家庭にAIが入ってきた──ロボット掃除機に、AIエアコンやAIスピーカーなどの発売が続く。生活環境データはスマートホーム構築の礎となり、キラーアプリが待たれる。

 大和ハウス工業では、既存のIoT機器やWebサービス、建物内に設置したデータ収集サーバーを連携。これらの機器とサービスを統合するシステムを構築している。同社総合技術研究所工業化建築技術センター建築系技術開発2グループ主任研究員の吉田博之氏は、今回のモニター実証についてこう話す。

 「当社は2000年以前からスマートホームのプロジェクトに取り組んできた。2009年には『スマートハウス実証プロジェクト』にも参加したが、当時は情報基盤を整備するのが技術的にもコスト的にも難しく苦労した。今回の実証では、既存のクラウドサービスやデバイス連携ツール、廉価で信頼性の高い無線ネットワーク、音声応答ロボットなどが使えるので、コストをかけずに情報基盤の環境整備ができるようになった」

 実際、連携の中心となるサーバーには、IoT機器との通信や機械学習アルゴリズムなど多様な機能を利用できる米アマゾンウェブサービスのクラウドサービス「AWS(Amazon Web Services)」を活用している。初期投資コストを抑え、利用者数に応じた柔軟なシステム運用を可能にしている。

シャープによる家の状態やサービスの内容を知らせるためのUIの整備
シャープによる家の状態やサービスの内容を知らせるためのUIの整備

 複数の機能を組み合わせた自動化・カスタマイズを行うことができる。例えば、温度センサーとエアコン、電動窓を連動させて暑い夜の寝苦しさを解消するようなサービスが簡単に実現できる。

 操作手段は、タッチパネル式に加えて、音声応答による操作も使える。また、多種多様なIoT機器やWebサービスとの接続には、ヤフーのIoTプラットフォーム「myThings Developers」を活用している。

 吉田氏は「今回の実証の情報基盤でポイントになるのは統合WebAPIだ。これを活用して音声認識ロボットやスマホでエアコンを制御している」と話す。

家も遠隔監視で効率化

 今回の実証事業で取得しているデータは、ルーター兼スマートメーター用アダプターのインターネット接続状況や通信エラー発生状況、クラウドサーバーの接続端末からの操作履歴や接続機器の状況、エアコンやLED照明の遠隔操作履歴などだ。取得したデータは、システム稼働状況の遠隔監視や遠隔メンテナンス、各種機器の稼働状況の遠隔監視などに使う。

経産省のスマートホーム実証実験で取得するデータとその目的
経産省のスマートホーム実証実験で取得するデータとその目的

 「スマートホームのキラーコンテンツは何か、議論になるが、なかなか見つからないというのが正直なところだ。しかし、今のスマートホームは遠隔監視や問い合わせの自動応答などが簡単にできるので、コールセンターやメンテナンスなど企業が抱えるバックヤードのコストを大きく削減できる可能性がある。それだけでも導入する価値は十分にある」と、吉田氏は強調する。

 工場では様々な生産機器などにセンサーを付けて、遠隔監視でデータを収集、分析することで、異常検知や予防保全を実現する取り組みが広がっている。故障した場合もその原因を事前に把握し、必要な部品を持って修理に向かうことで、工場側にとってはダウンタイムの短縮や運用コスト削減、生産設備などのメーカーにとっても運用コストの削減や継続利用の促進というメリットをもたらし始めている。スマートホームの普及により、工場同様のメリットを居住者と住宅メーカーや家電メーカーにもたらす可能性を秘める。

 現在、茨城県つくば市内の大和ハウスが手掛けた戸建て住宅30世帯に開発したシステムを設置して、モニター実証を行っている。30代後半から40代前半にかけての家庭が中心だという。

 モニター実証は段階的に進み、各種規約への合意を得た後、アプリを使って音声応答ロボットやLED照明などを操作してもらうのが第1ステップ。10月以降の第2ステップでは、スマホの統合操作画面でのサービスを体験してもらう。気象情報の確認やエアコンの遠隔操作などができるスマホ画面を使う。機能や操作の利便性などを評価する。

 11月以降の第3ステップでは、音声による機器操作を体験してもらう。ユカイ工学(東京都新宿区)の音声応答ロボット「BOCCO」やシャープのホームアシスタントを使い、音声によるエアコン操作、生活情報配信を体験する。音声による操作・情報通知機能の利便性を評価してもらい、普及に向けた課題を洗い出す。来年1月の第4ステップでは、アンケートでサービス体験を通じた感想を回答してもらう。

2年でキラーコンテンツ探す

 集合住宅実証は、比較的家賃が高い都心の賃貸住宅で実施している。単身か2人住まいの世帯が中心。家賃でいうと高い住宅で月額20万円ぐらい、家賃補助をもらって会社の近くに住んでおり、自転車での通勤も可能な世帯が多いという。

 戸建て住宅実証とはモニターの属性は違うものの、取得するデータやその分析、スマホのほかにシャープの音声応答ホームアシスタントを使う点など、共通点もあるようだ。コンソーシアム代表を務める積水ハウスの執行役員技術業務部長の雨宮豊氏はこう話す。

 「住まい手に求められるスマートホーム像にたどりつくまでに、あと2年はかかるだろう。現在のスマートホームは過渡期。実証実験は始まったばかりだが、今回は実際に住んでいらっしゃる方を対象に実証するので意義がある。失敗を積み重ねていかないと本当にスマートなホームはできない」

 積水ハウスとしては、家のことをよく知る住宅メーカーがスマートホームのプラットフォームを構築していきたいという狙いがある。今回の実証では、積水ハウスのクラウドと家電メーカーなどのクラウドを連携させる。居住者に必要なデータを積水ハウスのクラウドにためて、価値のあるサービスを提供できる体制にすることを目指す。

 雨宮氏は「今回はクラウド連携がポイントだ。重要なのは住まい手にとって価値のあるサービス。その実現のために他社と連携する」と話す。

 積水ハウスとしては、「暮らし」を提供するサービス会社になっていく構想がある。居住者のデータを集めて分析し、そこに住む家族が快適に感じるような家電の制御情報をクラウドに上げていく。今は若い人を中心に、ライフステージの変化に応じて便利なところに移り住んでいくことが増えているが、新しい住まいでも、その人が以前の住居同様に快適な生活を送れるようにサポートするのだ。

 クラウド、IoT通信、センサーなどITインフラは安価になり環境は整った。一方で、グーグルやアマゾンもAIスピーカーを軸に様々な家電や住宅設備と連携し、プラットフォームの構築を狙うだろう。日本企業が独自のキラーアプリを生み出してスマートホームの世界で存在感を示せるのか、残された時間は短い。

この記事をいいね!する