人工知能(AI)など、データ活用人材の不足が叫ばれてはや5年。人材が集まる場の創出や活用のノウハウの共有など、独自の工夫で乗り越える取り組みが始まった。特集の2回目は地方におけるAI人材の獲得や教育の工夫を見ていく。
今年6月、北海道を基盤にドラッグストアを展開するサツドラホールディングス(HD)は、AIスタートアップのエーアイ・トウキョウ・ラボ(東京都千代田区)を傘下に収めて、AI人材を確保した。
エーアイ・トウキョウ・ラボも人材の確保に頭を悩ませていた。同社の北出宗治代表取締役社長は「東京のAI人材は海外志向が強かったり、Preferred Networksなど有名なAIスタートアップに入社したり、当社にはなかなか来てくれない」と話す。
そこで考えついたのが、サツドラが地盤とする北海道にAI人材の受け皿を用意することだ。北海道大学や公立はこだて未来大学など、AI人材を輩出している大学が多数ある。
北海道大学内のインキュベーション施設に「AI HOKKAIDO LAB」を開設。サツドラHDグループが展開する約190店舗のドラッグストアとデータ資産を活用したソリューションの開発を推進するR&D機関と位置づける。また、北大調和系工学研究室の川村秀憲教授と連携して、研究開発を進める。
さらに、札幌を中心とした北海道内のAIエンジニアを積極採用。サツドラHDグループの店舗での実証実験やプロトタイピングの開発スピードを加速させる。
AI HOKKAIDO LABの所長には、パナソニック出身の土田安紘氏が就いた。土田所長は北大で川村教授と同じ研究室だったという。11月には、川村研出身で卒業して3年間IT会社に在籍していた人材が、エーアイ・トウキョウ・ラボに入社する。北出社長は「拠点を開設したことで、道内のAI研究で実績のある人材を積極的に採用していく」と自信を込めて語る。
新潟では地元企業が活用の核を
教育や医療などを手掛ける新潟の複合企業グループのNSGホールディングス(新潟市)は、一から地元にAI活用の核を作ろうとしている。傘下の新潟コンピュータ専門学校を核にして、AI人材の育成とそれを活用したビジネスに乗り出した。
今年8月、AIのビジネスを推進する企業、新潟人工知能研究所(NAIL)を設立。新潟コンピュータ専門学校から情報やロボット系の学生をインターンとして出向させて、実務を学ばせることにしたのだ。

NAILは今後5年間で延べ180人のインターンなどを受け入れることを想定し、5年後に年間4億8000万円の売り上げを目指す。NAILの黒田達也代表取締役は 「当初NAILとして、NSGグループ内でのAI活用に取り組み、その後、新潟企業のAI活用の支援で地元に貢献していきたい」と語る。
ただし北海道の札幌などとは違い、新潟の地元でAIに詳しい専門家を確保するのは難しい。そこで東京都港区に本拠を置くマーケティング系のAI会社、データアーティストの力を借りることにした。同社のAI事業本部AI開発部マネージャーのアマルサナー・アグチバヤル氏が、月に2回新潟に来訪し、新潟コンピュータ専門学校の講師や、NAILにインターンとして来ている学生にAIを教えている。アグチバヤル氏はモンゴルの出身で、東京大学大学院の松尾豊研究室で学んでいた。
「それでは当社から、AIによるテキスト処理関連の案件を2つ発注したい。実際に商品化につながるものだ」。講座の4回目となる10月25日、アグチバヤル氏はデータアーティストからNAILに仕事を発注したいと切り出した。新潟コンピュータ専門学校の淡路雅博教務部長は、「もう少し先かと思っていたので驚いた。NAILの第1号案件として、4人のインターン生と私の5人で、しっかりと取り組んでいく」と意気込む。
新潟コンピュータ専門学校では、来年2月からAIコースを選択できるようになる。2年間でAIのフレームワークなどを活用した開発を中心に学んでいく。言語や画像などの認識までできるようにする。