家庭にAIが入ってきた──ロボット掃除機に、AIエアコンやAIスピーカーなどの発売が続く。生活環境データはスマートホーム構築の礎となり、キラーアプリが待たれる。

シャープによる家の状態やサービスの内容を知らせるためのUIの整備
シャープによる家の状態やサービスの内容を知らせるためのUIの整備

 大阪府八尾市にあるシャープ八尾事業所内に、2階建ての一戸建てがある。普通の住宅と違うのは、テレビから冷蔵庫、エアコン、電子調理器、洗濯乾燥機はすべてシャープ製AI家電。その多くはクラウドにつながっている。電子錠など、シャープが手掛けていない住設機器などは他社製を使っている。

 この住宅は、シャープが目指すスマートホームの開発に欠かせない実証実験場である。ユーザーインターフェース(UI)としては、音声と表示の両方を使う。音声UIは気付きを与え、表示UIは音声UIと連携して詳細を知らせる。

 音声UIの1つとして、シャープが開発したホームアシスタントをテレビの横に置いている。まだ試作機だが、他社製品であってもテレビやエアコンをつけたり、消したりできる。また、住んでいる人の好みに合った商品を案内し、利用者が気になれば商品の詳細をテレビ画面で確認できるような利用イメージだ。

 シャープのクラウドはAIoTオープンプラットフォーム。必要に応じて他社とアライアンスを組み、他社のクラウドにWeb APIを通じてつなぐことができる。住んでいる人の要望に応じて、他社が提供するサービスも使える新しい仕組みを整備しようとしている。

音声応答はスマートホームのUI

 スマートホームのUIの1つとして、音声応答は大きな可能性を秘める。2014年、米アマゾン・ドット・コムがAIスピーカー「Amazon Echo」を発表。昨年、米グーグルが「Google Home」というAIスピーカーを発売した。

 9月にドイツで開催された欧州最大の家電見本市「IFA2017」では、パナソニックやソニーなどが、グーグルの会話型エージェント「Google アシスタント」に対応したAIスピーカーを発表した。パナソニック アプライアンス社ホームエンターテインメント事業部オーディオ・ネットワークビジネスユニット商品企画部の大山岳洋部長は、開発の狙いをこう話す。

 「まず、欧州で発売する。若いファミリーなどをターゲットにしており、欧州で好まれるデザインにした。AIスピーカーがユーザーの語りかけに応じて音楽を提案するので、新しい音楽との出会いが毎日起きる。対応するストリーミングサービスの楽曲数は4000万曲もあり、何を聴いたらいいか分からないので、一方通行ではなくAIスピーカーとの対話を通じてレコメンデーションしてくれるというのは今までにない価値だ」

 パナソニックがAIスピーカーを手掛ける理由として、どう簡単にオーディオを使ってもらうか、日々の生活に音楽を取り入れてもらうかがある。その1つの答えが音声認識・音声応答のシステムの採用だった。住宅事業も手掛けているパナソニックは、UIとして音声認識・音声応答に注目している。AIスピーカーも、秘書機能が進化していくと、スケジュール管理やショッピングなどもできるようになる。スマートホームの有力な音声UIになり得る。

パナソニックがGoogleを選んだ理由

 なぜGoogle アシスタントを選んだのか。パナソニック アプライアンス社技術本部イノベーティブ・エンターテインメント開発センターの大津隆史所長は、こう説明する。

 「グーグルの(Google アシスタントから操作できる音楽サービスの)Chromecast Audioは、対応しているストリーミングサービスの種類が多く、アマゾンはその対応が少ないので、グーグル技術を採用した。また、グーグルは複数スピーカーによるマルチルーム再生ができるが、(取材時時点で)アマゾンは対応していない点も選択理由の1つだった」

 ただ、「もっとも、グーグルだけに固執しているわけではない」(大津氏)と念を押す。

 パナソニックのAIスピーカーは、欧州を中心に、Google Homeを展開している米国、カナダ、オーストラリアなどの販売も検討していくもよう。まだ未定だが、日本でも販売される可能性はある。

 ちなみに日本では、LINEが今年8月からAIスピーカー「WAVE(ウェーブ)」の先行体験版を出荷した。WAVEには、LINEが開発したクラウドAIプラットフォーム「Clova」を搭載している。

 WAVE先行体験版では、音楽再生ができるほか、「何か音楽を再生して」「今日の天気を教えて」といった簡単な対話や天気予報、アラーム設定などが、WAVEとの音声でのやり取りでできる。音楽配信サービス「LINE MUSIC」が6カ月セットになっており、4000万曲以上の楽曲を聴くことができるという。今秋発売の正式版の価格は1万5000円となる。

家電は7兆円、家事は100兆円

 これまで民間企業によるAI家電への取り組みについて見てきたが、経済産業省など国もこの分野を成長戦略の一環として重視している。経産省が8月31日に発表した「Connected Industries(CI)」第3回懇談会資料には、CIの重点分野として「自動走行・モビリティサービス」「ものづくり・ロボティクス」「バイオ・素材」「プラント・インフラ保安」と並んで「スマートライフ(ホーム)」を挙げている。これら5つの重点分野は、「市場成長性、我が国の産業が有する強み、社会的意義の大きさによって絞り込み、取り組みの加速化と政策資源の集中投入を図ってはどうか」と提案している。

 スマートライフについては、解決すべき課題として「少子高齢化が進むなかで人手不足などの社会課題への対応が求められており、家事などの無償労働をスマートライフ市場が代替することで、働き手(労働時間)を創出していくことが必要。なお、家電市場は約7兆円だが、家事市場は約100兆円の試算あり」と記している。ちなみに、家事市場約100兆円は、内閣府が行った2011年時点の試算だ(同府の「家事活動等の評価について」から)。

 AI家電も生活環境にまつわる大量のデータを生みだし、スマートホームを構成する重要な要素となる。

 経産省の担当者は「省エネを軸にした電力の見える化などは、一部で機器のネットワーク化やサービスが動き出しているが極めて限定的。ライフデータを有効活用した、生活者にとって価値のあるサービス(キラーコンテンツ)を提供していく必要がある。そのための環境整備が重要であり、国としてはデータ連携、セキュリティ、製品安全、プライバシーに関するガイドラインを策定していく」と話す。

 環境整備の一環とガイドライン作りのために、モニター実証が始まった。今春から、戸建て住宅実証、集合住宅実証、サービス実証の3つのコンソーシアムが立ち上がって実証に取り組んでいる。戸建て住宅実証のコンソーシアム代表は大和ハウス工業、集合住宅実証のコンソーシアム代表は積水ハウス、サービスとUI、機器とサービス連携実証のコンソーシアム代表は日立製作所が務める。

 今回のモニター実証は、経産省「平成28年度補正IoTを活用した社会システム整備事業(スマートホームに関するデータ活用環境整備準備事業)」を受託した三菱総合研究所が、コンソーシアム代表の3社に再委託したものだ。

人に役立つ家庭用ロボットでトップ目指す
アイロボットジャパン マーケティング部部長の山田毅氏
アイロボットジャパン マーケティング部部長の山田毅氏

 15年前に「ルンバ」を発売し、ロボット掃除機市場を創出した米アイロボット。9月17日、ルンバシリーズや床拭きロボット「ブラーバ」シリーズなどのアイロボットの家庭用ロボットは累計販売台数が世界で2000万台を突破したと発表した。日本国内では昨年11月、ルンバ単体での累計販売台数が200万台を突破。今年4月に創業した日本法人アイロボットジャパン マーケティング部部長の山田毅氏に話を聞いた。

 国内におけるルンバの販売は好調に推移している。昨年から再び2桁成長になっている。国内でのルンバの売れ筋は、最上位の「900シリーズ」。カメラセンサーを搭載することで、一筆書きの走行ができるようになり、効率的にしっかり掃除が可能になった。カメラとその他のセンサーを使ってマップ情報を作ることによって、部屋の大きさを把握できるようになった。しかも、現時点の清掃履歴が、スマートフォンに表示される地図で確認できる。

 日本は米国に次いで2番目に大きな市場。だから日本を意識してアジア向けにブラーバを商品化した。大きなゴミはルンバ、目に見えないゴミはブラーバという役割分担で併用している人が多い。

 国内におけるロボット掃除機の世帯普及率は約4%。まだまだ成長の余地があり、数年で10%にしたいと考えている。

他の機器と部屋マップを共有へ

 ロボット掃除機に求められる機能の1つとして音声ユーザーインターフェースがある。米国では、米アマゾン・ドット・コムの「Amazon Echo」に話しかけると、ルンバが掃除をしてくれる。

 900シリーズはカメラセンサーの搭載によってマップ情報を作れるようになったことは述べたが、マップ上でどの空間がキッチンや寝室なのか、ユーザーが定義できるようになれば、そのマップ情報を使ってほかのIoT機器と情報を共有する世界を作っていきたい。ただし、あくまで将来の構想だ。

 米国本社の研究所では、スマートホームの開発に力を入れており、日本よりも進んでいる。一昨年、軍事用ロボットの開発部門は売却し、人の役に立つ家庭用ロボットに集中するという決断を下した。現状で実用的なロボットが少ないように感じる。アイロボットは、どうやったら役に立てるか、日々追究している。家庭用ロボットで世界ナンバーワンを目指している。(談)

※特集(3)「WebAPIで操作を統合、集合住宅は都心で実験」へ続きます。

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