東芝デジタルソリューションズはディープラーニング(深層学習)を活用し、大規模ビルの設備異常の検知の実証に今年6月まで取り組んだ。約3万5000のセンサーや機器の定常状態を学習し、何らかの問題が発生している、もしくは発生する可能性を察知することを目指している。
川崎市にある東芝のビルにある、温度などの環境センサー、エアコン、電源、エレベーターなどのセンサー情報をリアルタイムで取得して、異常が発生していないかを判断する。
大規模なビルになると数万以上のセンサー情報が存在し、局所的に起こる問題を的確に把握するのが難しいという。東芝デジタルソリューションズ ソフトウェア&AIテクノロジーセンター システム&サービス技術部の波多野健参事は「設備の専門の知識がなくても、データから問題を把握することを考えている。例えば、『このビルのこの階はこうしたセンサーの状態になると異常である』という個別のドメイン知識による管理をなくしたい」と説明する。

具体的には、過去の約1年半のセンサー情報を利用して、AIに定常状態を学習させて評価した。ビルが新しいため、現時点で実際のトラブルが発生していないが、設備検査のためエアコンの空気取得の設定を変えたり、梅雨や半日勤務でエアコンの負荷が変化している、といった通常と異なることが認識できたという。
ディープラーニングの中核は東芝がオープンソースソフトなどを活用し開発しており、数層で構成する。「非定常の把握だけでなく、どこのセンサーで問題が起きたのかまで推測するエンジンが強み」(波多野参事)。
IoT団体でデルなどと連携し実施
今回のプロジェクトは、米ゼネラル・エレクトリック(GE)などが主導するIoTの普及団体米インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)において、「テストベッド」と呼ぶ実証実験として進めている。
東芝のほか、IICに加入する米デルテクノロジーズが参加し、知見や人材を持ち寄った。デルは傘下のデルEMCのストレージや技術を提供し、並列分散処理によって大量のセンサーデータを短時間に処理できるようにした。
IICのテストベッドプログラム主査のジョセフ・フォンテーン氏は、「テストベッドは公表できるものは27だが、なかでも東芝のディープラーニングの取り組みは、現実世界を評価できる先端的な取り組みだ」と言う。IICには約250社が参加し、日本企業は20社が参加している。
東芝の今回の取り組みは、施設のセキュリティやスマートシティなどにも展開可能だ。波多野参事は「ドメイン知識が必要ないということは、多くの分野にも適用可能ということ。街中で人の流れが変わったら、何かが起きていることを把握できるかもしれない」として、幅広い分野への適用を視野に入れる。
今年11月にはデルと提携し、今回の成果も含んだAIのソリューションを共同で提供していくことを発表した。