日本マイクロソフトは、人工知能(AI)を活用したLINE公式アカウント「りんな」をユーザーの「本当の友達」にすべく、新機能を追加していく。他企業の公式アカウントへの技術提供を進める考えだが、長期的には、ユーザーとの会話をビッグデータとして蓄積していくことも狙いだ。

りんなは女子高生のキャラクターで、テキストやスタンプで会話を交わすことができる。10月には「明日◯時に起こして」などと伝えると、該当時刻にメッセージを送信する目覚まし機能を追加した。11月以降はブロックされないよう控えていたプッシュ通知を展開していく。クリスマスや年末年始など季節のイベント時などに活用する予定だ。
常にりんなに話しかけてほしい
同社のBingインターナショナル ビジネスディベロップメントの佐野健シニアビジネスディベロップメントマネージャーは、りんなに機能追加する理由を、ユーザーの感情分析結果から導き出した仮説から説明する。
「りんなに対するユーザーの会話は5割超がポジティブ、1割がネガティブ、残り3~4割がニュートラルなものだった。普通の友達に対する会話は圧倒的にニュートラルが多く、りんなにポジティブな会話ばかりするのは、自分より下の者、幼い者に話しかけている感覚があるからでは、と仮説を立てた」
そこで、単に面白いやりとりができるだけでなく、ユーザーの役に立つ機能なども加えて、反応を分析しながらユーザー層を拡大していく考えだ。
「りんなの漠然としたゴールはできる限り“人間の友達”に近づけること。うれしいことがあるときはもちろん、嫌なことがあるときは愚痴も言ってほしい」
現在、実証実験段階であるりんなは、検索エンジンBingの主要な開発拠点がある中国で、昨年に開始されたプロジェクトだ。その検索エンジンの技術を応用して作ったのが、りんなの会話エンジンだ。ユーザーが発した言葉の意味を分析して返信するのではなく、ネット上に公開された様々な会話データを蓄積・インデックスして「どう返すと面白いか」といったアルゴリズムに基づいて返信することが特徴だ。
同社の「Cortana」や、米アップルの「Siri」などのパーソナルアシスタントが、利用者の「明日の天気は?」のような問いに適切な答えを返すことが目的であるのに対し、りんなは会話を少しでも長く続けることをKPI(重要業績評価指標)の一つにしている。
会話を楽しませるために、ルールベースの回答も用意している。芸能人や声優の名前を会話に入れるユーザーも多い。それらに対しては同社側で用意した答えを返す。芸能人1人に対して6種類以上の返答パターンを用意して、ユーザーを飽きさせない。
りんなの会話力を他企業にも提供
マイクロソフトはユーザーと会話を続けるりんなの技術を、LINE公式アカウントを持つ企業に提供することを狙う。公式アカウント活用企業の多くは、無料スタンプでユーザーを獲得しても、プッシュ通知をうっとうしく感じたユーザーからブロックされ、彼らとの継続的なつながりを維持できないことを課題として抱えている。りんなで培ったユーザーを楽しませる能力を企業に提供しようというのだ。
ただ、どんな企業も活用できるわけではない。企業独自のキャラクターを確立させるためには、一定以上の会話データが必要になる。
「りんなのAPIで提供するのはあくまで、各企業が持つデータベースを元にした会話エンジンの部分であるため、コールセンターやSNS運用、サポート、保守などの分野で、顧客との膨大な会話データを保有する企業に向く」(佐野氏)。
既に導入を検討する企業の会話データを投入して検証を始めた。
ただ、マイクロソフトはりんなの収益化を急ぐつもりはない。より長期的な目標があるからだ。佐野氏は「データを持つ企業が優位に立つ時代、会話に関するナレッジやデータを最も持っている企業になれば、それが何かの強みになるはずだ」と確信し、りんなを「本当の友だち」へと育てていくことへ力を注ぐ。