ビッグデータやデータ分析結果を販売して収益を上げる──。新たな事業モデルを構築して、「データで稼ぐ」企業は業種を超えて広がる。
気象情報提供のウェザーニューズは、気象観測機や衛星を通じて集めたデータで天気を予測するデータ活用のエキスパートである。そんな同社は、データの収益化に必要な2つの条件を理解し、新たな成長事業を生み出している。
「米サンフランシスコには先ほどお送りしたルート1で、エンジンの回転数を1分間55回にしてください。多少回転数が高めですが、燃費と途中の荒天の回避も考慮しました」
千葉市にあるウェザーニューズの本社で、世界地図のスクリーン上に映し出された点。この点の一つひとつは、ウェザーニューズの持つ気象データによって安全運航を支えられている船舶の現在地である。各メッセージは、同社から各船舶の運航会社へと個別に送られるものだ。
同社の中核事業は、航空会社や船舶会社など顧客の事業運営を支援する「交通気象」サービスである。例えば、船舶向け全体では全世界に存在する約2万隻のうち、3分の1近くとなる約6000隻がサービスを契約している。
特に大陸間のOSR(船舶運航最適化)サービスの契約は2014年5月期に約2500隻と、前期比で6割増を見込む。これらの交通気象の売上高は前期比で1割以上伸びており、同社の法人事業をけん引している。
同事業が好調な理由、それは同社が持つ気象データが貴重であるだけではない。前述のように、データを基にした“処方箋”まで提供しているからだ。
顧客と向き合うのが「リスクコミュニケーター」と呼ばれるデータ分析官である。ウェザーニューズの本社では250人のリスクコミュニケーターがデータを基に、船舶だけでなく、飛行機や鉄道、バスなどの運行を支援する戦略を考え、アドバイスを与えている。
韓国の大韓航空と開発したサービスでは、機体や空港、パイロットの特徴まで理解。航空会社に積載する燃料や出発時間の繰り下げなどまで助言する。
「顧客企業は大量の気象データを渡されても、活用しきれない」
同社R-Cornerの安部大介グループリーダーは、顧客への助言まで踏み込む理由をこう語る。
顧客の課題について、データ分析担当者は顧客を3カ月に1回訪問し、解決策などを検討することで、データの活用に磨きをかける。
衛星を打ち上げ、データを補う
もちろん、貴重なデータを収集することにも投資を惜しまない。
2013年11月21日16時10分11秒。ウェザーニューズの本社に歓声が上がった。超小型衛星の打ち上げが成功したからだ。目的は「北極海航路」の開拓である。
地球温暖化によって海氷が減少し、夏季には船舶が通ることができるようになった。燃料を格段に節約できるため運航ニーズは高い。日本から欧州への航路では、スエズ運河経由の半分、アフリカの喜望峰経由の3分の1で済む。
ただし海氷に閉じこめられてしまうリスクがあるため、衛星で海氷の状況を知ることができるデータを取得して分析。「海氷がなくて安全に運航できるのか」「砕氷船に支援してもらい航行する場合は、どの程度の時間で北極圏を抜けられるか」といったことを判断して、船舶側に情報を提供していく。
実に1辺27cm、10kgの超小型衛星を低コストで打ち上げることで、事業に不可欠なデータが得られるようになった。
ウェザーニューズの取り組みから分かるのは、(1)希少なデータであり、(2)その利用価値を引き上げる加工や適切な助言が伴ってこそ、大きな収益に結びつくということだ。ビッグデータの条件は「量・蓄積」「リアルタイム性」「多様性」を備えたデータとされるが、その利用シーンを想定して加工することで、データの商品価値はさらに上げられる。
希少なデータといっても、実は様々な企業の中に眠っている可能性がある。
野村総合研究所ICT・メディア産業コンサルティング部の鈴木良介コンサルタントは、「各企業は自社で日々の業務に使っているデータの価値に気づいていない。社内やグループのデータを一カ所に集約して分析したり、データを取得する頻度を上げたりすることで、新たな収益の種となるデータを見つけ出すことも不可能ではない」と指摘する。まずは自社やグループ企業内に埋もれているデータの棚卸しから始めよう。
続いて、「データで稼ぐ」を実践して、収益を急拡大させている2社の取り組みを紹介したい。
レシピ検索データ販売で1億円へ
料理レシピ情報サイトのクックパッドは2000万人超の利用者により、貴重なデータが生み出されている。20~30代女性の8割以上がレシピ検索に使うという、まさに生活インフラとなっている。
膨大なメニューの検索ログを積み重ねて分析することで分かったのが、「POS(販売時点情報管理)では見えない、消費者がメニューを意思決定する際のプロセス」(経営管理部の中村耕史氏)である。
クックパッドは、会員が投稿した料理レシピを他の会員が検索、閲覧するのが基本的な使い方である。会員は料理名や料理ジャンルだけでなく、使いたい食材からもレシピを検索できる。
これらのデータから見えてきたのがレシピのトレンドである。大きく2つの指標で分析している。1つ目が「SI(サーチインデックス)値」である。検索1000回当たりの頻度を指標化している。
2つ目が「組み合わせ語」である。一緒に検索されているキーワードから、「同じレシピでも味付けのトレンドや、地域や年代ごとの特徴がデータで分かる」(中村氏)。
例えば、「パスタ」と同時に検索されている材料として、2013年には「アボカド」や「ベーコン」「カットトマト」などのキーワードが上昇していることが分かった。消費者が、アボカドをパスタの食材として認識し始めていることが浮き彫りとなる。調味料として「塩麹」を使う、といったブームを先んじてとらえることも不可能ではない。
クックパッドは今年1月、こうしたデータを閲覧できるサービス「たべみる」を本格的に販売し始めた。スーパーや食品商社、食品メーカーなどに販売し、マーケティング施策に活用してもらうのが狙いだ。

食品商社最大手の三菱食品は、たべみるを試験サービスの段階から利用する1社である。
営業担当者がスーパーの購買担当者に提案する資料に、たべみるの情報を活用している。マーケティング本部カスタマーマーケティンググループCRM推進ユニットの山田さやか主任は、「炊き込みご飯にツナ缶を使う、パスタにコンビーフを使うといった、消費者の肌感覚をデータから発見できる」と評価。「営業資料のあらゆるページに、たべみるの情報を使っているほど」(同)と言う。
クックパッドは三菱食品など企業の反応から、データへの需要が強いと判断した。これまでデータを1年に1回更新していたが、2013年にIT基盤を増強。データを毎日更新できるようにして、今年1月に本格提供に踏み切った。「急に検索が増えたキーワードの意図を顧客の視点で分析し、ライバルより先に打ち手を見いだしてもらう」(中村氏)。
サービスによって月間15万~35万円の料金を設定しており、早ければ2年後にも年間売上高1億円を上回りたい考えだ。