大手運用機関の大和住銀投信投資顧問は今年7月から、人工知能(AI)を使った銘柄の発掘に取り組んでいる。決算情報など公開資料のテキストからAIがスコアリング。投資信託に組み込む可能性がある銘柄を効率的に見いだすことができるようになった。
大和住銀の投信ファンド「日本成長テーマフォーカス(愛称グランシェフ)」に、AIを使ったビッグデータ解析事業を手掛けるフロンテオの独自AIエンジン「KIBIT(キビット)」を採用した。KIBITが企業の公開資料から学習し、それを基に企業銘柄をスコアリングしている。
同社の株式運用第一部バリュー+αグループで中小型株の運用を手掛ける永田芳樹シニア・ファンドマネージャーは、AI導入により「今まで知らなかった銘柄から10以上組み入れることができた。AIが自分の好みの分身となっている」と評価する。
調査のきっかけに活用
ファンドマネージャーが見るべき銘柄は膨大だ。永田氏によると、上場企業の約3600銘柄のうち保有銘柄はもちろん、2000社ほどは常時ウオッチしている。だが詳細を取材したり分析したりする調査対象の銘柄となると年間300~500程度まで絞られる。新たな調査対象の候補となる銘柄を上場銘柄から選ぶ作業を、AIによるスコアリングで一部手助けしてもらう。いい銘柄に出合う確率を高める手段の一つとして利用し、企業訪問などに時間をかけられるという。

「いい銘柄は変化する銘柄」との考えに基づいて、自然言語から変化をくみ取るようにAIに学習させた。スコアが高ければ変化のサインだ。「ある銘柄が高スコアだから買うのではなく、高いから調べるきっかけにしている。AIの正当な使い方ができている」(永田氏)。
AIが変化を察知した一例としてレーザー光学機器の製造を手掛けるシグマ光機がある。今年5月期決算情報にAIが反応。ファンドマネージャーが企業調査を実施し、設備投資や研究開発の需要が拡大していることから今後の成長を判断し、グランシェフに組み入れた。
変化を察知したもう一つの例は良品計画だ。2010年2月期が減益決算だった同社の株価は低迷。ところが公表された資料に、中国事業の好調さについての記述があった。これをAIが変化と受け取り高いスコアを付けた。事業規模は相対的に小さかったものの、翌年以降アジア地域が好調になり、同社の株価はその後上昇した。
効率化を実現する使い方に正当性
大和住銀はフロンテオと2016年秋ごろにAI導入の検討を始め、教師データをつくり年初から実証実験を始めた。元になるデータは4年分ほどを使ってテストを行った。KIBITを導入した理由として永田氏は、自然言語の解析エンジンが金融業界と親和性が高いと指摘する。具体的には、文字による記録が重要な位置を占める点である。このほかパソコンで稼働する手軽さも理由の1つだという。
今後AIでできる可能性として、例えば決算数値の変化を意味のあるデータとしてAIが取り出すような仕組みをつくったり、人が追いきれないセミマクロのデータなどの統計を扱ったりすることなどが考えられるという。
AIはいい銘柄を予想するわけではなく、ファンドマネージャーが効率的に動けるような使い方に正当性があると永田氏は考えている。「人の潜在意識やイメージの集合、言葉にしにくい要素が、3~5年といった期間の予想に影響を与えるので、長期投資を行うには豊富な経験を持つ人間が強みを持つ」。そのうえで、今回のAI活用の試みはライバルが簡単に模倣できないとして「参入には障壁がある」と自信を見せる。大和住銀は今後、AIを使って「別の軸で(商品の)多角化を検討している」(運用企画部次長の矢野真一氏)という。