顧客との関係を強化し銀行収益につながる取引を底上げするため、じぶん銀行はここ2年間かけてスマートフォンアプリを刷新してきた。ネット専業銀行である特性を生かし、モバイルアプリのコンテンツを投入。外貨取引や住宅ローンの利用など、銀行の売上げに貢献する取引回数を増やすことで、収益の拡大に取り組んでいる。
じぶん銀行はKDDIと三菱東京UFJ銀行が50%ずつ共同出資して設立した銀行であり、KDDIの契約時に口座を開設するケースが少なくない。顧客層は20~40代が80%を占めており、他行よりも女性比率が高いという。

少額取引顧客の行動を喚起
口座数は250万契約と堅調に増加しているものの、収益性に課題があった。全体の収益構造を見ると、10%の利用者が売上げの90%を支えている状況だった。
口座の約8割は収益を生まない状況であり、開設後に取り引きをほとんどしない利用者も約3割を占めているという。さらに少額の預金残高で頻繁にATMを利用する、いわゆる「銀行にとって赤字を生み出す」利用者も7%いる。
この収益構造を改善すべく、取引の少ない8割の利用者に対する施策を講じた。その1つがスマホ向けのモバイルアプリの強化で、新バージョンのリリースを2016年6月に行った。初期画面を一般的なサービスメニューの提示ではなく、利用者の行動に応じた「タイムライン表示」にした。
じぶん銀行で執行役員マーケティングユニット長兼営業副ユニット長兼経営戦略部部長を務める井上大輔氏は、「電子メールやプッシュ通知で行ってきた商品のレコメンドを、将来のイベントとしてタイムラインに表示することで利用者に受け入れられることを目指している」と語る。2017年3月にも機能を強化した。
例えば、毎月決まった時期の引き落としがあれば、その数日前から引き落としの予定を表示する。さらにそのタイムラインに顧客ごとに異なる提案をしている。その判断基準となるのが、資産状況や取り引き行動、アプリの利用状況などである。
パーソナライズされたサービスのシナリオは200本を超える。外貨取引に関するシナリオだけでも、40本以上を用意する計画である。すでに閲覧するコンテンツに応じて商品情報を出し分けている。預金残高に応じて金利を変更したり、外貨取引をしたことのない利用者には手数料を優遇したりといった施策も検討していくという。

例えば「みんなのマネー事情」は、自分と同じような給料の“隣人”がどのようなお金の使い方をしているのかを参考にできるコンテンツだ。日経リサーチ(東京都千代田区)などの第三者データを活用して作成する。例えば、預金残高の大きい“隣人”が、定期預金をしていることを知って、取り引きを始めるといったことを喚起するものだ。実際、目標を設定するユーザーの預金残高は、増加傾向にあるという。
また「AI外貨予測」は、過去の為替の変動から未来の為替をAIが分析・予測し、外貨預金を買うタイミングを、顧客の取引状況に応じてサポートする。例えば、円高に振れた場合、外貨預金をしている顧客が含み損/利益を出したのかを判断し、個別の情報や商品を提供するといった具合だ。
なお、利用者のこうしたデータはテラデータのデータウエアハウスに集約して分析している。顧客の属性情報や取り引き、アプリの利用状況、顧客の損益計算といったデータ以外に、経済指標や為替などの外部データも活用している。
これらの取り組みの結果、顧客との関係強化にもつながった。銀行取引以外の「みんなのマネー事情」などアプリの利用率は35%から50%に上昇した。井上氏は「シナリオを充実させて顧客との関係を強化し、クロスセルやアップセルにつなげたい」と語る。アプリとデータの活用を進めてメインバンクとしての利用を引き上げていく考えだ。