スターバックスコーヒージャパンは、ビッグデータ分析・活用の強化を進めている。9月にデータ分析を担当する「WEB/CRMグループ」を部に昇格させ、「デジタル戦略部」と改称した。データ分析を担う人材を新規に採用する。メールやスマートフォンアプリを通じた1to1マーケティングだけでなく、データに基づく店舗への施策提案も手掛けていく。
スターバックスは、会員組織「My Starbucks」を運営し、ロイヤル顧客が利用するプリペイドカード「My Starbucks Card」や、会員にクーポンを提供する「Starbucks eTicket」、オンラインでメッセージとドリンクギフトを贈れる「Starbucks eGift」、オンラインストアなどを通じて、顧客個別の購買データや施策への反応データを収集し、メールやスマートフォンアプリなどで新たな商品の購入などを働きかけてきた。My Starbucksの会員数は現在150万人、プリペイドカード会員は75万人に達している。
値引きクーポンを中心とする一般的な外食チェーンとは一線を画する1to1施策を展開する。デジタル戦略部部長の長見明氏は「LTV(顧客生涯価値)の向上には、RFM(Recency=最新購買日、Frequency=購買頻度、Monetary=累計購買金額)よりも『体験の幅を広げる』ことを重視している」と説明する。
例えばドリップコーヒー単体でしか注文しない顧客に、食べ合わせの良い食品を紹介することで、「味覚体験の幅が広がり、嗜好品としての価値も向上する」(長見氏)。値引きクーポンで来店頻度や顧客単価を上げるより、味覚や店舗体験の幅を広げて、その結果として来店頻度などが上がる方がロイヤルティ向上に結びつき、長期間にわたり効果を発揮すると考えている。
「必ずしも1to1施策が効果的だとは思っていない」
その一方で「データの活用法において、必ずしも1to1施策が効果的だとは思っていない」と長見氏は明かす。ネットの会員は150万人に達するとは言え、1000店以上のスターバックス店舗の来店客すべてに働きかけられるわけではない。一部の顧客の購買データ分析で得た知見を、すべての店舗での施策に生かした方が効果が高いと考える。
昨年春から一部店舗で顧客の属性・購買傾向を分析して、店舗別に特徴を見いだし、有効とみられる施策の提案を始めた。例えば、特定商品のサンプリングはいつ実施したら効果的かなどの提案ができるという。今年からは分析範囲を全店舗に拡大。昨年までの施策の検証結果を踏まえてノウハウの蓄積を進めている。
長見氏がWEB/CRMグループに加わった2008年以降、その人員体制は2人から18人に大幅に増えた。WEBチーム、SNSチーム、オンラインストアチーム、カードオペレーションチーム、CRMチームの5チーム構成。「システムにも分析にも精通している人材が3~4人いる」(長見氏)が、1to1マーケティングや店舗への提案力を強化するために、データ分析・活用ができる人材の採用活動を始めている。「ビジネス自体がデジタル化する今、データ分析に加えて事業開発の能力を持つ人材を求めている」(長見氏)と言う。
スターバックスコーヒージャパンは2014年12月に米スターバックスの完全子会社となっている。ただ、日本と米国ではスターバックスの市場環境が異なり、日本独自の会員制度を採用してCRM(顧客関係管理)施策を展開している。一方で、米スターバックスではCDO(最高デジタル責任者)を設け、モバイル、モバイル決済、カード、ロイヤルティプログラム、EC、店内Wi-Fiサービスと連携した映像配信などのデジタルビジネスを経営レベルでリードしている。