店舗での実行動を把握し、製品や売り場を改善する手段が急増している。買わない理由までネットよりも詳細に把握できるビッグデータ店舗の実像に迫る。最終回となる第3回は、店舗ビッグデータを活用する上での障壁をまとめる。

 顧客の行動を把握するこうしたソリューションの導入から成果を出すまでには大きく3つのハードルを乗り越える必要がある。

 最も大きな課題は得られたデータを収益アップなどに結びつける、評価からアクションに向けたシナリオ作りだろう。アイトラッキングのシステムであれば、商品のどの場所を見つめたのかのヒートマップを見ながら改善の施策を検討していくことになる。

 一方、センサーで棚前の顧客行動を把握するタイプでは、商品を手に取るという行為が本当に売り上げに結びついているのかを検証する必要がある。この点については「売り上げと相関があることを確認している」(SBクリエイティブの坂本常務取締役)。

商品を手に取った回数と売り上げなどの算出例
商品を手に取った回数と売り上げなどの算出例

 店内の動線を把握するソリューションでは、どの場所に顧客が集中しているのかということに加えて、顧客がどのような経路をたどっているのかという情報が重要である。

 大日本印刷(DNP)はソフトウエア開発のスプリームシステムコンサルティング(東京都豊島区)と組んで、顧客の動線を可視化するソリューションを今夏から本格的に提供し始めた。

 店内の天井など見通しのいい場所にレーザーを照射するセンサー装置を設置。レーザーは1秒間に30回以上照射しており、顧客の体に当たったレーザーの反射から距離や経路を割り出す。さらに売り上げとの関連はレジを通過したタイミングからPOSデータとひも付けることを想定している。

 こうしたデータを基にスプリームのソフトで解析し、どのルートを通ってどこに滞留して購買にまで至ったのかどうかを樹形図として可視化できる(下図)。「どういう行動プロセスをたどった顧客が購買に至るのか、至らないのかをシナリオをベースに“勝ちパターン”を検証できる」(C&I事業部コンサルティング本部マーケティングコンサルティング室の土屋祐介エキスパート)。

DNPとスプリームは、センサーで取得した顧客動線から、購買に至るプロセスを分析できるようにした()
DNPとスプリームは、センサーで取得した顧客動線から、購買に至るプロセスを分析できるようにした(分析図の一部)

センサー設置済みの店舗を活用

 2つ目のハードルと言えるのが「調査場所」だろう。

 こうした調査はメーカーが自社製品の訴求力やマーケティング手法を確かめたいために導入するケースが多い。しかし店舗にはそのメーカーだけでなく他のメーカーの製品もあり、スーパーなどの流通業としては導入しづらい面もある。

 例えば、キリンはスーパーの通常の売り場でなく特設コーナーにセンサー棚を設置してもらっている。自社のアンテナショップで試すことも可能だが、競合製品を陳列するのは難しい。

 1つの解となるのがブレインパッドのアプローチだ。流通業の店舗にセンサーを設置済みで、それを利用した分析を短期間に始められる。「薬や日用品などニーズの高い商品の棚を中心に、ドラッグストア3チェーン10店舗、スーパー3チェーン5店舗に合計150のセンサーを設置いただいている」(深谷由紀貞ビジネス・ディベロップメント&営業統括本部ディレクターミディー事業担当)。

 ちなみにセンサーを設置している流通業にとっては、それぞれの顧客が実験したデータを一定の条件下で得られるというメリットがある。

 DNPは静岡鉄道グループのスーパー「しずてつストア」で、アイトラッキングの調査サービスを今年2月から提供している。調査を依頼するメーカーなどの要望に応じて、静鉄グループのポイントカード会員の属性や購買履歴を見て協力してもらえるモニターとなる顧客を決めるというものだ。

センサー棚は50万~60万円

 最後のハードルとなるのはコストだろう。

 例えば、SBクリエイティブのセンサー棚は仕様によってこれ以上の場合もあるが、1セット当たり50万~60万円程度だという。SBクリエイティブの坂本常務取締役は、「顧客が投資したコストを1~2年で回収できることを目指したい」と説明する。もちろん結果の分析をきちんとして改善し、設置店舗の協力も得られるなどの前提である。

 例えば、利益が200円の商品があるとする。仮に、センサー棚でのマーケティング効果で商品が1日10個多く売れれば2000円、30日で6万円、1年で72万円の利益になる。毎月の運用コストは1万円以内であり、年間50万以上の利益となり、2年間あれば回収が可能という計算もできる。

 顧客の動線を低コストに調べたいのであれば、棚卸しのアウトソーシングを提供しているエイジスのサービスを利用する手もある。

 同社は店舗の在庫を1年間に数回数え上げる棚卸し請負の業界で約8割のシェアを持っているとされ、各流通業の店舗のどこの棚にどの商品があるのかをデータベースとして保有している。

 そのデータを活用して、入店してきた顧客を人が観察することで、動線をデータ化するサービスを提供している。「1店舗1日20万~30万円で100程度のサンプルをデータ化できる。結果を報告するまで1週間から10日」(近江元常務取締役)と言う。

 顧客の店頭での行動を知ることができる様々なアプローチが登場した。取得した情報を活用して成果に結びつけるには、マーケティングだけでなく、商品の開発までさかのぼるなど、全社の連携が欠かせない。

万引きなど不審者の検知も進化

 センサーなどによる把握は“購買しない”万引き防止にも役立つ。あるスーパーの幹部は「万引きされると、警察や親を呼ぶといった対応に人がとられ極めて大きなコストになってしまう」と打ち明ける。つまり万引き犯を捕まえるのでなく、いかに万引きをさせないかの対策が求められている。

 例えば、DNPとスプリームは動線分析のサービスを万引き犯など不審者検知としても提案する。センサーで取得した情報をリアルタイムに処理して「店員不在エリアに30秒以上滞留」→「防犯カメラの死角侵入」→「1分以上滞留」といったパターンが揃った段階でアラートを出す。

 PUXはスーパーのトライアルカンパニー(福岡市)と連携し、カメラ画像の解析で警告を出し、犯行を未然に防ぐことを目指している。不審人物の行動パターンをディープラーニングで学習し実現するという。

 こうしたデータを分析していけば、万引きが多い店舗はどういったレイアウトか、どのように改善すればいいのかという点も見えてくるだろう。

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