夏から秋にかけて、国内3大メガバンクグループのFintech専門組織の新設、改組が相次いだ。各グループとも社内外から多様な人材をそろえて40~50人規模、新サービス開発や有望な新興企業との連携を急ぐ。

 「専任は20人。中途採用が多く銀行業務だけでなくいろいろなスペックを備える人材をそろえた。20人を、調査や目利き、企画、戦略立案を担う『オープンイノベーション』、開発に取り組む『業務推進』の2グループに分ける。さらに銀行の各業務部門から兼務者20人、グループ各社から10人を加えた総勢50人で、世の中の変化を捉えてどういう新しい価値を提供していくか、どことアライアンスを組むか、決める」

 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)が10月1日に新設したITイノベーション推進部の陣容やミッションについて、部長の中山知章氏はこう説明する。

 SMFGでは既に2012年8月からグループ横断プロジェクトチームを立ち上げ、IBMの「Watson」によるコールセンター業務の品質向上や、ベンチャー投資・育成の米Plug and Play Tech Centerとのパートナーシップ契約による新技術の活用などに取り組んできた。

 ITイノベーション推進部は、従来の取り組みを引き継ぎつつ、外部知見の積極的な活用や異業種との提携による新しいビジネスモデルの追求、新しい金融サービスの企画立案から試作開発、実験・検証までのサイクルを迅速化する。

 「銀行のリテール部門にあるIT戦略室でモバイルベースのサービスを担っているので、ITイノベーション推進部はBtoBの領域でも新しい金融サービスなどを立案していく。プロジェクトチームの時から進めてきたが、いっぱい出てきたアイデアを実行するには、しっかりした組織を作りたかった」と、中山氏は話す。業務推進グループでサービスを試作して、素早く世の中に公開していく。失敗こそ糧になるとの考えだ。

 投入するサービスの詳細はまだ明らかではないが、「ペイメント関連が最初になる。かなりのコストがかかっている銀行口座の維持手数料を徴収できない以上、自分たちのペイメントネットワークを作って(収益を得て)いくしかない」(中山氏)と言う。「アップルペイ」「サムスンペイ」など、携帯電話メーカー、通信会社、ネット企業などが決済サービスを続々と投入し、個人顧客との接点を握ろうとしている。まずはこの領域に参入したいという思いがある。その後は、事業規模の大きな法人向けサービスの改革も見据える。

「ベンチャーの早さにかなわない」

 「我々の強みは、日々1600万人のアクティブユーザーに利用していただいている銀行口座。ビッグデータを活用して1600万人に役に立つサービスを提供したい。革新的創造や先端テクノロジー、目利き力を強みとする外部機関と手を組み、顧客サービス向上を図りたい。そのために『インキュベーションPT』を設置した」

 10月14日、みずほフィナンシャルグループ執行役副社長(代表執行役)の岡部俊胤氏は、Fintech分野での新サービス提供を目指すベンチャー企業、ITベンダーに熱く訴えかけた。同社がFintech分野で連携するNTTデータが開催するオープンイノベーションのイベント「豊洲の港から」の講演でのことだ。

Fintech専門組織を説明するみずほフィナンシャルグループの岡部俊胤・執行役副社長
Fintech専門組織を説明するみずほフィナンシャルグループの岡部俊胤・執行役副社長

 インキュベーションPTは、グループ全体で新規事業創出を加速する、ハブ的な役割を果たす。国内外のベンチャーやベンチャーキャピタル(VC)、ITベンダーとの関係を構築。先進的な技術の調査や知見を集積し、VCや個別ベンチャーへの投資方針の策定と対応を行う。

 若手中心に金融サービスの10年後の将来像を検討する「次世代リテールPT」(2013年4月開始)を含めてグループ横断で約50人の体制で取り組んでいる。大手ITベンダー出向者や大手米銀出向者、海外駐在経験者、理工系大学院卒(情報修士)など様々な経歴を持つ人材を集めた。

 講演後に岡部副社長は、「Fintechは顧客ニーズに応えていくことが先決であり、結果として差別化になる。Fintechで国内の先頭集団にいると認識しているが、まだこれからの段階。ベンチャー企業による意思決定の早さに全然かなわない。早め早めに手を打っていく」と力強く語った。

「自前主義の限界」でアイデア公募

 三菱UFJフィナンシャル・グループにも、デジタルイノベーション推進部というFintech組織がある。設立は今年7月。2000年7月設立のIT事業部を改組したもので、約40人の専任社員で固めた。行内対応や調査、オープンイノベーションを担当する企画グループ、主にリテール関連担当の第1グループ、法人や国際担当の第2グループがある。

 デジタルイノベーション推進部はいま、新サービスの開発に取り組んでいる。テーマは、「モバイルサービス」と「決済サービス」だ。三菱東京UFJ銀行は今年Fintechのアイデアコンテストを開催し、6月19日に最終審査を実施した。200以上の応募があり、受賞作などから絞り込んだ11のアイデアをベースに開発した新サービスを近々投入する。

 「時期は申し上げられないが、日を置かずに出す。2年後では一緒にやっている企業が逃げてしまう」とデジタルイノベーション推進部シニアアナリストの藤井達人氏は話す。

 なぜ三菱UFJがFintechコンテストを開いたのか。藤井氏は「自前主義の限界。スマホが普及するなか、顧客をつかまえるのは難しい時代になった。外部の長けた人たちのアイデアを活用したほうが早いと思った。我々とは見ている角度が違う。自分たちでは考えつかないアイデアが出た」と話す。

 ただし、「コンテストという形式からは破壊的なサービスは生まれない」(藤井氏)ともみる。「別なやり方でやっていかなければならない。世界では、インキュベーションをつくったり、どこかを買収したり、いろいろなやり方を試している。日本ではようやく今年からその動きが始まってきた」(同氏)。

 直近では、SMFGも着目するモバイルベースの手数料が安い決済や融資などの領域で対抗できるサービスを投入していくことになる。ただし、当然その先も見据えている。

 「急成長しているから注目されているが、Fintechベンチャーのポーションはまだまだ小さい。だが、キャズム(普及の臨界点)を超えると影響が出て、自分たちの領域を侵してくる。私見だが、悲観的なシナリオを描いて対処することになるだろう。ただし、根本的な変革は5~10年先になる。ビッグデータとアルゴリズム(機械学習など)によって、店舗の業務や融資のための審査といった銀行業務の非効率性は抜本的に変更されていく可能性がある」(藤井氏)。

 将来は、顧客の“立体化”を進める。住所や性別といった属性データだけでなく、顧客のビッグデータを機械学習で分析して融資判断に生かすようになるだろう。

3大メガバンクグループのFintech専門組織
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