中古車などの事業者間取引支援のオークネット(東京都港区)のシステム開発子会社であるオークネット・アイビーエスは、深層学習(ディープラーニング)技術を使い、クルマの写真を30種類の部位別に自動分類するシステム「Konpeki(紺碧)」を開発した。学習途上ながら、11月にグループの中古車ディーラーのフレックス(東京都港区)が採用し、サイトなどへの情報登録業務を効率化させる。

 中古車ディーラーでは、仕入れた中古車の写真を多数撮影して自社サイトや情報サイトへ登録する作業がほぼ発生する。クルマの左斜め前・右斜め前、横からの右向き・左向き、後方、そして車内のフロントシートとリアシート、計器類が配置されたパネル、カーナビなど…。こうした写真を店員が手作業で整理すると5分程度はかかるという。

 Konpekiは店員が撮影した写真を登録すると、自動的に部位別に分類して、情報サイトへの登録を容易にする。外部は18種類、内部は12種類の部位に分類する。セール告知画像のようにクルマの画像を含むものの、クルマそのものではない画像は対象外へと振り分けることもできる。さらに、メーカー、車名、型式も特定して、平均的な販売価格帯も表示する。

オークネット・アイビーエスが開発した画像によるクルマの部位、型式判別システム「Konpeki」の画面
オークネット・アイビーエスが開発した画像によるクルマの部位、型式判別システム「Konpeki」の画面

 オークネットIBSは、親会社であるオークネットが運営する中古車ディーラー向けのオークションによる仕入れ、販売支援システムを開発、運営している。このシステムを利用するディーラーなどへ、本システムを販売していく。

 システムは、米グーグルの「Google Cloud Platform(GCP)」上で、深層学習ライブラリ「TensorFlow」を用いて大量の画像を学習させて開発している。

年間約500万台の中古車データを活用

 オークネットIBSが本システムを開発できたのは、これまでオークション取引に出品された大量の画像データを保有しているからだ。オークネットのプラットフォームには、年間で約500万台の中古車が出品されている。取引に利用されたものであるため、型式なども正確なデータが整っている。

 そうしたデータを学習させて、判別モデルを作成した。クラウドビジネス推進部統轄GMの黒柳為之氏は「クルマの部位を認識できるようにするには、各部位で最低50枚ほどの画像が必要になる」と説明する。識別する30部位に加えて内部的にはさらに10部位も識別しており合計40部位、つまり1型式当たり2000枚の画像が必要となる。

 さらに型式の特定はより多くの画像が必要になる。型式は右斜め前か左斜め前から撮った画像から特定する。自動車業界では最も定番の構図で、世の中に出回る画像数も多いからだ。この画像から型式を特定できるよう学習させるには、「右前、左前のどちらか、または両方で200枚の画像が必要になる」(黒柳氏)。自動車の画像を大量に持つ同社だから実現できる学習というわけだ。

 開発当初は半年間ほどかけて、コンパクトカーの画像を学習させて実証実験をした。そこで「ある程度いけることが分かった」(黒柳氏)ため、グループ会社であるフレックスへの導入へ向けて精度を上げていくことにした。

 最初の導入先がフレックスとなったのは、同社がグループ会社であることに加えて、ランドクルーザーとハイエースの専門店であることが理由だ。

 「2ブランド合わせても型式は130程度」(黒柳氏)のため、教師データとなる画像のボリュームを限定できる。試行錯誤を繰り返して精度を上げ、「各型式で学習用の画像が十分にあれば、型式を認識する精度は95%以上となり、十分実用的なレベルに達した」(黒柳氏)と自負する。フレックスで扱うランドクルーザーやハイエースの3割の型式では十分な画像数を確保できて精度は十分に高められた。残り7割も学習中で、データの確保が済めば十分な精度に達するという。

クルマの向きが識別できず悩む

 黒柳氏は、精度を効率良く上げていくには「自動化が重要だ」と言う。「GCP上で毎日の画像データを自動で吸い上げて学習させ、その結果、10%など認識率がしきい値以下だったり、前日より精度が低かったりする場合は、学習結果も元のデータも捨てる。人間が目視で見ていては精度は上がらない」。

 さらに、「(9月下旬にベータ公開されたグーグルの機械学習のプラットフォーム)Cloud Machine Learningをアルファ版の頃から使っている。130型式×40部位×平均30枚(精度を確保する50枚に達しない型式もあるため)で15万6000枚程度の画像の学習を100コア(台)同時並行で進めた。従来は28時間はかかっていたが20分くらいで学習できた」(黒柳氏)ことも学習を順調に進める要因となった。

 深層学習は入力と最終的な出力の間が見えにくいこともあり、ここに達するまでは障壁もあった。「最初はクルマが右向きなのか、左向きなのかがどうしても識別できなかった」(黒柳氏)と言う。

 グーグルにも相談をし、学習させる画像をモノクロにする、画像サイズを半分にするなど、3カ月間ぐらいさまざまな試行錯誤をした。最終的には「画像を90度に回転することで識別可能になった」(黒柳氏)と言う。

 今後は、コンパクトカーなどさまざまなクルマの画像も学習させて、型式を判別できる車種を増やし、フレックス以外のディーラーにも対応できるようにする。

中古車取引の活性化に貢献

 鈴木廣太郎社長は、本システムについて、「消費税が上がると自動車のCtoC(消費者間)取引が増えるといわれるが、写真を撮るだけで型式が特定でき、売買に必要なクルマの情報の8~9割が埋まれば入力が楽になる。今後の中古車流通の変化を見据えると必要なシステムだ」と意義を語る。

 黒柳氏も、「型式だけでなくオプション装備なども認識できるようになれば、ガソリンスタンド、ファミリーレストランなどで写真撮影をして、即中古車査定ができるようになる」といった活用法を描く。価格推定まで可能になれば、中古車取引活性化に大きく貢献する可能性がある。

 オークネットはブランド品オークション事業も手掛けており、深層学習を使った画像認識は真贋の判定などにも活用できる可能性があるという。

 なお、Konpekiは先進性が評価され、グーグルが9月に米サンフランシスコで開催したクラウド技術者向けイベントでも披露された。オークネットIBSは10月中に、Konpekiを一般公開して、同社の技術力と新たに活用を始めたビッグデータを幅広く訴求していきたい考えだ。

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