店舗での実行動を把握し、製品や売り場を改善する手段が急増している。買わない理由までネットよりも詳細に把握できるビッグデータ店舗の実像に迫る。第2回は活用企業編として、スーパーにセンサー搭載の専用棚を設置したキリンや、アイトラッキングシステムを購入し活用するダイドードリンコなどの取り組みを紹介する。

 「お疲れ様ー」「今日もいっとく?」。神戸市にあるダイエーの店舗では、顧客がキリンの商品を陳列した棚に近づくと、棚が挨拶をし、あの手この手のお薦めをしてくる。

 キリンはSBクリエイティブの“センサー棚”を今年9月、店舗に設置した。特売コーナーに、アルコール類の「スミノフ」を販売するキャンペーンとして置いているものだ。

キリン社内に設置した実験環境。商品前の 小型ディスプレーに個別のコンテンツを表示できる
キリン社内に設置した実験環境。商品前の 小型ディスプレーに個別のコンテンツを表示できる

 棚の上部にセンサー、商品棚の前面にディスプレーを設置してあり、(1)顧客が棚の前を通ったかどうか、(2)近づいて来たかどうか、(3)手に取ったかどうか、を検知してカウントしたうえで、映像やメッセージで顧客に訴求する。(1)の状態ではテレビCMと同様のコンテンツを流して、(2)でキャンペーンなどの告知、(3)で商品の詳細説明、を流すといったものだ。

 同社にとって初の試みだが、「売り場で様々なキャンペーンを展開しているが、実際に顧客が反応したのかを知る手段がなく経験に頼るしかなかった。新型の棚でそうした仮説を検証できるのが大きい」(キリン CSV本部デジタルマーケティング室デジタルマーケティング担当の上代晃久主査)。デジタルマーケティング部門と営業部門が連携して「まずはやってみよう」ととんとん拍子に話が進んだという。

 今回のキャンペーンでの最終的なKPI(重要業績評価指標)は(3)の顧客が商品に手を伸ばしたかどうかに設定した。訴求力を見極めるため、ディスプレーで流すコンテンツや呼び掛けるメッセージを変えて反応の違いを比較している。メッセージの内容だけでなく、プロの声優に依頼して収録した「30歳代女性」「20歳代男性」といった声質を時間帯などで変えて流している。

 キャンペーンは10月末まで行っており詳細のデータ分析は今後となるが「店舗を持つ流通業が、活用に興味を示してくれている」(上代主査)。

 今後はカメラなどを活用し、「顧客の年齢や性別を推定したい」(同)。実際にどの層が興味を示しているのか、近くまで来たが手を伸ばさないのかといったことが分析できるようになる。ターゲット層への訴求力に大きな課題があることが分かれば、売り方だけでなく商品のパッケージを変更するといった対応も可能となる。

主要商品の投入時に効果を確認

 同じジャンルに多くの商品がひしめく中でいかにして選んでもらうのか。飲料メーカーのダイドードリンコはトビーのアイトラッキングシステムを購入し、2012年から活用。自動販売機での商品サンプルの陳列や商品パッケージ、テレビコマーシャルなどを改善し、着実に効果を出している。

 飲料売り上げの約半分をコーヒーの主力商品「ダイドーブレンド」が占めており、当初そのリニューアルで活用した。自動販売機で飲料を購入する顧客が、極めて短時間でどんな判断を下しているのか。インタビューやネット調査で浮き彫りにするのは難しかった。

 そこでアイトラッキングを導入して分析したところ、コーヒー缶のロゴや商品名を見た際に視線は下方向に流れやすいことが分かった。「微糖」の商品を訴求したかったので、文字を商品ロゴの右下に大きめに配置するように変更した。

ダイドードリンコは2012年にアイトラッキングを導入。自販機の陳列や商品パッケージの評価・改善に活用している(写真左)。テストの結果を受けて、訴求ポイントである「微糖」の文字をロゴの下に大きく示した
ダイドードリンコは2012年にアイトラッキングを導入。自販機の陳列や商品パッケージの評価・改善に活用している(写真左)。テストの結果を受けて、訴求ポイントである「微糖」の文字をロゴの下に大きく示した

 自動販売機では近づいてきた顧客がどこを見ているのかを分析したところ、一番下の段から眺めていることが分かった。一般的な店舗では左上から見るケースが多いとされるが、異なっていたのだ。またテレビCMについても、商品だけでなくタレントの顔が大きく映っている方が視聴者にしっかりと見られていることが分かった。

 同社はこうした結果を基に改善を重ね、商品リニューアルで2013年にかけて2~3割の売り上げ増を実現したとみられる。

 アイトラッキングの活用は同社の商品開発からマーケティングの一連のプロセスに根づいており、「主要商品のリニューアルの際には、可能な限りアイトラッキングシステムで確認している」(ダイドー)という。

 今年に入って調査中にタブレット端末の画面で視線を確認できるトビーの新たなシステムを導入した。従来はデータを取得後にPCで確認する必要があった。これにより「調査後に被験者に行うインタビューの精度を高めることができ、メリットを実感している」(同)。

Pepperを1000店配置するネスレ

 店頭における顧客の感情を知る、さらに興味を引くという点ではPepperを活用するアプローチが注目を集めている。

 例えば、ネスレ日本。Pepperを店頭における「ネスカフェ」のコーヒーマシンの販促に活用している。顧客が興味を持って近づいてきたら、製品の詳しい説明をしたり、クイズを出したりする。

「ネスカフェ」のコーヒーマシンを説明するPepper(ビックカメラ有楽町店)
「ネスカフェ」のコーヒーマシンを説明するPepper(ビックカメラ有楽町店)

 現時点で接触した顧客のデータを取得するのか、そして活用するのかといった点は未定だが、Pepperの投入で売り場での売り上げが1~2割増えているケースがあるという。現在約70店舗に配置しており、将来的には1000店舗規模まで拡大する。

 一方、中古車販売のガリバーは今年5月、独自に開発したアプリを入れたPepperを大規模商業施設の店頭に配置し、買い取り・査定の受け付けを担当させた。Pepperが来店客の名前や買取希望金額、希望売却時期などを、音声とタッチパネルを使ってヒアリングするものだが、従来は査定担当者が30分程度かけていた「買取希望金額」や「意思決定者」の聞き取りを3~5分で済ませることもできたという。

 今後、Pepperの感情認識機能を活用し、さらなる本音を聞き出すことを検討している。

 例えば、ウェブサイトで事前に入力してもらったデータを基に店舗で顧客に提案書を提示するサービスを検討中だが、その内容が的を射ているのかをPepperに確認してもらうといったことだ。

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