人工知能(AI)など、データ活用人材の不足が叫ばれてはや5年。人材が集まる場の創出や活用のノウハウの共有など、独自の工夫で乗り越える取り組みが始まった。特集の3回目は企業における活用体制の構築と運用について紹介する。

 SOMPOホールディングスは、IT人材育成のデジタルハリウッドと組んで、独自の講座「Data Science BOOTCAMP」を開講して、データサイエンスやAIについて学ぶ有料の講座を開講している。

SOMPOは自ら講座を企画し、外部人材を呼び込む
SOMPOは自ら講座を企画し、外部人材を呼び込む

 講師は仕掛け人である日本IBM出身のデータサイエンティストである、SOMPOホールディングス中林紀彦データ戦略統括/チーフ・データサイエンティストのほか、元リクルートの著名データサイエンティストの原田博植氏(グラフ代表取締役)、SNSデータの解析に強いデータセクションの創業者である橋本大也氏ら、豪華な顔ぶれである。

 有料といっても、約3カ月のプログラムで9万9800円。全てのカリキュラムを終了すると5万円の祝い金が支払われるので、実質5万円と破格の設定と言える。受講者は書類選考で決定する。その際のポイントは「SOMPOグループの事業に関する課題」「テクノロジー活用による課題解決方法の提案」である。

 醍醐味は、そうした一流の講師陣に教えてもらうことができるということと、実際にSOMPOグループの業務データに触れることができるということだ。クルマの運転時のセンサーデータ、ウエアラブル端末で得たバイタルデータについて分析できる。「ここで生データは汚いものだということを知ることができる」(中林チーフ・データサイエンティスト)。

 約3カ月のプログラムを終えると、最終プレゼンテーションの「デモデイ」となる。「社内では思いもつかないアイデアが出てきて、PoCの参考にさせていただきたいものもある」(中林チーフ・データサイエンティスト)。

 これで終わりではない。SOMPO側からこれぞと思った受講生に対して声をかけるのだ。7月に第1期を終えた受講生は2人に採用の相談をしているという。

 SOMPOは同講座にグループの社員にも参加してもらっている。中林チーフ・データサイエンティストは「データ活用のノウハウを身に付けるだけでなく、異業種との交流を図るのも大きな目的だ」と狙いを語る。10月に始まった第2期ではSOMPOグループの保険のアクチュアリーの資格を持った担当者が参加する。「10人の応募があったが、3人に絞った」(中林チーフ・データサイエンティスト)。

組織力で育成を支援する村田製作所

 電子部品大手の村田製作所は、組織的なデータの分析と活用を徹底している1社である。製造現場のデータ分析・活用支援を統括するモノづくり強化推進部 生産革新2課の下八重修シニアマネージャーは「組織として常にフォローをして、1人にさせない体制で育成している」と説明する。

 入社2~3年目の生産現場の担当者は「データマイニング研修」と称して1日のデータ活用の実践研修を受けるが、その日では終わらない。現場で半年間実践をしながら、メンターとなるインストラクターを割り当てて一緒に取り組む。このインストラクターは社内で認定された制度で、育成計画の立案、日常業務の中での指導、研修の開催などを担当する。

村田製作所のデータ人材育成プログラム
村田製作所のデータ人材育成プログラム

 そして、研修を受けている担当者やインストラクターを、モノづくり強化推進部とIT部門が、データ分析環境の整備や分析ノウハウの提供で支援していく。

 「データ活用の8割はデータの準備にかかっている」(下八重シニアマネージャー)のはどこも一緒である。下八重氏の部隊の半数はデータを整備する担当で、データをできる限り1カ所に集めて、ポータルとして情報を公開している。

 これに加えて重視しているのが「イベント」である。インストラクターなどが定期的に集まってノウハウを披露したり、交換したりする半年に1回の場をつくっている。「なんでそんな分析をしているのか」「どうしたら改善されたのか」。数十人のインストラクターが、ノウハウを交換している。今年から海外拠点でもデータ活用を本格的に始めており、海外の担当者も来るようになった。

 村田製作所はスマートフォンに搭載されている積層セラミックコンデンサー(MLCC)が主力製品だ。世界首位のシェアをキープしており、2013年3月期に6800億円だった全社売上高は16年3月期には1兆2000億円を超えるまでになった。

 実はこの成長を支えているのがデータ活用だ。同社の電子部品は顧客の要望を聞くだけでなく、提案型も多く、新製品の比率が4割を超えている。「生産の垂直立ち上げが求められる」(下八重シニアマネージャー)が、全数データの分析を活用して、問題箇所を特定。生産開始から短期間に歩留まりを上げることで、品質を担保している。

ビューカードは経営直結のデータ活用体制を構築

 JR東日本グループのカード会社であるビューカードは、ほぼゼロからデータ活用の体制を立ち上げた。

 スキルを身に付けたのは、営業企画部や営業推進部、加盟店ソリューション部、法人カード事業部などのビジネス部門で、ほとんどデータ活用の経験がない担当者だ。2015年度に4人を育成し、以後16年に4人、17年3人を育成した。

 ビューカードは大きく3つの仕掛けで活用人材の育成に挑んだ。まずは外部の専門家の助けを1年間など限定で受けること。データ活用のコンサルティング会社ギックス(東京都港区)の支援を受けることにした。

 2つめがデータの分析よりもデータの「見方」にフォーカスしたことだ。ギックスとカード利用に関係する重要指標を議論したうえで、分析に必要な数百枚もの帳票を出力してもらった。その表やグラフを見て、何か変化が起きている、新たな施策に使える切り口がある、といったことを見いだして、解釈できるようにするというものだ。

 こうしてデータを分析するのではなく、活用することを主眼とするため、同社はデータ活用人材を「データサイエンティスト」ではなく、「データアーティスト」と呼んでいる。

 最後の仕掛けが、データ分析を経営に直結させることだ。月1回、経営陣とデータ分析をした現場担当者がデータを前に議論する「全社マーケティング会議」と呼ぶ場を設けている。取り組みを統括する小野伸司常務取締役は、「現場と経営がデータを基にして議論をして、同じKPI(重要業績評価指標)で動けるようになった」と説明する。

ビューカードは現場のデータ活用人材が経営と直接連携する
ビューカードは現場のデータ活用人材が経営と直接連携する

 新たにデータアーティストとなる分析担当者は、先輩などの指導の下で1カ月目に施策を立案し、2カ月目に全社マーケティング会議で発表し、実行に移す。ここで絵に描いた餅にならないよう、施策を実施するため、年間千数百万円の予算を準備している。

 例えば、昨年はクレジットカードの利用を促進するため、ATMの利用状況とあわせて分析をすることにした。結果として、「ATMでポイントによるチャージを利用することで、カードの利用が促進されるのでは」という仮説が導き出され、「アルッテ」と呼ばれるATMの認知や利用を引き上げるという施策をメルマガなどで実行することにした。

データアーティストの分析結果
データアーティストの分析結果

 データから見えてきた「400ポイント以上を保有」「2015年度にアルッテでチャージ利用なし」などの条件の顧客に対しアルッテでのチャージを促進するキャンペーンを実施し、予想を大きく上回るチャージの利用があった。

 データアーティストとなった、営業本部業務推進部門 マーケティング部の福田優和係長は「顧客特性を新たな角度で見ることができるようになった。切り口がないようでもあると認識することを身に付けた」と話す。

 データアーティストがいる部署同士の連携効果もあった。「与信と営業は本部が異なるのであまり話すことはなかったが、データアーティスト同士ということで連携するなどしている」(営業推進部門販売促進部の金俊太郎係長)。

 外部の支援を受け、ゼロからデータ活用人材を育てたが、2017年度には福田氏や金氏などは後輩を指導するようになった。18年には分析用の帳票を自社で用意できる環境を構築し、完全に独り立ちする計画だ。

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