析結果を提供できるので、新薬もタイムリーに情報を出せるようになった」(河野文隆システム部長)。

 そして2012年、外部へのデータ分析結果の提供や個別のコンサルティングを強化するため、子会社の日本医薬総合研究所を設立した。約10人のうち半数が分析をするための人材である。この分析人材は結果を基に、製薬会社への営業も担当する。

 分析データの提供料金は案件ごとの見積もりとしており非公表だが、データは確実に稼ぎ始めている。「外資系の製薬会社がデータを活用したマーケティングを強化したり、製薬会社の担当者が医師を訪問するのが規制されたりしている」(日本医薬総合研究所の少林正彦専務取締役)からだ。

 2013年の半ばは月間売上高が2000万円だったが、ここにきて3000万円となる月も出てきたという。日本調剤は今後5年間で10億円規模のビジネスに育てる。

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