パナソニックが「スマート家電」顧客の利用実態の把握・分析・活用へ、体制を大幅に強化していることが判明した。データ分析に基づいた販促や商品開発、さらには故障診断・予約サービスの提供まで視野に入れる。

 1年半ほど前からビッグデータの本格的な収集・分析・活用に取り組んできたパナソニック。今後の柱の1つと位置づけるスマート家電事業において、その活用の一端が明らかになった。アプライアンス社技術本部スマート家電事業推進グループの宮崎雅也グループマネージャーは「特定ユーザー層の利用実態を把握してスマート家電のサービスや商品企画に生かしている」と話す。

 スマホによるエアコンの遠隔操作や調理家電向けレシピの閲覧…。同社のスマート家電は、これまでの家電を使いやすくし、付加価値の高いサービスの提供を目指している。

 例えば、スマホでエアコンの電気代を確認して節電効果を実感したり、体組成計で得られた各種健康データをグラフ表示して運動継続への意欲を高めたりできる。製品の使い方の案内や修理対応、新しいレシピの提供など、製品購入後もパナソニックが顧客と直接つながり、サポートし続けられる。

 スマート家電はスマホと連動して使うことで、製品の魅力の向上につながるが、それ以上にパナソニックにとって重要なのが、顧客の利用実態を把握できることである。

 各機能がいつどの程度使われているのかを把握して蓄積できる。従来の顧客へのアンケートやグループインタビューに比べ、データのリアルタイム性や正確性は格段に高い。

パナソニックのスマート家電におけるビッグデータ活用のねらい
パナソニックのスマート家電におけるビッグデータ活用のねらい

全顧客の属性を把握する仕組み

 蓄積したビッグデータと、利用している顧客属性(年齢、性別、地域)を分析すれば、セグメントごとのニーズが把握可能だ。スマート家電を利用するには、同社の会員組織「クラブパナソニック」への個人情報の登録が必須なので、顧客の属性はすべて分かる。

 顧客がAndroid端末(おサイフケータイFeliCaまたはNFC対応機種)で専用アプリから料理レシピを選び、電子レンジ本体のタッチセンサー部にかざすと、レシピに合った加熱が自動設定される。その際にどのレシピを選んで実際に調理したのかという利用実態が把握できる。

 例えば、30代と40代では働く女性が多く、料理にかける時間が少なく、短時間でできる料理レシピの利用が多いことが分かる。そこで店舗販促では、短時間で料理できるレシピが数多く利用できることをアピールしている。一方で閲覧しているのに料理しないレシピを外すなど、スマホで見られるレシピを切り替えて、満足度を高めているという。

 あまり使われない機能は、認知度を上げるため宣伝などを実施する。さらに今年の夏には、利用実態の分析を基に企画した新機能を備える炊飯器を発売する予定だ。

 エアコンや洗濯機、冷蔵庫では、いずれそれぞれの機器にあるセンサーの情報を活用するという。一般に白物家電の場合、利用して5年を過ぎてくると経年変化によって故障するケースが出てくる。センサー情報の収集で故障しそうな機器を事前に予測するというものだ。

 エアコンなどが故障すると、大抵は修理要員が現場に行ってはじめて交換すべき部品が分かる。そのために部品を取りに戻る必要がある場合が多く、修理に時間がかかる。しかし、スマート家電では、故障しそうな部品を特定できるために、交換すべき部品を持って修理に行けるようになる。修理要員の手配や修理部品の確保が最適化できるので、経費削減になる。

 ただし、こうしたサービスを提供するためには、個人情報の保護も考える必要がある。現状では、「お客様のエアコンがもうすぐ故障します」と通知することはできない。事前に顧客の許可を取らなければ、家電のログ情報を個人を特定する形では取得できないからだ。現在のデータ分析では、名前など個人を特定する情報は切り離している。

米国で分析を学ぶ2人の社員

アマゾン・ドット・コムの購買データなどを活用した分析例
アマゾン・ドット・コムの購買データなどを活用した分析例
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 パナソニックのビッグデータ活用は米国でも始まっている。例えば高級シェーバーの販促で、米アマゾン・ドット・コムから購入した販売データを活用している。具体的には、米国の各都市で同社の高級シェーバーがどの程度売れているか全米本土の地図にプロット。さらに所得の高い都市をプロットして、両者を比較している。この結果、所得が高いにもかかわらず同社の高級シェーバーが売れていない都市が、西海岸と中西部に多く存在することが分かった。そこでそれらの都市での販促を強化して販売増につなげているという。

 実は米国では、データサイエンティスト育成の一環として米国の大学に留学している2人の社員が、ビッグデータ活用を進めている。

 その2人はそれぞれ、スティーブンス工科大学大学院、ニューヨーク大学(NYU)大学院で、業務をこなしながら、統計学や分析手法、ビジネス活用の専門コースで学んでいる。

 米国に拠点がある先行ビジネスアナリシスチームに所属しつつ、スティーブンス大学に通う30代の女性社員は、昼間はパナソニックのオフィスで働き、週4日は午後6時~9時半まで大学で授業を受ける。土日は予習や復習、課題をこなしている。

 仕事との両立は大変だが、「大学で学んだ最新の分析手法をすぐに実際の業務に生かせる点がいい。グループで行う課題解決のテーマには事欠かない」と意欲的だ。

 1学年約30人のうち8割は米国以外の外国人で、彼女は唯一そして初の日本人だ。彼女は「5分の2が中国からの留学生、あとインドや東欧が続く。日本以外は国を挙げてデータサイエンティストを育成している感じで、危機感を抱いている」と打ち明ける。大学院には企業から採用オファーが相次ぎ、データサイエンティストへの需要が高まっているという。

 NYUで学ぶ30代の男性社員は、主にオンラインで授業を受けている。米国のキャンパスに集まるのは14カ月の履修期間中5回。60人のうち半数以上は米国以外に住んでおり、中国やアフリカ、イスラエルなど20カ国に上る。ベンチャー企業の経営トップやコンサルタント、米グーグルや米マイクロソフトの社員も参加している。

 「メリットの1つは世界に人脈ができたこと。グループで課題をこなすために電話会議が多く大変だが、言葉の問題よりどんな役割を果たせるかが重要だ」と言う。

 パナソニックのビッグデータ分析部隊は、2人が所属する米国チームのほかに、国内にビジネスアナリシスチームと情報活用推進チームがある。3つのチームで構成する情報分析グループに所属するデータサイエンティストは現在25人。2015年には倍増の50人にする計画だ。

 情報分析グループが所属するコーポレート情報システム社CITA推進センターの松本昌之所長は、「社内の経営情報や外部の情報、実需情報、SNSなどを集約して分析し、各事業部のビジネス部門に渡して活用してもらっている」と話す。同社のビッグデータ活用が順調に進むかどうかは、この情報分析グループが重要なカギを握っている。