今回の衆議院議員選挙では与党(自民・公明)が3分の2を超える313議席を獲得した。公示前には、自民の苦戦を伝える週刊誌の独自予測や専門家の分析が散見されたが、公示2日後の10月12日に新聞各社が電話調査にもとづき「与党で300議席」と報じて空気が一変した。これら一連の情勢報道から、メディアの選挙予測を検証する。

 序盤の報道では「300議席」が見出しとなったが、⾃⺠の280議席台や与党の310議席台はすでに予測されていた。これは驚きだった。また終盤にかけての希望の党の失速や、立憲民主党(立民)の躍進もおおむね反映しており、選挙結果に意外性を感じる有権者は少なかったはずだ。

 メディアの情勢報道には2つある。1つはどの政党に投票するかなどの質問への回答をそのまま発表するもの。もう1つは小選挙区ごとに算出する当選確率から見込める議席数と比例区の得票予測から議席数を算出するものだ。

 昨年の米大統領選挙ではクリントン氏優勢という情勢報道が批判されたが、実際にはクリントン氏の獲得票数がトランプ氏を上回っていた。調査結果から獲得議席や当選確率を予測するには、選挙制度特性や投票率など複雑な要因が絡んでおり、知識や経験だけでなくセンスや感度も必要だ。

 今回、予測担当者が苦心したのは、希望と立民を中心とするめまぐるしい状況変化を小選挙区の勝敗にどう織り込むかという点であった。

 実際には野党票が分散したことで自民候補が有利となり予想は楽になったようだ。短期間での有権者の意識変化はセンサー的な役割を果たすインターバルの短い調査が有効である。東京の有権者を対象に実施した新興報道ベンチャーであるJX通信社による調査は注目に値する。自動発信のオートコールを活用して多頻度で行っている。

 一方、過去の国政調査で検索データをもとに議席予測を発表してきた Yahoo! JAPAN の「ビッグデータ予測」は今回実施しなかった。リーダーであるヤフーの安宅和人氏はTwitterで「前例の全くない政党が多い」ことを理由としている。

 確かに検索ログに対応した実際の得票数という過去データがないと予測は困難だろう。今回の選挙で予測アルゴリズムに必要なデータが入手できたはずなので再挑戦を期待したい。

 また、出口調査にもとづき選挙特番で発表される議席予測は、すべてのテレビ局が自民を低めに算出したものの、希望や立民はほぼ予想通りの結果で、午後8時には与党の圧勝を伝えた。期日前投票の大幅な増加や台風が近づくなかでの調査運営はいつも以上に困難だったことを考えれば及第点だろう。

公示期間中に主な新聞社が発表した獲得議席数の予測
公示期間中に主な新聞社が発表した獲得議席数の予測
注:選挙公示後、1面での記事によるもの。毎日、朝日、産経は中央値、日経は「優勢」の議席数。毎日は10月16日に推定数を発表したが幅で提示したため、同12日の共同通信社の電話調査による記事を採用した。読売は数字の発表なし。

 情勢調査にしても、出口調査にしても、選挙区ごとに細かい定性情報や外部ネットワークからの情報を加味し、メディアの責任を持って実施する日本の選挙予測は、世界的にみても高い水準にあるといえる。

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