景気や需給で変わるモノやサービス価格。価値に直結するデータを探し出したり、AIを駆使したりして、価格が高くても納得する顧客に届けて稼ぐ特集の第1回。客室の販売数に応じて価格を変動させる取り組みを始め、浅草ビューホテルで1室当たり6000~7000円の単価アップの効果を得ている日本ビューホテルなどの事例を紹介する。
浅草ビューホテルなどを運営する日本ビューホテルは、東京スカイツリーの開業による訪日外国人(インバウンド)の増加を見込んで、客室の販売数に応じて価格を変動させる取り組みを始めた。
下の図は団体と個人客への販売室数、個人客への販売予測、平均客室単価、最低販売価格などをグラフで示したものだ。宿泊日1日ごとに分析画面があり、毎日更新している。

この日ごとのグラフがならんだ一覧表を見ながら、価格の調整をしている。団体客は半年前などに旅行会社に販売枠を渡してしまうため、個人客向けの調整が主だ。
例えば、上の図であれば個人客への販売の予測曲線よりも、実績が低めに推移している。宿泊日が近くなってから団体客のキャンセルも入っている。強気の料金設定はできないが、終盤に個人客への販売ペースが上がってきたため、最低販売価格を2500円ほど徐々に引き上げているのが分かる。さらに販売が弱含みの時は、料金を下げることもあるという。
販売価格への反映は、旅行業界標準のツールを使うことで、自社のサイト、「楽天トラベル」や「じゃらんnet」など、個人向け旅行サイトの料金を一斉に変更可能だという。
客室の稼働率の向上は浅草であればインバウンドによるスカイツリー効果もあるが、価格をコントロールしたことで、逸していた可能性のある収益を得ることができた。
日本ビューホテル事業統括部事業統括課の小林圭課長は、「浅草ビューホテルで1室当たり6000~7000円の単価アップの効果があった」と旗艦ホテルにおける価格最適化の効果を語る。一連の取り組みが奏功し、日本ビューホテルのホテル事業の利益率は2012年4月期に2.8%だったが、2016年4月期に7.1%まで向上した。
今後は、為替も考慮した価格設定に取り組む考えだ。「外国人の方から見たら、円安によって感覚より安く購入しているケースがあったり、円高で割高に感じていたりするケースがある」(小林課長)
ゲームや席ごとの価値を見極め
イベントのチケットはホテル以上に価格が固定されている。チケットの価格は印刷したり、情報誌に掲載したりするのが一般的で、その時点で価格が決まってしまうからだ。
例えば、プロ野球であればスタンドの席はエリアで同じ料金というのが一般的で、いい席は早い者勝ちでなくなっていく。この状況に一石を投じたのが、ヤフーと福岡ソフトバンクホークスである。
2016年シーズンにヤフオクドームのゲームのネット販売の一部を対象に、機械学習を活用した価格の最適化に挑戦した。
「同じクラスの席でもそれぞれの価値は異なるはず。いい席を評価して購入していただけないかと考えた」(ヤフー チケット本部 チケット推進部の稲葉健二部長)
今回は、列ごとに価値を評価して、異なる価格を付けることにした。
その判断データとしては、(1)過去にその席がヤフオクドームの5万2000席の中で何番目に買われたかの実績値、(2)現在の対象チケットの売れ行き、(3)天候やホークスの順位、相手チーム、開始時間や曜日などを使うことにした。

価格は100円単位で上下させており、例えば、9000円のチケットが列によって9900円で販売されたり、試合日が近づくにつれて500円値上がりしたりするなどした。需要が低い場合は価格が下がる場合もあるという。
2016年シーズンは100席で試験的に取り組んだため、収益への寄与は限定的である。来シーズンは「対象とする席と数を増やしたい」(稲葉部長)
実際に導入するかどうかは決めていないが、考慮するデータとしては、対戦相手の成績や、選手の「2000本安打」などのイベント、登板予定のピッチャー、残り試合数なども検討した経緯がある。
安価なチケットの供給量で調整
一方、飛行機のチケットは、発売時に示した価格を購買時期に応じて小刻みに変えることはない。航空会社が提示する運賃の変更に際しては、国土交通省への届け出が必要となり、現実的ではないからだ。
そこで用いられているのが、複数の運賃価格を設定し、その供給量を上下させる方法だ(下図)。

具体的には、早期に購入することを条件にした割引チケットの量を当初は多くしておき、利用日に近くなるほど正規料金での販売量を増やしたりするといったように調整をする。
経路全体で需給と“価値”を評価
日本航空は2014年、座席予約の最適化システムを刷新した。国内と国際の価格管理を統合したほか、「国内線・国際線の乗り継ぎ便などのネットワークの全体を考慮して、最適化を実現する」(日本航空 路線事業本部 路線事業部 レベニューマネジメントサポートグループの宮本哲アシスタントマネジャー)のが目的だ。
従来は、それぞれの便ごとの需給を基に料金ごとの席数を管理していたが、顧客から見た出発地と最終目的地の経路全体の需要を基に調整するようになったのだ。
例えば、新システムでは、「福岡→ホノルル」と「福岡→ニューヨーク」といった全区間の需給を比べて、運賃価格別の空席数を割り出して設定している。「羽田→ホノルル」の需要が逼迫しており、「羽田→ニューヨーク」には比較的空きがあるのであれば、「福岡→ニューヨーク」に「羽田→福岡」の乗り継ぎ用の席数を多く提供するといった考え方だ。「羽田→ホノルル」は単体の便としても価値が高まっていると考えることができる。
様々な情報を考慮して、価格ごとに提供する席数をコントロールしていくことで、固定した状態よりも多くの顧客に利用してもらえ、事業者側の収入も増える可能性がある。
