イオンフィナンシャルサービス(イオンFS)は初のFinTechハッカソン「AEON Financial Service Innovation 2016」を10月に開催した。経営陣が自ら審査員として参加、受賞作には開発・資金支援の意向を示すなど、外部の力も借りての「小売りと金融の融合」の推進に意欲を示した。
イオンFSが運営する銀行およびクレジットカードと連携したサービスを開発するためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の提供を想定して、新しいサービスやアプリを考えるというものだ。企画提案にはイオングループ全体とのシナジーも求められた。
主催のイオンFSに加えて、イオン銀行とイオンクレジットサービスが共催として名を連ねた。日本IBMとベンチャーキャピタルのサムライインキュベート(東京都品川区)が運営に協力した。
カード購買情報と家計簿アプリ
ハッカソンに先立ち10月1日にアイデアソンを実施。「イオンFSのネットワーク(各社サービス含む)を生かしてメイン口座化(カード化)につながる楽しいサービス」というテーマに従い、イオン銀行やイオンクレジットサービスが提供する各種の金融関連サービスがAPIとして開放されたら、という設定に基づいて、新しいサービスやアプリのアイデアを練った。
そこでの審査を通過した7グループが、さらに10月15~16日にプロトタイプの開発に取り組み、10月31日のデモデイでのプレゼンテーションと最終審査に臨んだ。デモデイに進んだのは、ITソリューション開発のネオス、イスラエルのZEROBILLBANK、大阪トヨタ自動車子会社のオーティー情報システム(大阪市)、検索サービス開発のtritrue(東京都千代田区)、ビジネスソフト開発のウィルウェイ(東京都港区)、FinTechベンチャーのマネーフォワード(東京都港区)、システムインテグレーターのランドコンピュータの7社。
最優秀賞に輝いたのは、ネオスの「主婦層をメインターゲットに差別化された家計簿アプリ」となった。30代の主婦の半数が家計簿を付けているという調査を基に、20~30代の主婦層をターゲットとし、人工知能(AI)を活用したチャットボットにより「利用者とイオンが親友になる」ことを目指した。

APIを活用して入力の手間を極力廃したことが特長だ。イオングループの店舗にてイオンカードで購入した商品情報をAPIから取得し、自動的に振り分けることで、入力やレシート撮影の手間が不要で、正確な情報を登録できる。通常クレジットカードの決済情報では商品名まで把握できないが、店舗のPOSデータとカードのIDを連携させることで可能にした。
家計簿の内容を診断して、支出を減らし貯蓄を殖やすためのアドバイス機能を備える。購買履歴から消耗品の購入サイクルを推測し、タイミングに合わせてレコメンドするといった、O2O(オンライン・ツー・オフライン)マーケティングも実現する。チャットボットが店員の代わりになり「そろそろ洗濯洗剤がなくなりそうですよ。この製品を使ってみませんか?」など、利用者の生活のなかからニーズをつかんで、適切な商品を提案することを想定している。
優秀賞には、購買データと銀行口座を連動した学資ローンによって若年層の銀行口座開設を促すサービス「SUMIRE」(マネーフォワード)が、特別賞にはイオングループで買い物したりサービスを利用したりすることでアニメ風のアバターが成長し、コンシェルジュとして長期にわたり生活支援をする「デジタルマスコットコンシェルジュ」(ウィルウェイ)が選ばれた。
実際のサービス開発まで協力

審査員を務めたイオンFS代表取締役会長およびイオン銀行取締役会長の鈴木正規氏は、ネオスに対して「簡単に家計簿を付けたいという顧客のニーズに正面から応えながら、小売りの持つPOS情報と金融が持つ情報とを融合することで、グループ内のシナジーという大きな可能性を感じさせるところが大きな評価につながった」と講評した。
さらに鈴木会長は「今後もこうした形で新しいアイデア、新しいテクノロジーを取り入れながら、金融機関が十分人々の暮らしを豊かにするために役立つように頑張っていきたい」と、同イベント継続の意向を明らかにした。
イオンFS常務取締役の万月雅明氏は、イベントを企画した理由を「これまで、小売と金融の融合というテーマに対して、自分たちだけでは答えを出せていなかった。外部のアイデアを借りることでその解決を目指したが、期待以上のアイデアをいただけた。参加企業には、これからの実際のサービス開発まで協力を期待している」と語った。
なお、今回のハッカソンで利用されたAPIは、あくまでもイベントのための仮想的なもので、実際のAPI開発や提供については未定。受賞作品も現時点では公開される予定はないという。しかし「これからいろいろな形で協力させていただきながら、サービスを実際に提供する段階までお付き合いいただければ」(鈴木会長)とも語っているほか、またスタートアップ企業に対しては、「(ベンチャーキャピタルのような形で)出資もあるかもしれない」(万月常務)とも話す。イオングループとしてFinTechによる新たなエコシステム構築を目指す意向がうかがえた。